医師偏在対策の1つ「医師少数区域の勤務を将来の病院長要件とする」仕組みをどう見るか—地域医療構想・医療計画検討会(2)
2025.12.17.(水)
医師偏在対策の一環として、「医師少数区域での一定期間勤務を将来の病院長要件とする」仕組みを来年(2026年)4月から拡充するが、「若手医師は院長になる意欲が少なく、逆インセンティブになってしまう」との指摘を踏まえて、拡充内容を一部緩和してはどうか―。
外来医師がとても多い地域で新規開業するクリニックに対し、地域で不足する機能(夜間救急の初期対応など)を果たすことを要請し、それに従わない場合に一定のペナルティをかける仕組みが来年(2026年)4月からスタートする(対象は2026年10月以降に新規開業するクリニック)が、その詳細をどう考えるか―。
12月12日に開催された「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」(以下、検討会)では、こういった議論も行われています(同日の急性期拠点機能、高齢者救急・地域急性期機能に関する議論の記事はこちら)。
医師少数区域での勤務を認定する仕組み、「臨床研修病院での指導医経験」なども勘案
検討会では、「新地域医療構想策定ガイドライン」論議とともに、「医師偏在対策の推進」方策なども検討しています(関連記事はこちら)。
医師偏在対策については、昨年(2024年)末に「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」(以下、パッケージ)が取りまとめられ、「医療法改正案」にその内容が盛り込まれました。
●「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」はこちら(本体)とこちら(概要)
改正医療法の成立を受け、パッケージに盛り込まれた各偏在対策の施行に向けた準備(省令や告示、通知等の整備)が必要となるため、検討会で細部の議論を急ピッチで進めていくことになります(関連記事はこちら)。

改正医療法(社保審・医療部会3 251208)
12月12日の検討会では、パッケージに盛り込まれた各種偏在対策のうち(1)医師少数区域等の勤務経験を求める管理者要件(2)外来医師過多区域における新規開業希望者への要請等—の2点を議題としました。
前者(1)は、「医師少数区域等での勤務経験」を認定し、この認定を将来の「医療機関の管理者(つまり院長)の要件とする」仕組みを拡充するものです。
具体的には、次のような拡充が行われます(関連記事はこちら)。
▽管理者(院長等)要件として「医師少数区域等での勤務経験」を求める医療機関について、現行の「地域医療支援病院」(約700病院)に、「医療法第31条で医師の確保に関する事項の実施に協力することなどが求められている公的医療機関や国立病院機構・地域医療機能推進機構等の病院」を追加する(全体で約1600病院となる)
→「医師少数区域等に所在する医療機関の管理者となる場合は対象から除外する」、「地域医療対策協議会で調整された医師派遣の期間、地域医療対策協議会で認められた管理者に求められる幅広い経験の機会となる期間(例えば大学病院等の医育機関で医療従事者等の指導等に従事した期間等)の一部を勤務経験期間として認める」などの緩和措置を設ける
▽勤務経験期間を「1年以上」に延長する
→医師免許取得後9年以上の医師では「断続的な勤務日」の積み上げも可とする
→9年未満医師では「最初の6か月以上の勤務は原則1か月以上の連続勤務の積み上げ、残りの期間は断続的な勤務日の積み上げ」も可とする
11月14日の会合でより具体的な内容案が示されましたが、「院長の成り手が減っている。かえって逆インセンティブになってしまわないか」「院長になりたくないので医師少数区域には行きませんという若手医師が増えてしまわないか」という心配の声が医療現場から出ています(関連記事は(関連記事はこちら)。
こうした声を踏まえて厚労省は、今般、「拡充の緩和案」を提示しました。具体的には「6か月以上医師少数区域等で勤務する」との規定の中に、「医師少数区域等以外の区域の臨床研修病院等で指導医として勤務している場合も6か月以内に限りカウント可とする」との考えを盛り込むものです。「院長には、多くの職種を束ねるリーダーシップが求められる」といった声を重視した緩和案と言えます。

医師少数区域での勤務を認定する仕組みの拡充(地域医療構想・医療計画検討会(2)13 251212)
この緩和案について反対意見はありませんが、「指導医の要件などを明確化してほしい」(望月泉構成員:全国自治体病院協議会会長)、「医師少数区域で勤務する若手医師が増えるような方策を継続検討してほしい」(猪口正孝構成員:全日本病院協会副会長)—などの注文がついています。
来年(2026年)4月の改正法施行に向けて、厚生労働省において準備が進められます。
外来医師がとても多い地域での新規クリニック開業に一定の抑制をかける
(2)は、外来医師が非常に多い(過多)地域で新規開業する場合に「地域で不足する機能」実施を求め、それに従わない場合には一定のペナルティを与えるものです。
既に現在でも「外来医師が多い地域(外来偏在指標が上位3分の1の地域)での新規開業にあたっては、地域で不足する機能を要請する」仕組みが存在しますが、こうした要請を行っていない都道府県も6地域存在するなど実効性が疑問視されていました。

外来医師多数区域での対応は十分進んでいない(地域医療構想・医療計画検討会(2)1 251212)
そこでパッケージ・改正医療法には、新たに次のような「外来医師『過多』区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請」を行える仕組みが盛り込まれました。現在の仕組みよりも一段「厳しい」内容(要請に従わない場合には一定のペナルティを課す)となっています。
▽都道府県から、外来医師が極めて多い地域(外来医師過多区域、例えば外来医師偏在指標が標準偏差の数倍超の地域)などで新規にクリニックを開業する者に対し、医療法に基づき「開業6か月前」に、提供する予定の医療機能等の届け出を求めた上で、当該届け出内容等を踏まえて、▼地域の「外来医療の協議の場」への参加を求める▼「地域で不足している医療機能」(夜間・休日等の初期救急、在宅医療、公衆衛生等)の提供や「医師不足地域での医療提供」(土日の代替医師としての従事等)を要請する—ことを可能とする
▽▼外来医師過多区域▼地域で不足する医療機能▼医師不足地域での医療提供内容—は、事前に公表する
▽要請にも関わらず「地域で不足している医療機能提供」「医師不足地域での医療提供」を行わない開業者に対し、都道府県医療審議会での理由等説明を求めた上で、やむを得ない理由がない場合には都道府県が「勧告」「公表」を行うことを可能とする
▽開業前に要請された診療所が要請後に保険医療機関の指定を受けた場合は、保険医療機関の指定期間を6年でなく3年とする(関連記事はこちら)
→都道府県は、3年後の更新前に「地域で不足している医療機能提供」「医師不足地域での医療提供」状況を確認し、必要に応じて「勧告」を行う。この場合、保険医療機関の指定期間は、さらに3年よりも短い期間とすることを可能とする(厚生労働大臣が事前に標準的な期間を示す)
▽都道府県医療審議会や外来医療の協議の場への毎年1回の参加を求めるとともに、要請・勧告を受けたことの公表、勧告に従わない医療機関の公表、保健所等による確認、診療報酬上の対応、補助金の不交付等を行う
▽通常の「外来医師多数区域」等や「新規開業クリニック『以外』の者」は、これまでのどおりのガイドラインによる「地域で必要な医療機能提供」要請を進める

「外来医師過多区域(外来医師多数区域の中でも、とりわけ医師が多い地域)において、新規クリニック開業希望者に『地域で不足する医療機能』提供を要請」する際の、実効性を確保するための「保険医療機関指定」の在り方(社保審・医療保険部会1 241219)
厚生労働省は改正医療法の成立を受け、この新たな仕組みの詳細案を提示し、検討会に議論を要請しています。
【外来医師「過多」区域の設定等】
▽「外来医師偏在指標が全国平均値+標準偏差の1.5倍以上」かつ「可住地面積あたり診療所数が上位10%」の地域を基準とし、当該基準に該当する2次医療圏を国が候補区域として提示する
・「外来医師偏在指標が全国平均値+標準偏差の1.5倍以上」の地域は22医療圏ある
・「可住地面積あたり診療所数が上位10%」の地域では、在宅当番医体制へ参加クリニックや夜間救急に対応する診療所するクリニックの割合が低い(地域で不足する機能が相当程度あるものと推測される)
▽都道府県が、候補区域のうち「外来医師が特に多い地域」指定する(候補区域の中に「人口あたり医師数」や「可住地面積あたり診療所数」などが特に高い市区町村、地区を指定することなどがある場合には、当該市区町村や当該地区を指定することも考えられる)

新たな仕組み(外来医師過多区域の指定等)(地域医療構想・医療計画検討会(2)2 251212)

外来医師偏在指標の状況(地域医療構想・医療計画検討会(2)3 251212)

可住面積当たりクリニック数と在宅当番医体制参加割合との関係(地域医療構想・医療計画検討会(2)4 251212)

可住面積当たりクリニック数と夜間救急対応割合との関係(地域医療構想・医療計画検討会(2)5 251212)
【地域で不足する医療機能、医師不足地域での医療提供の内容】
▽国の示すガイドラインで「地域で不足する医療機能、医師不足地域での医療提供の例」を例えば以下のように提示する。今後、かかりつけ医機能報告のデータ等を踏まえ、必要に応じて追加を検討する
・夜間や休日等における地域の初期救急医療の提供(夜間・休日等の診療、在宅当番医制度への参加、夜間休日急患センターへの出務、2次救急医療機関の救急外来への出務等)
・在宅医療の提供(提供が不足している地域がある場合)
・学校医・予防接種等の公衆衛生に係る医療
・医師不足地域での医療の提供(土日の代替医師としての診療等)
▽都道府県において、外来医療の協議の場でガイドラインの内容を踏まえ、「自地域で不足する医療機能、医師不足地域での医療の提供の内容」を協議し、公表する
▽ガイドラインには、以下の内容も記載する
・外来医療提供の要請内容として「1つ、かつ特定の診療科のみとする」ことは想定していない(例えば「小児科の医療提供」のみを要請すると、小児科以外の診療科が開業する場合に、要請された医療の提供ができない恐れがある。このため、特定の診療科を要請する場合は、「初期救急医療の提供や在宅医療の提供といった他の要請内容と併せて、例えば小児科の医療提供」等とすることが考えられる)
・地域で不足する医療機能等を協議する際に、かかりつけ医機能報告のデータ、各項目の全国値との比較、医療計画の指標、各都道府県による医療機関への独自アンケート等を参考にすることが望ましい
・医師不足地域での医療提供を要請する場合は、都道府県は「県内外の特定の重点医師偏在対策支援区域や医師少数区域・医師少数スポットを指定し、指定した区域で不足している医療を提供する」よう求める、「特定の区域を指定せず、県内・近隣県の重点医師偏在対策支援区域や医師少数区域・医師少数スポットで不足している医療を提供する」よう求める。あわせて全国マッチング支援への登録を求める

新たな仕組み(地域で不足している医療機能等)(地域医療構想・医療計画検討会(2)6 251212)
【新規開業希望者の事前届出事項】
▽開業6か月前の事前届出の記載事項は、以下のとおりとする(医療法第8条の開設届出事項は省略)
・地域外来医療の提供に関する意向
・地域外来医療を提供する意向がある場合、提供する予定の地域外来医療の内容(当該提供の頻度および時期に関する事項を含む)
・地域外来医療を提供しない場合は、その理由
【事前届出義務の猶予対象となる場合】
▽親が開設していた診療所を、親の死亡で子が急遽承継する場合等、予期せず前任の開設者が不在となり、事業承継が必要となった場合とする
【事前届出のフロー】
▽下図のとおりとする

新たな仕組み(事前届出等1)(地域医療構想・医療計画検討会(2)7 251212)

新たな仕組み(事前届出等2)(地域医療構想・医療計画検討会(2)8 251212)
【協議の場】
▽協議の場への参加を求める対象者は、「事前届出をした者」「事前届出義務があるが事前届出を行わなかった者」などとする
▽協議の場では、新規開業希望者に対し「地域外来医療の提供をしない理由」「当該診療所で提供する予定の医療の具体的な内容」の説明を求めることを可能とする
▽協議の場は、原則として対面またはオンラインで開催し、やむを得ない場合は「持ち回り開催」「書面による開催」も可能とする
▽協議の場は、少なくとも「3か月に1回開催」する(届出内容の確認、地域外来医療の要請(1-2週間の期限)、厚生局への通知、保険医療機関の指定の期間が必要なため)

新たな仕組み(協議の場1)(地域医療構想・医療計画検討会(2)9 251212)

新たな仕組み(協議の場2)(地域医療構想・医療計画検討会(2)10 251212)
【要請・勧告】
▽「要請に従わない場合は保険医療期間の指定期間が短縮されることがある」旨を付記した上で、1-2週間程度の回答期限を定めて要請を行う
▽「期限内に回答がない場合」「地域外来医療を提供する意向ありと回答しない場合」は、要請に応じないものとして都道府県医療審議会への出席の求め、厚生局への通知を行う(→保険医療機関の指定期間の短縮)
▽地域外来医療を提供しない「やむを得ない理由」(要請・勧告を行わない場合)は個別に判断するが、例えば「夜間・休日の初期救急対応が求められているが、1人クリニックである」場合などが考えられる
▽都道府県は、要請を行ったクリニックを対象に「年1回程度、要請・勧告内容の実施状況(地域外来医療の提供状況)を確認」する
▽要請・勧告に応じなかったクリニックが「後に要請・勧告に応じて地域外来医療を提供している」場合、保険医療機関の次回の指定期間は通常どおり6年とする
▽外来医師過多区域における要請、勧告の状況等について、国が都道府県に対して毎年報告を求める

新たな仕組み(要請・勧告)(地域医療構想・医療計画検討会(2)11 251212)
【保険医療機関の指定期間短縮】
▽保険医療機関の指定期間(通常は6年)を3年以下とする場合の標準的な期間は次のとおりとする
・「要請を受けて期限までに応じなかった」「勧告を受けた」「保険医療機関の再指定時に勧告に従わない状態が続いた(2度目の指定)」場合には3年とする
・「保険医療機関の再々指定時以降に、勧告に従わない状態が続いた場合」(3度目の指定以降)には2年とする
▽医療機能情報提供制度(ナビイ)において、「外来医師過多区域で2026年10月以降に開設した無床クリニックの、地域外来医療の提供の有無・内容、医療法による要請・勧告の有無」を項目として追加する

新たな仕組み(保険指定短縮)(地域医療構想・医療計画検討会(2)12 251212)
こうした内容に特段の反対意見は出ていませんが、構成員からは▼新たな仕組みで効果が不十分な場合には「さらなる厳しい対応」を検討すべき。このためにも定期的な検証をしっかり行ってほしい(川又竹男構成員:全国健康保険協会理事)▼外来医師過多区域の指定に当たっては、地域の医師会等と十分な協議・調整を行ってほしい(坂本泰三構成員:日本医師会常任理事)▼外来医師多数区域の対象が狭すぎることのないように、十分にシミュレーションを行ってほしい(土居丈朗構成員:慶應義塾大学経済学部教授)▼要請・勧告に従わないクリニックには、経済的ディスインセンティブ(例えば診療報酬の減額などが考えられる)もしっかり検討してほしい(伊藤悦郎構成員:健康保険組合連合会常務理事)▼地域で不足する機能への対応は「すでに当該地域にあるクリニック」に依頼し、新規開業は別の地域(外来医師過多でない地域)で行ってもらうことも検討すべき(岡俊明構成員:日本病院会副会長)—などの注文がついています。
意見を精査して上記の内容を調整し、さらに検討会で「外来医師『過多』区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請を行える仕組み」の詳細を詰めていきます。
この仕組みも来年(2026年)4月に施行(したがって2026年10月以降に新規開業するクリニックが対象となる)されるため、急ピッチで議論が進められます。
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2040年頃見据えた新地域医療構想、病院の主体的な動き(機能転換など)が必要な分野について「何が必要か」の深堀りを—新地域医療構想検討会
2040年頃見据えた新地域医療構想、在宅医療の強化、構想区域の見直し、「病院」機能明確化などですでに共通認識—新地域医療構想検討会
【ポスト地域医療構想】論議スタート、医療介護連携、構想区域の在り方、医療人材確保、必要病床数設定等が重要論点—新地域医療構想検討会
【ポスト地域医療構想】論議を近々に開始、入院だけでなく、外来・在宅・医療介護連携なども包含して検討—社保審・医療部会(1)




