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2019年1月と2020年1月を比べると病床利用率が大幅低下、患者減踏まえた病床戦略の必要性大―病院報告、2020年1月分

2020.5.13.(水)

「1月分」のデータを追いかけると、2012年から2019年にかけて病院の一般病床では「平均在院日数の短縮」と「病床利用率の向上」とを両立できていたが、2019年から2020年にかけて「病床利用率」が大きく低下してしまっており、新規患者の獲得に多くの病院が苦労している―。

こうした状況が、厚生労働省が5月8日に公表した今年(2020年)1月分の病院報告から明らかになりました(厚労省のサイトはこちら))。

2020年1月、前月に比べて外来患者数が大幅に低下したが、例年通りの状況

厚労省は、毎月末の「日本全国の病院における(1)1日平均患者数(2)平均在院日数(3)月末病床利用率―」を把握し、病院報告として公表しています(前月の記事はこちら)。

今年(2020年)1月の(1)「1日平均患者数」は、病院全体で▼入院:122万2998人(前月と比べて2761人・0.2%増)▼外来:124万8972人(同7万4582人・5.6%減)―となりました。12月から1月にかけて外来患者が大幅に減少することは、例年どおりの傾向であり、「新型コロナウイルス感染症の影響」とは言い難いようです。2月以降の患者数動向を注視する必要があるでしょう(関連記事はこちら)。

医療法上の病床種別に入院患者数を見てみると、▼一般病床:67万8772人(前月比4389人・0.7%増)▼療養病床:26万4611人(同1434人・0.5%減)▼精神病床:27万8200人(同163人・0.1%減)▼結核病床:1336人(同41人・3.0%減)―などという状況です。

2019年12月から2020年1月にかけて入院患者は微増、外来患者は大は減少している(病院報告(2020年1月)1 200508)



また(2)「平均在院日数」は、病院全体では28.6日で、前月から2.1日延伸してしまっています。病床種別に見ると、▼一般病床:16.8日(前月から1.3日延伸)▼療養病床:138.8日(同10.5日延伸)▼介護療養病床:332.7日(同17.6日延伸)▼精神病床:282.5日(同17.7日延伸)▼結核病床:67.7日(同6.9日延伸)―となりました。すべての病床種別で延伸してしまっていることが分かります。

2019年12月から2020年1月にかけてすべての病床種別で平均在院日数が延伸してしまった(病院報告(2020年1月)3 200508)



さらに(3)「月末病床利用率」に目を移すと、病院全体では80.9%で、前月から9.2ポイントの大幅上昇となっています。病床種別に見ると、▼一般病床:77.6%(前月比15.6ポイント上昇)▼療養病床:87.1%(同0.6ポイント上昇)▼介護療養病床:88.4%(同0.2ポイント低下)▼精神病床:85.1%(同増減なし)▼結核病床:31.9%(同1.2ポイント上昇)―という状況です。とりわけ一般病床において2桁の大幅上昇となっていますが、「前年末に大幅に下がる(「年末年始はなんとか自宅で過ごしたい」という患者・家族の要請に病院サイドが応えているなど)ことの反動であり、例年も同様の傾向にあります。

2019年12月から2020年1月にかけて一般病床の利用率は大幅に上昇しているが、例年どおりの動きである(病院報告(2020年1月)2 200508)

一般病床の1月分データ、平均在院日数短縮と病床利用率向上との両立が困難に

平均在院日数や病床利用率には上記のような「暦月の変動」があります。この影響を除外するために、一般病床における「1月分」データだけを取り上げ、まず平均在院日数の動向の経年変化を見てみましょう。すると、2012年以降、概ね短縮傾向にあることが分かります。

▼2012年:18.8日(厚労省のサイトはこちら

(0.3日短縮)

▼2013年:18.5日(厚労省のサイトはこちら

(0.3日短縮)

▼2014年:18.2日(厚労省のサイトはこちら

(0.5日短縮)

▼2015年:17.7日(厚労省のサイトはこちら

(0.4日延伸)

▼2016年:17.3日(厚労省のサイトはこちら

(増減なし)

▼2017年:17.3日(厚労省のサイトはこちら

(0.1日短縮)

▼2018年:17.2日(厚労省のサイトはこちら

(0.2日短縮)

▼2019年:17.0日(厚労省のサイトはこちら

(0.2日短縮)

▼2020年:16.8日(厚労省のサイトはこちら



一方、月末病床利用率は、次のような状況です。増減を繰り返しながら「2012年から19年にかけて極めて緩やかながら、上昇傾向が伺える」状況でしたが、2020年には大きく減少してしまっています。さらに長期スパンで分析していく必要がありそうです。

▼2012年:79.1%(厚労省のサイトはこちら

(0.2ポイント上昇)

▼2013年:79.3%(厚労省のサイトはこちら

(1.8ポイント低下)

▼2014:77.5%(厚労省のサイトはこちら

(3.0ポイント低下)

▼2015年:74.5%(厚労省のサイトはこちら

(0.1ポイント上昇)

▼2016年:74.6%(厚労省のサイトはこちら

(4.3ポイント上昇)

▼2017年:78.9%(厚労省のサイトはこちら

(1.6ポイント上昇)

▼2018年:80.5%(厚労省のサイトはこちら

(0.7ポイント低下)

▼2019年:79.8%(厚労省のサイトはこちら

(2.2ポイント低下)

▼2020年:77.6%(厚労省のサイトはこちら



このように「1月分」データからは、2012年以降、「平均在院日数」が短縮しているものの、「病床利用率」については明確な傾向は見えてきていません。

Gem Medで繰り返しお伝えしていますが、平均在院日数の短縮は▼急性期一般病棟(旧7対1・10対1一般病棟)等における「重症患者割合」(重症度、医療・看護必要度の基準を満たす患者の割合)の向上▼DPC特定病院群(旧II群)要件の1つである「診療密度」の向上▼「院内感染」や「ADL低下」などのリスク低減▼患者のQOL向上(例えば職場への早期復帰を果たし、生活の安定を取り戻す)—といった「経営の質」「医療の質」双方の向上に直結する重要な事項です。

しかし、「在院日数の短縮」は▼空床の発生・増加 → ▼病床利用率の低下 → ▼病院経営の悪化―にも繋がってしまう、言わば「両刃の剣」であることも事実です(出来高・DPCのいずれにおいても入院料が「1日当たり」で設定されているため)。

このため、「在院日数の短縮」によって医療の質向上を図るとともに、「病床利用率の向上」によって病院経営を安定させる必要があります。このためには、▼かかりつけ医等と密接に連携して紹介患者を確保する▼救急搬送患者を積極的に受け入れる―などし、「重症の新規入院患者」獲得に力を入れることが必要不可欠です。この点、「1月分」からは、新規患者の獲得等に向けて、多くの病院が苦労している(とりわけ2019年から20年にかけて大きな苦労がある)状況が伺えます。



地域によっては既に人口減少モードに入っており(日本全国では人口減少が進んでいるが、大都市では増加しているところもある)、今後、多くの地域で「患者数そのものの減少」が進みます。また近い将来、多くの大都市部でも人口減少が始まります。人口減少は、すなわち「患者の減少」を意味し、全国各地で「減少する患者を、多くの病院が奪い合う」状況が生じます。そうした中では、個々の病院による「集患努力」が結実しないことが珍しくなくなっていきます。つまり、多くの地域で病院経営が不安定になる要素が大きいのです。

客観的に▼地域の医療ニーズ▼競合病院の状況▼自院の機能やリソース―を分析し、病床の機能転換(急性期から回復期・慢性期)や、「ダウンサイジング」(病床の削減)、さらに共倒れを防ぐための「近隣病院との再編・統合」なども検討していく必要があります。厚労省は、公立病院・公的病院等の一部(当初424病院であったが、精査の結果440病院程度となった)に関して「再編統合の再検証が特に強く要請される」との考えを示しています(関連記事はこちらこちら こちらこちら)。さらに2020年度予算では「医療法上の病床を稼働病床数ベースで1割以上削減する」病院について、病床削減割合に応じた補助金(全体で84億円)が創設されます(関連記事はこちらこちら)。こうした動きも眺めながら、「自院の状況・地域の状況」を再確認してみることが重要です。



なお、2020年2月以降、新型コロナウイルス感染症という全く別の要素による「患者数の減少」(予定入院・予定手術の延期、感染防止のために受診抑制など)が生じることが明らかになっています。その状況についても注視する必要があります(関連記事はこちら)。



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