「6月」分データ、2016年以降は平均在院日数短縮と新規患者獲得を両立できず―病院報告、2019年6月分
2019.10.9.(水)
「6月分」のデータを追いかけると、病院の一般病床では2012年から15年にかけて「平均在院日数の短縮」と「病床利用率の向上」とを両立できていたが、それ以降は実現できておらず、「新規患者獲得に苦労」している―。
こうした状況が、厚生労働省が10月7日に公表した今年(2019年)6月分の病院報告から分かりました(厚労省のサイトはこちら)。
2019年5月から6月にかけて平均在院日数は短縮、病床利用率は向上低下
厚労省は毎月、日本全国の病院における(1)1日平均患者数(2)平均在院日数(3)月末病床利用率―を把握し、「病院報告」として公表しています。
今年(2019年)6月における(1)の「1日平均患者数」は、病院全体で▼入院:123万267人(前月と比べて8660人・0.7%増)▼外来:131万6267人(同4万3276人・3.4%増)―となりました。
医療法上の病床種別に入院患者数を見てみると、▼一般病床:67万5649人(前月比7245人・1.1%増)▼療養病床:27万1035人(同288人・0.1%増)▼精神病床:28万2039人(同1104人・0.4%増)▼結核病床:1477人(同24人・1.7%増)―などという状況です。
また(2)の「平均在院日数」に見ると、病院全体では27.2日で、前月から1.1日の短縮。病床種別に見てみると、▼一般病床:15.9日(前月から0.6日短縮)▼療養病床:140.3日(同0.4日延伸)▼介護療養病床:319.7日(同6.3日短縮)▼精神病床:265.1日(同0.5日短縮)▼結核病床:67.3日(同2.0日短縮)―となりました。医療療養を除き、病院病床においては、前月よりも在院日数が短縮しています。
さらに(3)の「月末病床利用率」を見てみると、病院全体では77.6%で、前月から1.2ポイント低下しています。病床種別に見ると、▼一般病床:71.8%(前月比1.9ポイント低下)▼療養病床:86.7%(同1.3ポイント低下)▼介護療養病床:90.3%(同0.6ポイント上昇)▼精神病床:85.7%(同増減なし)▼結核病床:33.7%(同0.5ポイント上昇)―という状況です。病床種別で動き方は異なります。
6月分のデータ、平均在院日数の短縮と新規患者獲得とを両立できず
次に「暦月の変動」を除外するために、一般病床における「6月分」の平均在院日数の動向を見てみましょう。2012年から15年にかけて大きく短縮し、その後は横ばいと言えます。
▼2012年:17.3日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.1日短縮)
↓
▼2013年:17.2日(厚労省のサイトはこちら)
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(0.7日短縮)
↓
▼2014年:16.5日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.7日短縮)
↓
▼2015年:15.8日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.2日短縮)
↓
▼2016年:15.6日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.1日延伸)
↓
▼2017年:15.7日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.1日短縮)
↓
▼2018年:15.6日(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.3日延伸)
↓
▼2019年:15.9日(厚労省のサイトはこちら)
一方、月末病床利用率は、次のような状況です。2013年から16年にかけて向上傾向が見られましたが、その後、低下し、2018年から19年にかけてやや向上しています。
▼2012年:71.0%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.1ポイント低下)
↓
▼2013年:70.9%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(1.5ポイント向上)
↓
▼2014年:72.4%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.9ポイント向上)
↓
▼2015年:73.3%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.8ポイント向上)
↓
▼2016年:74.1%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(0.8ポイント低下)
↓
▼2017年:73.3%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(2.6ポイント低下)
↓
▼2018年:70.7%(厚労省のサイトはこちら)
↓
(1.1ポイント向上)
↓
▼2019年:71.8%(厚労省のサイトはこちら)
このように「6月分」データを見ると、「2013年から16年にかけて平均在院日数の短縮と病床利用率向上とを実現できていた」が、その後は明確な傾向が見られないようです。
Gem Medで繰り返しお伝えしていますが、平均在院日数の短縮は、▼急性期一般病棟(旧7対1・10対1一般病棟)等における「重症患者割合」(重症度、医療・看護必要度の基準を満たす患者の割合)の向上▼DPC特定病院群(旧II群)要件の1つである「診療密度」の向上▼「院内感染」や「ADL低下」などのリスク軽減▼患者のQOL向上(例えば職場への早期復帰を果たし、生活の安定を取り戻す)—といった経営の質・診療の質の向上に直結する要素と言えます。
ただし、単なる「在院日数の短縮」は、▼空床の発生・増加→▼病床利用率の低下→▼病院経営の悪化―に繋がります(出来高・DPCのいずれにおいても入院料が「1日当たり」で設定されているため)。
そこで、「在院日数の短縮」によって医療の質を向上させるとともに、「病床利用率を向上」させ、病院経営を安定させる必要があります。例えば、▼かかりつけ医等と密接に連携した重症な紹介患者の確保▼救急搬送患者の積極的な受け入れ―などといった「重症の」新規入院患者の獲得策を同時に採らなければいけません。しかし「6月分」の状況を見れば、ここ数年では「平均在院日数の短縮に、病床利用率が追い付いていない。新規患者獲得に病院が苦労している」状況が伺えます。
地域によってはすでに人口減少によって「患者数そのもの」が減少し始めており、また近い将来、都市部でも人口減少(=患者数減少)が始まることから、多くの病院では新規患者の獲得がこれまで以上に難しくなります(病院間で患者の奪い合いが激化する)。新規患者獲得の努力が実を結んでいない病院におかれては、「新規患者獲得に向けた新たな手立て」を講じることももちろん重要ですが、客観的に▼地域の医療ニーズ▼競合病院の状況▼自院の機能やリソース―を分析し、病床の機能転換(急性期から回復期・慢性期)を検討したり、場合によっては「ダウンサイジング」(病床の削減)、共倒れを防ぐための「近隣病院との再編・統合」なども検討していく必要があります。公立病院・公的病院等の一部(424病院)では、再編統合の再検証が要請されており、この点を真剣に考慮することが重要です。
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