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院内感染の拡大防止・療養環境向上のため「病院病床の個室化」を加算と規制緩和で推進せよ—日慢協・橋本会長

2023.2.10.(金)

2024年度の次期診療報酬改定では、院内感染対策の強化・療養環境の向上に向けた「個室化の推進」、具体的には「差額ベッドは許可病床の5割以下」との規制を緩和すること、「医療上の必要性のある場合の個室入室」は診療報酬上の手当てを行うことを検討してはどうか―。

また、「急性期病床へのリハビリスタッフ・介護スタッフ配置の基準化」「医療療養病床におけるアウトカム評価の導入」「昨今の物価高騰を踏まえた診療報酬の引き上げ」なども検討する必要がある—。

日本慢性期医療協会の橋本康子会長が2月9日に定例記者会見を開き、2024年度の次期診療報酬改定に向けた提言案を明らかにしました。今後、日本病院団体協議会の代表者会議に報告し「日病協の改定要望」への盛り込みを目指します(日病協の2022年度改定要望に関する記事はこちら(第2弾)こちら(第1弾))。

2月9日に定例記者会見に臨んだ、日本慢性期医療協会の橋本康子会長

2024年度診療報酬改定に向け、急性期病床へのリハ・介護職配置なども提言

2024年度の次期診療報酬改定に向けた大きなスケジュールが中央社会保険医療協議会で固められており、3月から具体的な議論がスタートします(関連記事はこちら(第1弾))。日慢協では、この議論に資するよう次の5つの提言案を提示しました。

(1)急性期病院への総合診療医の配置と基準リハビリ、基準介護の体制整備
(2)医療と介護のシームレス化の推進
(3)医療療養病床と介護領域におけるにおけるアウトカムを重視した報酬体系の構築
(4)専門性を活かした役割への評価と物価に応じた報酬設定
(5)感染防止と療養環境改善に寄与する個室の規制緩和と加算対応

まず(1)はかねてから日慢協が提唱している考えです。急性期病床においては介護スタッフ・リハビリスタッフ配置が手薄なために、どうしても「寝かせきり」となり、結果「寝たきり状態になってから回復期・慢性期病床に転院するが、リハビリの効果などが上がりにくく、要介護状態に陥りやすい」事態になりがちです。橋本会長は、こうした「医原性の寝たきり」を防止するために、急性期病床に、看護配置と同様の「リハビリスタッフ配置・介護スタッフ配置の基準」を設定するよう提言しています(関連記事はこちら)。

また(2)では、シームレスな医療・介護提供を実現するために▼カルテなど診療情報の共有▼評価指標の統一▼医療介護全体を通してマネジメントするメディカルケアマネジャーの創設—などのほか、医療機関で働く介護スタッフの処遇改善を強く求めました。こちらも日慢協がかねてから提唱している事項の「実装化」を求めるものと言えます。日慢協ではメディカルケアマネの育成に向けた研修(ケアマネジャーの医療知識を強化する研修)を始めています(関連記事はこちら)。

さらに(3)では、医療療養の診療報酬について「アウトカム評価」の導入を求めています。橋本会長は、前回の記者会見において、医療療養には「治る患者」と「治らない患者」とが混在しており、前者については「治療の成果(アウトカム)を評価する報酬体系」を、後者については「投下資源を評価する報酬体系」を導入すべき旨の考えを明らかにしており、2024年度診療報酬改定での実装化を要請する考えです。

他方、(4)では「専門性評価の推進」(例えば管理栄養士は「患者の栄養管理」面で専門性を発揮することを報酬でより適切に評価する)や、「昨今の物価急騰を踏まえた適切な点数引き上げ」を求めています。保険医療機関において収益の大部分は公定価格の診療報酬であるため、一般企業のように「物価高騰を価格に転嫁する」ことができないためです。

医療上の必要性ある場合の個室対応は、コロナ以外でも「加算」で評価すべき

さらに(5)では、「院内感染対策防止」と「療養環境の向上」を目指した個室化推進を提唱しました。

今般の新型コロナウイルス感染症により「多床室が感染拡大を招きやすい」ことが強く認識されました。このため感染症に罹患している患者や、感染した場合に重篤化するリスクが高い患者では「個室対応」が求められますが、この場合には「差額ベッド代」(=個室等の特別料金)を患者から徴収することはできません(厚生労働省通知「『療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等』及び『保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等』の実施上の留意事項について」の一部改正についてにおいて、「免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれのある患者」などは差額ベッド徴収が認められない)。

この点、診療報酬のコロナ臨時特例では、回復後患者の個室受け入れを【二類感染症患者療養環境特別加算】(個室加算:300点)」として評価しており、コロナ感染症以外の「院内感染」を防止するためにも、「医療上の必要性があって個室対応が必要な場合」には同様の診療報酬上の評価を行うべきであると橋本会長は強調しています。

個室化は院内感染対策に効果的(日慢協会見1 230209)



他方、「個室」には療養環境を向上させる効果もあります。橋本会長の研究によれば「個室に入室する患者では、多床室に入室する患者に比べて活動性が高くなる」ことが明らかになっています。入院患者のADL維持・向上につながり、寝たきり防止にも資すると考えられます。

また橋本会長は「現代社会で『他人と一緒に寝起きする』のは病院の多床室くらいではないか。つまり日常生活よりも『悪い環境』と言える。現在、差額ベッド代について患者から同意を取得することが求められているが、本来であれば、多床室への入室について『日常生活よりも劣悪な環境となる』点について同意を取得するべきである」とも指摘します。

個室化は療養環境向上に資する(日慢協会見2 230209)



このため「差額ベッドは院内病床全体の5割以下とする」との基準を緩和することも求めています。もちろん「差額ベッドにより入院が阻害されてはいけないため、『すべての病床における差額ベッド代徴収』は認められない」とも付言しています。

「医療上の必要性がある場合には加算を設ける」「医療上の必要性がなくとも、療養環境向上のために差額ベッドに関する規制を緩和する」との2つの取り組みにより「個室化」を推進すべきと橋本会長は強調。主に「療養病棟」や「回復期リハビリ病棟」「地域包括ケア病棟」を念頭においていますが、「感染対策の面では、急性期病棟も対象になる」ものと言えるでしょう。

個室化推進に向けた提言(日慢協会見3 230209)



日慢協では、この5項目の提言案を日本病院団体協議会の代表者会議にあげ「日病協の診療報酬改定要望」に盛り込むことを狙っています。

なお、2024年度には介護報酬改定も行われるため、橋本会長は「介護報酬に関する提言もまとめていく」考えを示しています。



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