医師働き方改革、宿日直許可基準や研鑽などの不確定要素も踏まえた上限設定論議を―日病協
2019.1.28.(月)
勤務医の時間外労働の上限について、一般では年間960時間未満、地域医療確保に必要な場合には年間1900-2000時間という数字の議論が進んでいるが、「宿日直許可基準」や「労働と研鑽の切り分け」「病院の再編・統合」などが明確にならないまま上限時間だけを設定して良いのだろうか。5年後の適用段階になって、地域医療が崩壊するようなことがあってはならない―。
1月25日に開催された、日本病院団体協議会の代表者会議では、こういった点で意見が一致していることが山本修一議長(国立大学附属病院長会議常置委員長、千葉大学医学部附属病院長)から報告されました。
宿日直許可基準や研鑽と労働の切り分けなどは不明確、バッファー置いた上限設定を
医師の働き方改革に向けた議論が進み、厚生労働省は「医師の働き方改革に関する検討会」に、2024年4月から、勤務医の時間外労働上限を▼原則として年960時間・月100時間未満▼救急医療機関など地域医療確保のために必要な特例水準として年1900-2000時間程度以内―としてはどうか、と提案。賛否両論がありますが、この「上限時間」をどう設定するかが最重要論点の1つとなっています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
この点について国立大学附属病院長会議や日本病院会、全日本病院協会など15の病院団体で構成される「日本病院団体協議会」では、時間設定そのものよりも「不確定要素が多い中で、上限時間だけ先に設定してよいものか」という懸念を持っているようです。
たとえば、「宿日直」については、「労働密度がまばらで、労働時間規制を適用しなくとも、必ずしも労働者保護に欠けることのない一定の断続的労働」として、労働基準監督署長の「許可」を受けた場合には労働時間規制の適用から除外されます(時間外労働に該当しない)こ。許可すべきかどうかの判断基準(宿日直許可基準)については、現代の医療にマッチするようなアップデートがなされる予定で、大筋の合意は得られていますが、その内容はまだ確定していません(関連記事はこちら)。
また、勤務医が時間外に行う症例検討や術式の検討などについて、「労働」なのか「研鑽」なのかを明確にするため、例えば上司が「研鑽を行う」旨を確認した上で「通常と異なる場で研鑽を行う」「白衣の着用を避ける」などし、「労働時間」との混同を避けるような取り組みを行う方向は固められましたが、詳細は明らかになっていません(関連記事はこちら)。
さらに、医療資源を集約してオーバーラップする業務内容を効率化することが生産性向上に向けて不可欠なことから、「病院の再編・統合を進めるべき」との意見が検討会で散見されており、そうした観点での検討も進められる必要がありそうです(関連記事はこちら)。
これらの要素が固まらないままに上限時間のみを確定した場合、「2024年4月の適用時点で蓋を開けてみたら(厚労省通知などを確認してみたら)、地域医療確保がままならないものとなっていた」という事態が生じかねないと各病院団体の代表者は感じているといいます。山本議長は「助かる命が、働き方改革で助からなくなってはいけない。不確定要素の明確化には時間がかかるため、バッファーを置いた上限設定を考える必要があるのではないか」とコメントしています。
10連休、一時的な重症患者割合の低下などにどう対応するのか
なお、10連休問題については、厚労省医政局長が医療提供体制を確保するよう求める通知が発出していますが(関連記事はこちら)、保険制度面では、対応方針がクリアになっていないと山本議長は訴えます。
10連休中は稼働医療機関が減ることになるため、▼一時的に入院患者数が過剰になる可能性があるが、診療報酬はその場合でも減算されてしまうのか▼容態が比較的安定した患者でも退院先・退所先が確保できず、一時的に重症度、医療・看護必要度が下がる可能性があるが、どう考えるのか(2018年度改定で1割以内変動の救済措置が廃止されている)―などの問題が生じかねません。この点について日病協では、2月中に要望書をまとめ、厚労省に提示する考えです。
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