3つの介護職員等の処遇改善に向けた加算、計画・実績報告に関する届け出様式を簡素化—社保審・介護給付費分科会
2023.1.17.(火)
介護職員等の処遇改善に向けた加算は、現在、▼2012年度からの介護職員処遇改善加算さ▼2019年度からの特定処遇改善加算(主に勤続年数の長い介護福祉士の処遇改善を目指す)▼2021年度からの介護職員等ベースアップ等支援加算—の3種類があり、取得のためには、それぞれについて賃金改善等に関する「計画書」と「実績報告書」の提出が必要となるなど、事業所にとって煩雑であり、これが取得障壁の1つになっていると指摘される—。
そこで、3つの加算について「一体として計画書・実績報告書を届け出る」こととするなどの簡素化を行う—。
1月16日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会でこうした点が了承されました。この2月(2023年2月)に関係の通知が示され、2022年度分の実績報告(2023年6月提出)・2023年度分の計画(2023年4月提出)から簡素化が実施されます。
目次
介護職員の処遇改善に向けた3加算、計画書・実績報告書を簡素化
少子高齢化が進展する中で「介護提供体制を確保するための介護人材の確保・定着」が非常に大きな課題となっています。介護分野では他産業に比べて賃金・給与が低いとの指摘があり、これまでに次の3つの「介護職員等の処遇改善に向けた加算」が設けられています。
▽介護職員処遇改善加算:2012年度介護報酬改定で、従前の「介護職員処遇改善交付金」を受けて創設され、その後、順次拡充されてきている(関連記事はこちら)
▽特定処遇改善加算:2019年度改定で創設、主に勤続年数の長い介護福祉士の処遇改善を目指す(関連記事はこちらとこちら)
▽介護職員等ベースアップ等支援加算:2021年度改定で創設、基本給などの引き上げを目指す(関連記事はこちら)
いずれの加算についても「介護職員等の給与引き上げ」などを行うことが最重要目的となっており、不適切な加算取得(加算を取得するが、スタッフの給与増を行わないなど)を避けるために、▼「賃金改善額≧加算額」とする▼加算以外の部分で賃金を下げてはいけない(例えば基本給を1万円上げて加算を取得する一方で、他の手当てを1万円下げたのでは処遇改善にならない)—などのルール(算定要件)が定められています。
さらに、厚労省はこうしたルールが守られているのかを確認するために、加算取得事業所に対し「計画書」と「実績報告書」を保険者(市町村)に毎年度提出することを義務付けています(「賃金改善額≧加算額」となっているか、加算以外の部分の賃金が下がっていないか、などを確認する)。
しかし、加算は3種類あるため、「それぞれについて計画書・実績報告書を作成し、提出しなければならない」こととなり、これが「事業所の負担になり、加算取得のハードルの1につなっている」との指摘があります(昨年(2022年)12月の「介護職員の働く環境改善に向けた政策パッケージ」)。
こうした状況を踏まえ、厚生労働省老健局老人保健課の古元重和課長は、次のように届け出様式を簡素化し、事業所の届け出事務負担を軽減する考えを提案しました。
【現在】3種類それぞれの加算の対象者ごとに、前年度と比較して算出した賃金改善額が加算額を上回っているかを確認している。また、1法人で複数事業所を経営している場合には「賃金総額や賃金改善額等に関する事業所ごとの内訳」記載を求めている
↓
【簡素化】
(1)計画書において「前年度と今年度の賃金額比較」を省略する
→▼今年度の賃金改善見込額がそれぞれの加算見込額を上回ることを確認する▼前年度との比較を求めず、「加算以外の部分で賃金を下げない」との誓約を求める—という簡素化を行う
(2)実績報告書において「3加算の賃金額比較」を一本化する
→計画書と同様に「今年度の賃金改善額が加算額以上である」ことを確認した上で、▼前年度との比較は3種類それぞれの加算の対象者ごとではなく「3つの加算一体で計算」する
→具体的には、「今年度の賃金総額-3つの加算の賃金改善額の積み上げ額」を前年度と比較して、「加算以外の部分で賃金を下げていない」ことを確認する
(3)事業所ごとの記載を不要とし、法人単位で確認する
→加算取得事業所の特定のため、取得事業所一覧の提出は求める
現場の事務負担軽減につながる内容であり、分科会で了承されましたが、▼自治体が独自に追加の届け出を求めれば負担軽減にならない。事業所が「国の標準様式」で加算届け出した場合に、自治体サイドがこれを拒むことのないように国が指導してほしい(稲葉雅之委員:民間介護事業推進委員会代表委員)▼「加算そのものの一本化」に向けた議論を早急に進めてほしい(古谷忠之委員:全国老人福祉施設協議会参与)—などの要望・注文がついています。今後の運用、2024年度介護報酬改定論議の中で重視されていきます。
なお、古元老人保健課長は「(2)で3つの加算を一体として改善額を計算するが、職種ごとの状況は明らかになるように様式の工夫を行う」考えを示しています。2月に示される通知の内容に注目が集まります。
訪問看護の人員配置基準、当面は「従うべき基準」のままとする
2021年度の介護報酬改定では、「地域(離島や山間地など)によっては訪問看護に携わる看護師の確保が難しい」状況を踏まえて「特例居宅介護サービス費等の対象地域と特別地域加算の対象地域について、自治体からの申請を踏まえて、それぞれについて分けて指定する」を行うことを可能としました。より柔軟に訪問看護サービスを提供できる環境が整えられています。
ただし、自治体サイドからは「2021年度改定(上記)の効果を検証し、訪問看護の人員配置基準を『従うべき基準』から『参酌すべき基準』に緩和する必要があるか否かを検討すべき」との要請が出ています。「従うべき基準」は名称どおり「当該基準以上の人員を配置しなければならない」ものですが、「参酌すべき基準」であれば「参酌しさえすれば、当該基準を満たずともよい」ことになります。
この点、2021年度の調査研究によれば、▼訪問看護サービスの確保が困難な離島、中山間地域等が「ある」と感じている市町村は全体の25.5%▼うち、上記の特例を利用している市町村は6.3%で、「特例対象地域に該当しているが特例を利用していない」が26.6%▼特例を利用しない理由としては「既存事業者で対応可能」「近隣市町の事業所を利用することで対応可能」「現在は特例を利用するニーズがない」など—という状況が明らかになりました。現時点では上記特例で柔軟な対応が可能となっており、「さらなる人員基準等の緩和の必要性は低い」と言えそうです。
そこで古元老人保健課長は「訪問看護の人員配置基準について『参酌すべき基準』に緩和することはせず、『従うべき基準』のままとする」考えを提案。介護給付費分科会でも了承されています。
ただし、自治体サイドからは「訪問看護人材の確保には各自治体で苦労しており、今後も緩和などの必要性を検討してほしい」との要望。また堀田聰子委員(慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授)は「介護人材確保が難しくなる今後に向け、個別サービスごとに要望を受けて人員配置を検討するのではなく、全体的に『介護サービスにおける人員配置基準をどう考えるのか』を議論する必要がある」と指摘します。今後、本格化する「2024年度の次期介護報酬改定」に向けた議論の中で議題の1つにあがってくると考えられます。
2024年度同時改定に向け介護給付費分科会と中医協との「意見交換会」を開催
このほか1月17日の介護給付費分科会では、次の方針も固められています。
▽2024年度介護報酬改定に向け、21年度前回改定の効果を6項目について調査検証し(2023年度調査)、9月頃に速報値を公表する
(1)介護サービス事業者における業務継続に向けた取組状況の把握およびICTの活用状況(感染症や災害発生のそれぞれに関して業務継続計画(BCP)が策定されているか、研修や訓練などが実施されているか、各種会議や業務の場面においてICTが活用されているかなど)
(2)介護老人保健施設・介護医療院におけるサービス提供実態等(介護医療院への移行状況、移行促進のための対応、老健施設における在宅復帰・在宅療養支援機能指標・要件の見直し効果など)
(3)個室ユニット型施設の整備・運営状況(ユニット定員の拡充(「概ね10人以下」から「原則として概ね10人以下とし、15人を超えない」と改める、関連記事はこちら)により、サービスの質・スタッフ負担がどう変化したかなど)
(4)LIFE の活用状況の把握およびADL維持等加算の拡充の影響(LIFEを活用した加算の算定状況や導入の課題、入力負担等の実態把握、LIFEの多職種連携(特にリハビリ・機能訓練、口腔、栄養等)への活用状況・課題等の検討、LIFE 未導入事業所についての実態把握など)
(5)認知症グループホームの例外的な夜勤職員体制の取扱い(夜間の人員配置緩和(一定の要件を満たす場合、「1ユニットごとに1人以上配置」から「3ユニットにつき2人以上配置」への緩和を選択可、関連記事はこちら)により、サービスの質・スタッフ負担がどう変化したかなど)
(6)認知症介護基礎研修受講義務付けの効果(関連記事はこちら)
▽2024年度改定は、診療報酬・介護報酬の同時改定となることを踏まえ、介護給付費分科会と中央社会保険医療協議会とで意見交換会を開く(3月から3回程度、地域包括ケアのさらなる推進のための医療・介護・障害サービスの連携高齢者施設・障害者施設等における医療、認知症、リハビリ・口腔・栄養、人生の最終段階における医療・介護、訪問看護などに関する課題や方向性を確認する。改定方針は決定しない)
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