ADL改善などが見込める者を抽出して集中的なリハビリを実施、要介護度改善の成果を介護報酬で手厚く評価せよ—日慢協・橋本会長
2023.7.24.(月)
介護保険・介護報酬にもアウトカム評価の本格導入が必要である。もっとも、高齢者の多様性に鑑み、▼ADL改善等が見込める者▼ADL改善などが見込めない者—にグループ分けし、前者には集中的にリハビリ等を実施し、要介護度改善の効果を加算等で評価する、後者は現行どおりの要介護度に応じた報酬とすることが重要であろう—。
なお、集中的にリハビリ等を実施するためには多くの人手が必要となるため、アウトカム評価の対象者は、当初は「1施設・事業所当たり数人」からスタートすることが現実的ではないか—。
日本慢性期医療協会の橋本康子会長が7月20日に定例記者会見を行い、こうした提案を行いました。
現行のADL維持等加算、評価が低すぎ、モチベーション維持につながっていない
日慢協ではかねてから「寝たきり防止のために、身体機能が落ち切るまえに適切なリハビリ・栄養管理を行う」ことが極めて重要であると提唱しています。
2025年度から40年度にかけて、急速に現役世代人口が減少し、「医療・介護職員の確保」が極めて難しくなっていきます。そうした中では「要介護高齢者、とりわけ寝たきりの要介護高齢者を減らす」ことが極めて重要となり、橋本会長は「1%、つまり100人に1人、寝たきりを防止できれば、現在の介護職員数で将来の医療・介護ニーズを賄うことができる計算となる。『100人に2人、3人』と寝たきり防止人数を増やしていけば、減少していく現役世代人口でも、将来の医療・介護ニーズを十分に賄うことができ、将来に光が見えてくる」と訴えています。
また、寝たきり防止のための方策として、これまでに▼急性期段階で適切なリハビリ・介護を行う▼個室設置の柔軟化によりADL改善→寝たきり防止を図る▼十分な栄養補給により、寝たきりからの改善、リハビリ効果の上昇を目指す▼退院・退所直後の「訪問リハビリ」を積極的に行う—ことなどをこれまでに提言。
さらに7月20日の定例記者会見では「介護分野においてアウトカム評価の組み合わせを導入する」ことを提言しました。
介護報酬の基本構造は「要介護度が高いほど、高い報酬を設定する」というものです。このためリハビリなどを積極的に行い「要介護度が軽くなる(改善する)と、介護報酬が下がってしまう」ことになり、「要介護度改善に向けたモチベーションが高まりにくい」と指摘されます。
この点は従前から問題視されており、2018年度の介護報酬改定で「ADL維持等加算」が新設され、2021年度の前回改定で大幅拡充が行われましたが、それでもベースとなる加算Iで1か30単位(1年間で3600円)、ADL改善効果が高い場合の加算IIで同じく60単位(同じく7200円)にとどまっています。橋本会長は「要介護度改善には、多くのマンパワー投入(リハビリスタッフ、リハビリ医など)が必要であり、現在のADL維持等加算ではインセンティブとして不十分である」と指摘しています。
そこで橋本会長は、介護保険にも「アウトカム評価、つまりADL改善などの効果を報酬で評価する仕組みを本格導入する」ことを提案。ただし、介護保険を利用する要介護・要支援者では「高齢でありリハビリなどの改善効果が出にくい」「複数疾患を併発しているケースも少なくない」「家族介護者の有無で大きく状況が異なる」などの特性があり、一律に「ADL改善度合いをベースにした報酬体系とする」ことは困難かつ危険です(ADL改善効果が現れやすい者のみを受け入れ、そうでない者を忌避するクリームスキミングが生じてしまう)。
このため、(1)「ADL改善などの効果が見込める者」にはアウトカムを組みわせた評価とする(2)「ADL改善などの効果が見込めない者」には、現行の要介護状態に応じた評価とする—との組み合わせが重要と橋本会長は指摘します。
まず、介護施設の入所時やサービス利用開始時などに「複数人の専門家(老年医療に携わる医師、経験を積んだリハビリ専門職など)が、ADL改善などが見込めるか否かをアセスメント」し、上記(1)(2)にグループ分けすることになります。
その際、「恣意的なグループ分けにならないよう、一定の基準を設ける必要がある」「(2)グループの高齢者が『見捨てられた』と感じないような配慮をしなければならない」「高齢者の状態は大きく変化し、『ADL改善等が見込める』と予想された人が傷病を発症してしまったり、逆に『ADL改善等が見込めない』と予想された人が、意外にも回復することなどを考慮しなければならない」といった留意点があります。橋本会長は「日頃からケアをしている人の感覚も極めて重要である」と指摘しており、例えば「アセスメントは一度きりでなく、経時的に複数回実施する」「専門家だけでなく、平素からケアを行うスタッフの意見も十分に参考にする」ことなどが重要でしょう。
また、(1)に該当する者について、日本作業療法士協会の調査では「老人保健施設において、1年以内に自立が見込める者が1-2割程度いる」ことが、介護レセプトの分析では「要介護4・5でも8―9%が改善し、ごくわずかであるが要支援にまで回復する者がいる」ことなどが明らかになっていますが、橋本会長は「ADL改善等のためには、リハビリ専門職や介護スタッフなどの多くの人手がいる。まずADL改善などが強く見込まれる『数人』に対して集中的な介護資源投入を行い、実績を上げるところから始めるべきである」とも提案しました。例えば50人の入所者がいる施設では、「(1)20人(2)30人などとグループ分け」するのではなく、「(1)1-2人(2)48-49人」という形でスタートするイメージです。
そこでADL改善などの成果が得られれば、スタッフのモチベーションが上がり、(1)の対象者を「3人、4人・・」と増やしてく余地が生まれます。このように「要介護度の改善、寝たきり防止」が日本全国で進めば、介護人材不足という深刻な問題にも対処が可能になってくると期待されます。
ところで、現在の介護報酬体系では、リハビリ等を積極的に行い要介護度が改善すると介護報酬が下がってしまいます。例えば、通所リハビリ(通常規模型)では、1-2時間のリハについては▼要介護5:487単位▼要介護4:455単位▼要介護3:426単位▼要介護2:395単位▼要介護1:366単位—、同じく7-8時間のリハについて▼要介護5:1369単位▼要介護4:1206単位▼要介護3:1039単位▼要介護2:897単位▼要介護1:757単位—となっています。
橋本会長は、「要介護度が改善された場合、『報酬が下がる部分』を原資として、加算等で十分にADL改善効果などを評価する」ことを強く求めています。
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