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2022年6月までに2374件の医療事故が報告され、うち87.7%で院内調査完了、6月の報告減の理由はどこに・・・?―日本医療安全調査機構

2022.7.12.(火)

今年(2022年)6月に医療事故調査・支援センター(以下、センター)に報告された医療事故は、わずか17件。2015年10月の医療事故調査制度発足から累計2374件の医療事故が報告され、うち87.7%で院内調査が完了している—。

新型コロナウイルス感染症が落ち着くとともに、「医療機関に患者が戻り、医療事故が増加する」状況がみてとれた。しかし6月に入り事故報告件数が大幅減となっており、その背景に注目が集まる—。

日本で唯一のセンターである「日本医療安全調査機構」が7月8日に公表した「医療事故調査制度の現況報告(6月)」から、こうした状況が明らかになりました(機構のサイトはこちら)。

2022年6月の医療事故報告は17件にとどまる、減少の背景に何があるのか?

【医療事故調査制度】が2015年10月からスタートしました。すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)に対し、「院長などの管理者が予期しなかった、医療に起因(疑いを含む)する死亡・死産」のすべてをセンターに報告するよう義務付ける制度です。事故の原因・背景を調査・分析し「再発防止策」を構築。それを医療現場に広く共有することで医療安全の確保・向上を狙う仕組みです。

医療事故調査制度は次のような流れで進められます。
▽医療事故が発生した場合、医療機関等の管理者(院長など)は、速やかにセンターへ事故発生を報告する

▽事故が発生した医療機関等が「自ら」事故原因を調査【院内調査】し、調査結果をセンターに報告する

▽当該医療機関等は、調査結果に基づいて事故の内容や原因を遺族に説明する(調査結果報告書の提示までは義務付けられていない)

▽センターで事故事例を集積、分析し具体的な再発防止策などを構築し、公表する

医療事故調査制度の概要



センターは精力的に「再発防止策」を検討しており、これまでに次の16本の再発防止策を公表しています。
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析
(8)救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析
(9)入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析(関連記事はこちら
(10)大腸内視鏡検査等の前処置に係る死亡事例の分析
(11)肝生検に係る死亡事例の分析
(12)胸腔穿刺に係る死亡事例の分析
(13)胃瘻造設・カテーテル交換に係る死亡事例の分析
(14)カテーテルアブレーションに係る死亡事例の分析
(15)薬剤誤投与に係る死亡事例の分析
(16)頸部手術に起因した気道閉塞に係る死亡事例の分析



さらにセンターは毎月、医療事故報告の状況も公表しています(前月の状況は こちら、前々月の状況はこちら)。今年(2022年)6月には新たに17件の医療事故が報告され、制度発足からの累計報告件数は2374件となりました。

新型コロナウイルス感染症のオミクロン株拡大が落ち着くとともに、▼患者増(「外来受診控え」がやむ、入院における病棟一部閉鎖・予定入院や予定手術の延期を元に戻す)→▼医療事故等も増加—という流れになっていましたが、6月に入り「医療事故の報告」はもちろん、後述するように「相談」「院内調査」の件数も減少しています。背景・理由を見ていく必要があるでしょう。



今年(2022年)6月に新たに報告された医療事故17件は、病院から16件、クリニックから1件でした。制度発足(2015年10月、以下同)からの累計では、病院から2246件(事故全体の94.6%)、診療所から128件(同5.4%)となりました。

また今年(2022年)6月に新たに報告された医療事故17件を診療科別に見ると、▼脳神経外科:4件▼外科:3件―などで多くなっています。制度発足からの累計では、▼外科:364件(事故全体の15.3%)▼内科:299件(同12.6%)▼消化器科:202件(同8.5%)▼整形外科:201件(同8.5%)▼循環器内科:200件(同8.4%)―などで多い状況です(5月までの報告件数を機構が一部修正しています)。消化器科が3位に浮上しています。

医療事故報告の状況(医療事故の現況(2022年6月)1 220708)

遺族からの相談内容の大多数、依然として「医療ミスがなかったか」関連

医療機関等は「すべての死亡・死産」をセンターへ報告するわけではありません。報告対象は死亡・死産事例のうち「院長などの管理者が『予期せず』、かつ『医療に起因し、または起因すると疑われる』もの」に限られます。

例えば、交通事故などで瀕死の重症を負った患者が救急搬送され、懸命な治療が行われたにもかかわらず残念ながら死亡してしまったケースなどでは、一般に「死亡が予期」されることからセンターへの報告は必要ないと考えられそうです。ただし明らかな処置上のミスなどがあり、通常の経過とは異なるプロセスで当該患者が死亡したような場合には、「予期しなかった」医療事故となりセンターへの報告が必要となってくるでしょう。

もっとも「どこまでが予期された医療事故なのか、どこからが予期しなかった医療事故なのか」の切り分け・判断は難しく、医療現場では「不幸にも患者が死亡したが、報告すべき医療事故に該当するのか分からない」という疑問が生じます。また、医療機関等には「初めての医療事故で、センターへどのように報告すればよいのか分からない」といった疑問が生じることもあるでしょう。一方、遺族の中には「家族が医療機関等で死亡したが、医療事故として報告されていない。事故を隠蔽しようとしているのではないか?」との疑念を持つ方もおられることでしょう。

そこでセンターでは個別事例に対する相談対応を行っており、今年(2022年)6月には、新たに123件の相談がセンターに寄せられました。制度発足からの累計では1万2369件となりました。

今年(2022年)6月に新たにセンターへ寄せられた相談の内訳は、▼医療機関等から51件▼遺族などから68件▼その他・不明4件―でした。

医療機関等からの相談内容を見てみると、最も多いのは「報告の手続き」に関するもので35件(医療機関等からの相談全体の62.5%)、次いで「報告すべきか否かの判断に迷う」ケース10件(同17.9%)、「院内調査」に関するもの6件(同10.7%)という状況です。

一方、遺族などからの相談内容を見ると「医療事故に該当するか否かの判断」が56件(遺族などからの相談全体の77.8%)と大多数を占めている状況に変化はありません。依然として「制度の正しい周知」が依然として大きな課題と言えます。

センターへの相談に関する状況(医療事故の現況(2022年6月)3 220708)

報告された事故全体の87.7%で院内調査が完了、コロナの影響で院内調査に遅れが?

医療事故調査制度は「再発防止策の構築と周知」が目的で、「犯人捜し」や「特定個人の責任追及」などをする仕組みではありません。

このため、事故が生じた医療機関等が自ら事故の内容や背景を調査する【院内調査】が重視されています。調査の過程で「自院の体制・手続き・ルールなどに問題がなかったか」を検証し、その過程で医療機関自らが「自院の課題」を発見し、自ら「再発防止策構築」に繋げることが重要と考えられているのです。

今年(2022年)6月に新たに院内調査が完了した事例は11件で、制度発足からの累計では2083件となりました。これまでに報告されたすべての医療事故2374件のうち87.7%(前月から0.2ポイント減)で院内調査が完了している格好です。院内調査のスピードがやや落ちていますが、「新型コロナウイルス感染症対応」などにより調査が遅れている可能性もあります。今後も状況を注視していく必要があるでしょう。

院内調査の状況(医療事故の現況(2022年6
月)2 220708 )



ところで、遺族の中には「院内調査結果に納得がいかない」「院内調査が遅い、医療機関側が何かを隠そうとしているのではないか」といった疑念を持つ方もおられるかもしれません。

また、診療所や助産所などの小規模施設では、「自前で院内調査を実施することが難しい」ケースもあります(医師会や病院団体、大学病院などが調査をサポートする体制が整えられている)。

そこでセンターでは、「遺族や医療機関等からの調査依頼を受け付ける」体制も敷いています【センター調査】。センターは「最初から調査しなおす」のではなく、「院内調査が時期・内容ともに適切に実施されているか」という観点で調査を行います。

今年(2022年)6月にセンターへ寄せられた調査依頼は遺族からの2件でした。制度発足からの累計調査依頼件数は186件(遺族から156件・83.9%、医療機関等から30件・16.1%)。センター調査の進捗状況を見ると108件で調査が完了しています(前月から2件増加)。



病院ダッシュボードχ 病床機能報告MW_GHC_logo

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医療事故調査制度、早ければ6月にも省令改正など行い、運用を改善―社保審・医療部会

医療事故調査制度の詳細固まる、遺族の希望を踏まえた事故原因の説明を―厚労省



中心静脈穿刺は致死的合併症の生じ得る危険手技との認識を—医療安全調査機構の提言(1)
急性肺血栓塞栓症、臨床症状に注意し早期診断・早期治療で死亡の防止—医療安全調査機構の提言(2)
過去に安全に使用できた薬剤でもアナフィラキシーショックが発症する—医療安全調査機構の提言(3)
気管切開術後早期は気管切開チューブの逸脱・迷入が生じやすく、正しい再挿入は困難—医療安全調査機構の提言(4)
胆嚢摘出術、画像診断・他診療科医師と協議で「腹腔鏡手術の適応か」慎重に判断せよ—医療安全調査機構の提言(5)
胃管挿入時の位置確認、「気泡音の聴取」では不確実—医療安全調査機構の提言(6)
NPPV/TPPVの停止は、自発呼吸患者でも致命的状況に陥ると十分に認識せよ―医療安全調査機構の提言(7)
救急医療での画像診断、「確定診断」でなく「killer diseaseの鑑別診断」を念頭に―医療安全調査機構の提言(8)
転倒・転落により頭蓋内出血等が原因の死亡事例が頻発、多職種連携で防止策などの構築・実施を―医療安全調査機構の提言(9)
「医療事故再発防止に向けた提言」は医療者の裁量制限や新たな義務を課すものではない―医療安全調査機構
大腸内視鏡検査前の「腸管洗浄剤」使用による死亡事例が頻発、リスク認識し、慎重な適応検討を―医療安全調査機構の提言(10)
「肝生検に伴う出血」での死亡事例が頻発、「抗血栓薬内服」などのハイリスク患者では慎重な対応を―医療安全調査機構の提言(11)
胸腔穿刺で心臓等損傷する死亡事故、リスクを踏まえた実施、数時間後に致命的状態に陥る可能性踏まえた経過観察を―医療安全調査機構の提言(12)
抗血栓療法中・低栄養患者は胃瘻造設リスク高、術後出血や腹膜炎等の合併症に留意を―医療安全調査機構の提言(13)
カテーテルアブレーション治療、心タンポナーデなど重篤リスクにも留意した体制整備を―医療安全調査機構の提言(14)
死亡医療事故の2割弱は薬剤誤投与に起因、処方から投与まで各場面で正しい薬剤かチェックを―医療安全調査機構の提言(15)
患者の訴え・患部観察により「頸部手術後の気道閉塞」徴候把握し、迅速な対応を―医療安全調査機構の提言(16)

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