2022年9月までに2451件の医療事故が報告され87.6%で院内調査完了、病院サイドの制度理解も求められている—日本医療安全調査機構
2022.10.11.(火)
今年(2022年)9月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は23件。2015年10月の医療事故調査制度発足から累計2451件の医療事故が報告され、うち87.6%で院内調査が完了している—。
日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が10月7日に公表した「医療事故調査制度の現況報告(9月)」から、こうした状況が明らかになりました(機構のサイトはこちら)。
2024-29年度を対象とする次期医療計画(第8次医療計画)に向けて「医療施設(病院、クリニック、除算所)における医療安全対策をより強化するために、医療機関等管理者(院長)などに、医療安全調査機構などの行う研修事項を推進していく」方針が検討されています(関連記事はこちら)。
目次
2022年9月の医療事故報告は23件、2015年10月からの累計では2451件の事故報告
2015年10月から【医療事故調査制度】がスタートしました。すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)に対し、「院長などの管理者が予期しなかった、医療に起因(疑いを含む)する死亡・死産」のすべてをセンターに報告するよう義務付ける仕組みです。事故の原因・背景を調査・分析し「再発防止策」を構築。それを医療現場に広く共有することで医療安全の確保・向上を狙っています。
医療事故調査制度は次のような流れで進められます。
▽医療事故が発生した場合、医療機関等の管理者(院長など)は、速やかにセンターへ事故発生を報告する
↓
▽事故が発生した医療機関等が「自ら」事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する
↓
▽当該医療機関等は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)
↓
▽センターで事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを構築し、公表する
センターは精力的に「再発防止策」を検討しており、これまでに次の16本の再発防止策を公表しています。
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析
(8)救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析
(9)入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析(関連記事はこちら)
(10)大腸内視鏡検査等の前処置に係る死亡事例の分析
(11)肝生検に係る死亡事例の分析
(12)胸腔穿刺に係る死亡事例の分析
(13)胃瘻造設・カテーテル交換に係る死亡事例の分析
(14)カテーテルアブレーションに係る死亡事例の分析
(15)薬剤誤投与に係る死亡事例の分析
(16)頸部手術に起因した気道閉塞に係る死亡事例の分析
さらにセンターは毎月、医療事故報告の状況も公表しています(前月の状況は こちら、前々月の状況はこちら)。今年(2022年)9月には新たに23件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は2451件となりました。
今年(2022年)8月に新たに報告された医療事故23件の内訳は、病院から22件・診療所から1件でした。制度発足(2015年10月、以下同)からの累計では、病院から2320件(事故全体の94.7%)、診療所から131件(同5.3%)となりました。
また今年(2022年)9月に新たに報告された医療事故23件を診療科別に見ると、▼内科:5件▼外科:4件▼循環器内科:4件―などで多くなっています。制度発足からの累計では、▼外科:375件(事故全体の15.3%)▼内科:313件(同12.8%)▼整形外科:208件(同8.5%)▼消化器科:207件(同8.4%)▼循環器内科:207件(同8.4%)―などで多い状況です。
遺族からの相談内容は依然として「医療ミスがなかったか」が多いが・・・
医療機関等は「すべての死亡・死産」をセンターへ報告しなければならないわけではありません。報告対象は死亡・死産事例のうち「院長などの管理者が『予期せず』、かつ『医療に起因し、または起因すると疑われる』もの」に限られます。
例えば、交通事故などで瀕死の重症を負った患者が救急搬送され、懸命な治療が行われたにもかかわらず残念ながら死亡してしまったケースなどでは、一般に「死亡が予期」されることからセンターへの報告は必要ないと考えられそうです。ただし明らかな処置上のミスなどがあり、通常の経過とは異なるプロセスで当該患者が死亡したような場合には、「予期しなかった」医療事故となりセンターへの報告が必要となってきそうです。
もっとも「どこまでが予期された医療事故なのか、どこからが予期しなかった医療事故なのか」の切り分け・判断は難しく、医療現場では「不幸にも患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのか分からない」という疑問が生じます。また、医療機関等には「初めての医療事故で、センターへどのように報告すればよいのか分からない」といった疑問が生じることもあるでしょう。一方、遺族の中には「家族が医療機関等で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念を持つ方もおられることでしょう。
そこでセンターでは個別事例に対する相談対応を行っており、今年(2022年)9月には、新たに123件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計では1万2730件となりました。
今年(2022年)9月に新たにセンターへ寄せられた相談の内訳は、▼医療機関等から61件▼遺族などから59件▼その他・不明3件―でした。
医療機関等からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので33件(医療機関等からの相談全体の51.6%)、次いで「院内調査」に関するもの13件(同20.3%)、「報告すべきか否かの判断に迷う」ケース12件(同18.8%)という状況です。
一方、遺族などからの相談内容を見ると「医療事故に該当するか否かの判断」が50件(遺族などからの相談全体の82.0%)と大多数を占めている状況に変化はありません。
この点、依然として「制度の正しい周知」が大きな課題と言えますが、上述したように「医療機関管理者が研修に適切に参加しておらず、正しい事故報告が必ずしも十分になされていない可能性がある」(900床以上の大規模病院にもかかわらず、過去7件に1度も事故報告をしていないところもある)点が、遺族サイドの不安を招いているという指摘もある点に留意が必要です。
報告された事故全体の87.6%で院内調査が完了、センターへの調査依頼は微増
医療事故調査制度は「再発防止策の構築と周知」が目的で、「犯人捜し」や「特定個人の責任追及」などをする仕組みではありません。
このため、事故が生じた医療機関等が自ら事故の内容や背景を調査する【院内調査】が重視されています。調査の過程で「自院の体制・手続き・ルールなどに問題がなかったか」を検証し、その過程で医療機関自らが「自院の課題」を発見し、自ら「再発防止策構築」に繋げることが重要と考えられているのです。
今年(2022年)9月に新たに院内調査が完了した事例は20件で、制度発足からの累計では2148件となりました。これまでに報告されたすべての医療事故2451件のうち87.6%(前月から変わりなし)で院内調査が完了しています。
ところで、遺族の中には「院内調査結果に納得がいかない」「院内調査が遅い、医療機関側が何かを隠そうとしているのではないか」といった疑念を持つ方もおられるかもしれません。
また、診療所や助産所などの小規模施設では、「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあります(医師会や病院団体、大学病院などが調査をサポートする体制が整えられている)。
そこでセンターでは、「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制も敷いています【センター調査】。センターは「最初から調査しなおす」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されているか」という観点で調査を行います。
今年(2022年)9月にセンターへ寄せられた調査依頼は遺族からの2件でした。制度発足からの累計調査依頼件数は192件(遺族から161件・83.9%、医療機関等から31件・16.1%)。センター調査の進捗状況を見ると118件で調査が完了しています(前月から1件増加)。
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2018年1月までに888件の医療事故が報告され、65%超で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
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2017年8月までに716件の医療事故報告、院内調査のスピードは頭打ちか―日本医療安全調査機構
2017年7月までに674件の医療事故が報告され、63.5%で院内調査完了―日本医療安全調査機構
2017年6月までに652件の医療事故が報告され、6割超で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
2017年5月までに624件の医療事故が報告され、6割超で院内調査完了―日本医療安全調査機構
2017年4月までに601件の医療事故が報告、約6割で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
2017年2月までに546件の医療事故が報告、過半数では院内調査が完了済―日本医療安全調査機構
2017年1月までに517件の医療事故が報告、半数で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
2016年12月までに487件の医療事故が報告され、46%超で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
2016年11月に報告された医療事故は30件、全体の45%で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
2016年10月に報告された医療事故は35件、制度開始からの累計で423件―日本医療安全調査機構
2016年8月に報告された医療事故は39件、制度開始からの累計で356件―日本医療安全調査機構
2016年7月に報告された医療事故は32件、制度開始からの累計で317件―日本医療安全調査機構
2016年6月に報告された医療事故は34件、制度開始からの累計では285件―日本医療安全調査機構
制度開始から半年で医療事故188件、4分の1で院内調査完了―日本医療安全調査機構
医療事故に該当するかどうかの判断基準統一に向け、都道府県と中央に協議会を設置―厚労省
医療事故調査制度、早ければ6月にも省令改正など行い、運用を改善―社保審・医療部会
医療事故調査制度の詳細固まる、遺族の希望を踏まえた事故原因の説明を―厚労省
中心静脈穿刺は致死的合併症の生じ得る危険手技との認識を—医療安全調査機構の提言(1)
急性肺血栓塞栓症、臨床症状に注意し早期診断・早期治療で死亡の防止—医療安全調査機構の提言(2)
過去に安全に使用できた薬剤でもアナフィラキシーショックが発症する—医療安全調査機構の提言(3)
気管切開術後早期は気管切開チューブの逸脱・迷入が生じやすく、正しい再挿入は困難—医療安全調査機構の提言(4)
胆嚢摘出術、画像診断・他診療科医師と協議で「腹腔鏡手術の適応か」慎重に判断せよ—医療安全調査機構の提言(5)
胃管挿入時の位置確認、「気泡音の聴取」では不確実—医療安全調査機構の提言(6)
NPPV/TPPVの停止は、自発呼吸患者でも致命的状況に陥ると十分に認識せよ―医療安全調査機構の提言(7)
救急医療での画像診断、「確定診断」でなく「killer diseaseの鑑別診断」を念頭に―医療安全調査機構の提言(8)
転倒・転落により頭蓋内出血等が原因の死亡事例が頻発、多職種連携で防止策などの構築・実施を―医療安全調査機構の提言(9)
「医療事故再発防止に向けた提言」は医療者の裁量制限や新たな義務を課すものではない―医療安全調査機構
大腸内視鏡検査前の「腸管洗浄剤」使用による死亡事例が頻発、リスク認識し、慎重な適応検討を―医療安全調査機構の提言(10)
「肝生検に伴う出血」での死亡事例が頻発、「抗血栓薬内服」などのハイリスク患者では慎重な対応を―医療安全調査機構の提言(11)
胸腔穿刺で心臓等損傷する死亡事故、リスクを踏まえた実施、数時間後に致命的状態に陥る可能性踏まえた経過観察を―医療安全調査機構の提言(12)
抗血栓療法中・低栄養患者は胃瘻造設リスク高、術後出血や腹膜炎等の合併症に留意を―医療安全調査機構の提言(13)
カテーテルアブレーション治療、心タンポナーデなど重篤リスクにも留意した体制整備を―医療安全調査機構の提言(14)
死亡医療事故の2割弱は薬剤誤投与に起因、処方から投与まで各場面で正しい薬剤かチェックを―医療安全調査機構の提言(15)
患者の訴え・患部観察により「頸部手術後の気道閉塞」徴候把握し、迅速な対応を―医療安全調査機構の提言(16)
人口100万人あたり医療事故報告件数は三重・京都が最多、投薬・注射に起因する死亡事故急増―日本医療安全調査機構
人口100万人あたり医療事故報告件数、4年連続で宮崎県がトップ―日本医療安全調査機構
医療事故調査制度発足から丸5年、大規模病院ほど「病床当たり事故件数」多い―日本医療安全調査機構
人口100万人あたり医療事故報告件数、2017・18・19と宮崎県がトップ、地域差の分析待たれる―日本医療安全調査機構
医療事故調査制度スタートから丸4年、累計1500件の医療事故が報告される―日本医療安全調査機構
医療事故調査、事故全体の7割超で院内調査が完了しているが、調査期間は長期化傾向―日本医療安全調査機構