救急医療管理加算、真に重篤な状態の患者を見極めるために基準の明確化や「その他重篤な状態」項目の見直しを―入院・外来医療分科会(2)
2023.10.2.(月)
救急医療管理加算を算定する患者の状態を見ると「必ずしも重篤でない」患者が少なからず含まれているようだ。算定基準の明確化が必要であるが、どのように考えていくべきか—。
救急医療管理加算2の「その他の重篤な状態」に該当する患者の多くは、「必ずしも重篤でない」ようであり、「その他の重篤な状態」との基準をどう見直していくべきか—。
9月29日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(以下、入院・外来医療分科会)では、こういった議論も行われています(同日の「医療従事者の働き方改革」を支える診療報酬に関する記事はこちら)。また、同日には「地域包括ケア病棟」「慢性期入院医療」「短期滞在手術等基本料」「データ提出加算」に関する議論も行われており、別稿で報じます。
救急医療管理加算、「基準の明確化」が必要ではあるが・・・
救急医療管理加算は、「一般病棟等で重篤な救急搬送患者を受け入れる場合のコスト増を経済的に評価する」という趣旨で設けられています。重篤な状態の患者が救急搬送された場合、多くの検査・処置等を入院初期に行うことが求められ、スタッフの負担も大きくなります。こうした点を診療報酬で評価することで「救急患者の円滑な受け入れ」を促進することを目指すものです。
しかし、従前より「算定患者の中には、必ずしも重篤でない患者が含まれている」との問題点が指摘されています(入院時に「重篤である」患者が算定対象となる)。
このため、2022年度の前回診療報酬改定では「患者の状態を詳細に把握する」ことなどを目指した次のような見直しが行われました。
●救急医療管理加算1:(現在)950点(7日まで)→(見直し後)1050点(7日まで)
【対象患者】
以下のア-サのいずれかで、緊急に入院が必要と認められた重症患者
ア 吐血、喀血または重篤な脱水で全身状態不良の状態
イ 意識障害または昏睡
ウ 呼吸不全または心不全で重篤な状態
エ 急性薬物中毒
オ ショック
カ 重篤な代謝障害(肝不全、腎不全、重症糖尿病等)
(改)キ 広範囲熱傷、「顔面熱傷または気道熱傷」
ク 外傷、破傷風等で重篤な状態
ケ 緊急手術、緊急カテーテル治療・検査またはt-PA療法を必要とする状態
(新)コ 消化器疾患で緊急処置を必要とする重篤な状態
(新)サ 蘇生術を必要とする重篤な状態
●救急医療管理加算2:(現在)350点(7日まで)→(見直し後)420点(7日まで)
【対象患者】
以下のア-サのいずれかに準ずる状態で、緊急に入院が必要と認められた重症患者
ア 吐血、喀血または重篤な脱水で全身状態不良の状態
イ 意識障害または昏睡
ウ 呼吸不全または心不全で重篤な状態
エ 急性薬物中毒
オ ショック
カ 重篤な代謝障害(肝不全、腎不全、重症糖尿病等)
(改)キ 広範囲熱傷、「顔面熱傷または気道熱傷」
ク 外傷、破傷風等で重篤な状態
ケ 緊急手術、緊急カテーテル治療・検査またはt-PA療法を必要とする状態
(新)コ 消化器疾患で緊急処置を必要とする重篤な状態
(新)サ 蘇生術を必要とする重篤な状態
(改)シ その他重篤な状態
●「イ 意識障害または昏睡」では「JCSゼロ」、「ウ 呼吸不全または心不全で重篤な状態」では「NYHA分類1、またはP/F比400以上」、「キ 広範囲熱傷、顔面熱傷または気道熱傷」では「Burn Indexゼロ」の場合に「緊急入院が必要と判断した医学的根拠」を新たにレセプトの摘要欄に記載することが求められます。
例えば「JCSゼロ」とは意識清明な状態をさしますが、「意識障害・昏睡」として救急医療管理加算が算定されるケースが一定程度存在します。「意識清明(JCSゼロ)であるにもかかわらず、なぜ『意識障害・昏睡で緊急入院が必要である』と判断したのか」が不明であり、集積されたデータをもとに「要件の明確化」などを検討していくことになりました。
この点、9月29日の入院・外来医療分科会には次のようなデータが示されました。
▽「意識障害・昏睡」により加算を算定する患者のうち、JCSゼロの割合は減少している
▽「意識障害・昏睡」により加算を算定する患者のうち「JCSゼロ」の割合は大きくバラついている(加算1では「5%以下」の医療機関が64%を占めるが、「20%以上」の医療機関も11%ある、加算2では「5%以下」の医療機関が46%を占めるが、「20%以上」の医療機関も8%ある)
▽「意識障害・昏睡」により加算1を算定するが「JCSゼロ」の患者に対して人工呼吸や非開胸的心マッサージが実施される割合は2022→24年度には低下し、「JCS1以上」とは大きく異なっている(JCS1以上のほうが当該処置患者割合が高い)
▽「意識障害・昏睡」で加算を算定する患者について、「JCS100-200、JCS300で加算2を算定する患者」のほうが、「JCSゼロ-30で加算1を算定する患者」よりも死亡率が高い
▽「意識障害・昏睡」により加算1を算定する割合は、特にJCSゼロ-200では、医療機関間のばらつきが大きい
ここから「JCSのスコアが低い患者では、重篤でないケースが多い」ことや、「救急医療管理加算で求められる『重篤』との判断と、JCSスコアとの間に大きな乖離がある」ことなどが伺え、例えば「加算算定患者の範囲をより明確にするために、JCS●以上等の基準に見直すべきではないか」などの論点が浮上してきます。同様のデータが「呼吸不全・心不全」「広範囲熱傷」でも確認されています。
こうした状況を踏まえ中野惠委員(健康保険組合連合会参与)は「明確な基準値を設けるべき」と、鳥海弥寿雄委員(東京慈恵会医科大学医療保険指導室室長)は「審査の現場では、レセプト1枚で患者の状態が重篤か否かを判断することは難しい。基準の明確化を考えるべき」と提案しています。
一方、「単純に『JCSゼロは加算算定を認めない』などの基準を設けることには反対である。JCSゼロでも『脳動脈の血栓症による脳梗塞』などの患者がおり、早期に適切な処置をしなければ脳ヘルニア→死亡となるケースも稀ではない。実際、JCSゼロでも10.6%の患者は死亡しており、単純に加算要件を敷けば大事な患者が漏れてしまう。医師は『症状・病態』を見て重症度を判断している。そうした点を考慮した基準明確化を図るべき」(牧野憲一委員:日本病院会常任理事、旭川赤十字病院院長)、「2次救急では専門医でない医師が対応するケースもあり、判断結果にバラつきが出てしまう。医師働き方改革で、大学病院から2次救急への医師派遣が難しくなる中で救急医療管理加算に大きな見直しを行うことは危険である。医師働き方改革の効果・成果、影響を今後見た上で、救急医療管理加算の見直しを考えていくべき」(山本修一分科会長代理:地域医療機能推進機構理事長)といった声も出ています。
山本分科会長代理の指摘する「2次救急の確保」は、a href=”https://gemmed.ghc-j.com/?p=56336″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>高齢者の救急搬送とも絡み、非常に重要な要素となるでしょう。
加算2の「その他の重篤な状態」の該当患者、「重篤でない」ケースが少なくないのでは
また「2018年度から22年度にかけて、加算1算定患者は減少し、加算2算定患者は増加する傾向にある」とのデータも示されていますが、この点について牧野委員や津留英智委員(全日本病院協会常任理事)は「救急医療管理加算の査定に関しては、都道府県別に極めて大きな差がある。このため『加算1での請求を諦め、加算2に移行している』ケースが増加していると考えられる。そうした点を確認する必要がある」と指摘しています。
さらに厚労省は、「加算2における『その他の重篤な状態』の患者の多くは、重篤な状態であれば『意識障害・昏睡』『救急手術、緊急カテーテル治療・検査、t-PA両方を必要とする状態』『呼吸不全・心不全で重篤な状態』『ショック』などに該当する』とのデータも示しました。つまり、「その他の重篤な状態」として加算2を算定する患者の多くは、「実は重篤ではなく、救急医療管理加算の算定にはならないのではないか」という疑問がわいてくるのです。
この点について中野委員は「今の『その他』という表現では、算定要件として相応しいか疑問がある。どのような見直しが適切か考えるべきである」とコメントしています。
もっとも「重篤な状態」を全て列挙することは困難であることから「その他の重篤な状態」という項目が設定されている面もあり、どういった見直しが考えられるのか、今後の動きに注目する必要があるでしょう。
なお、「重篤な患者」であっても状況はさまざまであり「基準の明確化」ですべての問題が解決するわけではありません。基準の明確化は重要ですが、別の場面で「基準こそ満たさないが重篤である」患者が漏れてしまい、適切な治療が行われないケースが出てくることも問題です。とはいえ基準を細かくすればするほど、医療機関や審査の負担が大きくなり、また「判断の揺らぎ」が生じる可能性も出てきます。
救急医療管理加算については、こうした難しい面を踏まえて「改定の都度に1つ1つの課題に対応していく」ことが重要でしょう。
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