特別養護老人ホームの特例入所、各自治体が「地域の実情を踏まえて必要である」と認める事情があれば、それも考慮を—厚労省
2023.4.12.(水)
介護老人福祉施設・地域密着型介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)については、原則「要介護3以上」の者が新規入所可能だが、「認知症などで在宅生活が困難である」などの事情があれば要介護1・2の高齢者でも入所(特例入所)が可能である—。
この特例入所については、「入所申請者の状況を十分に考慮する」「自治体が『地域の実情を踏まえて必要である』と認める事情があれば、それも考慮する」ことが必要であり、そうした点を地域ごとにきちんと明確化・ルール化し、そのルールに沿って特例入所の必要性を判断してほしい—。
厚生労働省は4月7日に通知「『指定介護老人福祉施設等の入所に関する指針について』の一部改正について」を発出し、こうした考えを明確にしました(厚労省サイトはこちら)。
一部自治体では特例入所のルールがない、ルールに沿った運用を行っていない
指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)については、2014年に行われた介護保険制度改正で「新規入所者は原則、要介護3以上」に限定されました。
もっとも要介護1・2の高齢者でも在宅活が困難な事情があれば入所が可能で(特例入所)、通知「指定介護老人福祉施設等の入所に関する指針について」では、次のような事情がある場合に特例入所が可能である旨が示されています。
(1)認知症で、日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られる
(2)知的障害・精神障害等を伴い、日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さ等が頻繁に見られる
(3)家族等による深刻な虐待が疑われること等により、心身の安全・安心の確保が困難である
(4)「単身世帯」「同居家族が高齢・病弱」などにより家族等による支援が期待できず、かつ、地域の介護サービスや生活支援の供給が不十分である
こうした限定は「限りある介護資源を、できるだけ重度の人に集中させる」ことが狙いです。しかし、「入所者の限定」「人口減(=高齢者減)」「介護人材不足」などにより、特養ホームの「空床」が目立ってきており、かえって「介護資源の有効活用が十分に行えていないのではないか」との声が現場から出てきています。
また厚労省の調査によれば、「特例入所の運用ルールが定められていない」「特例入所の運用ルールはあるが、実質的に運用されていない」地域が少なからず存在することが明らかになりました(関連記事はこちら)。
こうした状況を踏まえて介護保険制度改正を議論する社会保障審議会・介護保険部会では、「特養ホームが『在宅生活が困難な中重度の要介護者を支える施設』としての機能に重点化されている趣旨等を踏まえたうえで、改めて『特例入所の趣旨の明確化を図る』など、地域における実情を踏まえた適切な運用を図ることが適当である」との意見がまとめられました(厚労省サイトはこちら、関連記事はこちらとこちら)。
今般、この介護保険部会意見も踏まえて通知「指定介護老人福祉施設等の入所に関する指針について」を改正。特例入所について次のような考え方を明らかにしました。
▽特例入所対象者について、上記(1)から(4)の事情を「十分に」考慮する
▽特例入所対象者については、「地域の実情等を踏まえ、各自治体で必要と認める事情がある」場合には、それも考慮する
▽特例入所の必要性を判断するに当たっては、「上記(1)から(4)の『居宅で日常生活を営むことが困難なことについてやむを得ない事由』がある状況など」が考えられる
▽都道府県は、管内市町村・関係団体による「特例入所に関する指針」の作成、「特例入所の運用」について必要な助言・適切な援助を行う
▽老人福祉法第では「市町村は、必要に応じて特別養護老人ホームへの入所の措置等をとら なければならない」とされており、都道府県は、管内市町村で適切な運用が図られるよう必要な助言・適切な援助を行う
(参考)
老人福祉法
第11条 第1項 第2号
65歳以上の者であって、身体上または精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし、かつ、居宅においてこれを受けることが困難な者が、やむを得ない事由により介護保険法に規定する地域密着型介護老人福祉施設または介護老人福祉施設に入所することが著しく困難であると認めるときは、その者を当該市町村の設置する特別養護老人ホームに入所させ、または当該市町村以外の者の設置する特別養護老人ホームに入所を委託すること
「終の棲家」とされる特養ホームへの入所・利用が、より公平・公正かつ適切に行われることに期待が集まります。
なお、特例入所などの施設入所をむやみに認めれば「居宅サービスの利用者を吸収してしまい、地域全体の介護サービス基盤が脆弱化してしまう」恐れがあります。Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンの湯原淳平シニアマネジャーは「各地域において、将来の人口動態、在宅サービスの維持、介護保険財政、医療との役割重複などを総合的に考慮し、施設サービスについて計画を考える必要がある」と強く訴えています。
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