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医療安全の確保、「個人の能力」に頼らず「病院全体での仕組み構築」を―日本医療機能評価機構

2020.7.9.(木)

昨年(2019年)1年間に報告された医療事故は4049件あり、うち7.0%の315件では患者が「死亡」している。また、同じく2019年の1年間に報告されたヒヤリ・ハット事例は94万件強で、そのうち1.4%は、仮に誤った行為を実施していれば「死亡」などの重大事故につながった可能性がある―。

このような状況が、日本医療機能評価機構が7月3日に発表した2019年の「医療事故情報収集等事業」の年報から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(2018年の状況に関する記事はこちら、2017年の状況に関する記事はこちら、2016年の状況に関する記事はこちら)。

また年報では、「妊娠・出産希望のある乳がん患者に対し、妊孕性を考慮した術後化学療法を行うことになったが、医師・薬剤師・看護師とも多忙で誤った内容の化学療法を実施してしまい、患者に健康被害が生じた事例」を詳しく分析。医療安全確保は「個人の能力に頼るのではなく、病院全体で仕組みを構築する必要がある」旨を強く提言しています。

「ドレーン・チューブ」関連の医療事故、「循環器内科」での医療事故が増加

日本医療機能評価機構では、医療安全確保に向けて、医療機関で発生した医療事故やヒヤリ・ハット事例(事故には至らなかったが、ミスをしてしまいヒヤリとした、ハッとした事例)を収集、分析する「医療事故情報収集等事業」を実施し、定期的にその内容を公表しています(最近の医療安全情報に関する記事はこちら(患者移乗時の転落事例)こちら(パルスオキシメータープルーブの長時間装着による熱傷事例)こちら(気管・気管切開チューブの誤接続事例)こちら(徐放性製剤を粉砕した事例)こちら(立位での浣腸による直腸損傷事例)こちら(鎮静薬の誤調整事例)こちら(小児用ベッドから転落事例)こちら(電子カルテの誤入力)こちら(ガーゼの体内残存2)こちら(ガーゼの体内残存1)))。

昨年(2019年)に報告された医療事故の状況を見てみると、件数は合計で4532件(うち国立病院など報告義務のある医療機関に限ると4049件で、前年から29件・0.7%増)となりました。

事故全体を程度別に見ると、「死亡」が315件(事故事例の7.0%、前年比べて0.8ポイント減)、「障害残存の可能性が高い」ものが463件(同10.2%、同0.2ポイント増)、「障害残存の可能性が低い」ものが1353件(同29.9%、同2.8ポイント減)、「障害残存の可能性なし」が1215件(同26.8%、同1.0ポイント減)などとなっています。前年に比べて、やや軽度の事故が増加しているように見えます。

医療事故の概要を見てみると、最も多いのは「療養上の世話」で1579件(事故全体の34.8%、前年から0.8増)、次いで「治療・処置」1282件(同28.3%、同0.2ポイント増)、「ドレーン・チューブ」361件(同8.0%、同0.1ポイント増)「薬剤」346件(同7.6%、同1.6ポイント減)、などと続きます。「ドレーン・チューブ」に関する事故が、「薬剤」に関連する事故よりも大きなシェアを占めるに至っています。

2019年に報告された医療事故の概要と程度(医療事故調査制度2019年報1 200703)



事故に関連した診療科(複数回答が可能)を見ると、従前同様に整形外科が最も多く全体の12.4%(前年から0.6ポイント増)を占めています。ほか、外科の7.8%(同0.5ポイント減)、循環器内科の6.9%(同1.2ポイント増)、消化器科の6.4%(同0.1ポイント増)、内科の6.1%(同0.5ポイント減)などで多くなっています。循環器内科における医療事故の増加が気になります。

2019年に医療事故の関連診療科(医療事故調査制度2019年報2 200703)

ヒヤリ・ハット事例は94万件強に増加、医療現場の透明性確保がさらに推進

次にヒヤリ・ハット事例を見てみましょう。昨年(2019年)1年間に報告されたヒヤリ・ハット事例は合計94万5268件で、前年に比べて2万4000件弱の増加となりました。ただし「ミスが増加している」というよりも、「ミスを医療現場で適切に把握し、包み隠さずに報告している」、つまり「透明性が増している」という要素が大きいと考えられます。報告件数の増加は「好ましい」方向に動いていると見るべきでしょう。

内訳を見ると、「薬剤」が最も多く30万4297件(ヒヤリ・ハット事例全体の32.2%、前年に比べて0.5ポイント増)、次いで「療養上の世話」20万6478件(同21.8%、同0.3ポイント減)、「ドレーン・チューブ」14万511件(同14.9%、同0.2ポイント増)などで多くなっており、構成割合は前年から目立つ変化はなさそうです。

「ヒヤリとした、ハットした」にとどまり、実際に患者に誤った行為などをしていないケースが全体の3分の1強に当たる31万2228件あります。これらについて、「仮に誤った行為を実施してしまった」場合の影響を推測すると、「死亡」もしくは「重篤な状況」に至ったであろう重大なミスは4259件・1.4%(前年から0.2ポイント増)、「濃厚な処置・治療が必要になった」と思われる中程度のミスは2万3160件・7.4%(同0.9ポイント減)となっています。「十分な注意」「1人がミスをしても他者が気づき、リカバリーできる体制づくり」などの重要性を再確認できます。

2019年に報告されたヒヤリ・ハット事例の状況(医療事故調査制度2019年報3 200703)

個人の能力に頼るのではなく、病院全体で医療安全確保の仕組み構築を

年報では、具体的な医療事故をクローズアップして背景など分析。再発防止策などを提言しています。2019年報では、次の5つの事故事例を分析しています。
(1)2剤の化学療法を行うところ、3剤を投与してしまった事例【薬剤関連】
(2)退院時にプレドニン錠を処方し忘れた事例【薬剤関連】
(3)確認が不十分なまま別の患者の血液製剤を投与してしまった事例【輸血関連】
(4)人工呼吸器をスタンバイの状態で患者に装着し、換気を開始しなかった事例【医療機器等関連】
(5)検体を容器に移す際、別の患者の検体に混入してしまった事例【検査関連】

このうち(1)では、乳がん患者に対する術前化学療法において、患者の希望を踏まえて「2剤化学療法」とするところ、誤って「3剤による化学療法」を実施してしまったものです。

乳がん患者に対し、▼術前化学療法 → ▼乳腺悪性腫瘍手術 → ▼術後化学療法―を実施されました。術後外来化学療法において、初期レジメンには「ハーセプチン+パージェタ+ドセタキセル」の3剤が登録されていましたが、患者に「妊娠・出産」の希望があったことから主治医が妊孕性を考慮し、ドセタキセルを除く「ハーセプチン+パージェタ」の2剤投与を行うことを決めました。

しかし主治医が2回目の化学療法時に「ドセタキセルを削除する」ことを失念し、3剤を処方。看護師・薬剤師もこれに気づかず、3剤が投与されました。

その後の放射線治療時に放射線科医が「2剤投与のところ、3剤が投与されている」ことに気づき、主治医に連絡。主治医が患者に受診するよう依頼し、診察したところ「発熱性好中球減少症」の状態であったため緊急入院となりました。

事故の背景としては、▼「ハーセプチン+パージェタ」のみのレジメンは登録されていなかった▼2回目の処方時、医師は繁忙で業務中断があり「ドセタキセル」削除の確認不足があった▼薬剤部では、固定の薬剤師が抗がん剤の業務を担当していたが、当日はその薬剤師が不在で、不慣れな薬剤師が担当していた▼薬剤部では、化学療法チェックシートで指示内容を確認するが「前回指示と今回指示との違い」に気付けなかった▼看護師は、化学療法チェックシートと同様の内容が記載された化学療法承認箋を確認するが、業務が繁忙で「今回の指示と前回指示との違い」に気付けなかった—ことなどがあります。

当該病院では、▼投与内容と合致するレジメンを登録する▼薬剤部は、抗がん剤業務スタッフの固定制をなくし、輪番制で「複数の薬剤師」が抗がん剤業務に携わるシステムとする▼複数の薬剤師が、前回指示と今回指示とをチェックし、異なる場合には担当医に疑義照会する▼看護師は、前回指示と今回指示の内容確認を行う―などの改善策をとっています。

機構では、▼医療安全は個人の能力に頼るのではなく「病院内で仕組みを作る」ことが重要である▼がん薬物療法認定薬剤師のようなスペシャリストがいれば、当該薬剤師を中心に薬剤師全体の能力向上に向けた教育が可能である▼薬剤師だけのレジメンの勉強会ではなく、「医師」「皮膚・排泄ケア認定看護師」「がん化学療法認定看護師」なども参加する勉強会開催が重要である▼「薬物療法の計画」「当日投与する薬剤」を医療者と患者が一緒に確認するような「患者参加を促す」対策も重要である—などのアドバイスを行っています。

とりわけ重要なのは、個人の能力に頼るのではなく、「病院内で医療安全の仕組みを作る」という点でしょう。詳細については個々の医療機関で人員配置や体制等が異なるため、最終的には「自院にマッチした医療安全対策」を構築することになりますが、そこでは「病院全体で医療安全の仕組みを構築する」という視点を欠いてはなりません。

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