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リハビリ実施中の転棟等による外傷、全身状態の悪化などの医療事故が頻発、病棟とリハビリ室の連携体制など点検を―医療機能評価機構

2020.10.6.(火)

今年(2020年)4-6月に報告された医療事故は952件、ヒヤリ・ハット事例は6078件であった。医療事故のうち6.8%では患者が死亡しており、10.8%では死亡にこそ至らないまでも「障害残存」の可能性が高い。前四半期に比べて、こうした重大な医療事故が増えている—。

こういった状況が、日本医療機能評価機構が9月29日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第62回報告書から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(前四半期(2020年1-3月)を対象にした第61回報告書に関する記事はこちら、昨年(2019年)の年報に関する記事はこちら)。

また報告書では、(1)リハビリテーションを受けている患者に関連した事例(2)ヘパリン製剤の投与量を誤った事例(3)患者の咀嚼・嚥下機能に合わせて食種を選択したが、想定していなかった食物が提供された事例―の3テーマについて詳細に分析し、改善策を提示しています。このうちリハビリ関連では、リハビリ実施中に患者が転倒・転落してしまった事故や、検査値のすぐれない患者にリハビリを実施したために状態が悪化してしまった事故などが散発していることが確認されました。リハビリ室と病棟との十分な連携体制などを構築する必要があります。

2020年4-6月、重大な医療事故がやや減少したが、中長期的に見ていくことが必要

今年(2020年)1-3月に報告された医療事故952件を、事故の程度別に見ると▼死亡:63件・事故事例の6.6%(前四半期に比べて0.2ポイント減)▼障害残存の可能性が高い:93件・同9.8%(同1.0ポイント減)▼障害残存の可能性が低い:291件・同30.6%(同4.6ポイント増)▼障害残存の可能性なし:234件・同24.6%(同4.2ポイント減)―などとなりました。前四半期に比べて、「死亡」あるいは「障害残存の可能性が高い」という重大な医療事故はやや減少していますが、中長期的な動向を見ていく必要があります。

医療事故の概要を見ると、最も多いのは「療養上の世話」で312件・事故事例の32.8%(前四半期に比べて0.1ポイント増)、次いで「治療・処置」303件・同31.8%(同1.3ポイント増)、「ドレーン・チューブ」83件・同8.7%(同0.7ポイント増)、「薬剤」79件・同8.3%(同0.6ポイント減)などと続いています。「ドレーン・チューブ」に関連する医療事故が増加している点が気になりますが、さまざまな医療行為の場で「事故の可能性がある」点を再確認すべきでしょう。

医療事故事例の概要(医療事故情報収集等事業62回報告書1 200929)

ヒヤリ・ハット事例、広範囲の医療行為で発生している点を再確認せよ

ヒヤリ・ハット事例を見てみると、今年(2020)年4-6月の報告件数は6335件。内訳を見ると、「薬剤」関連の事例が最も多く2278件・ヒヤリ・ハット事例全体の34.9%(前四半期と比べて1.0ポイント増)、次いで「療養上の世話」1266件・同19.4(同1.1ポイント減)、「ドレーン・チューブ」1040件・同15.9%(同1.3ポイント増)などとなっています。医療事故と同じく、広範な医療行為の場で、ヒヤリ・ハット事例が生じていることが分かります。

ヒヤリ・ハット事例のうち、医療機関での実施がなかった3835件について「仮に実施してしまっていた場合の患者への影響度」を見ると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が97.2%(前四半期から増減なし)と、ほとんどを占めている状況に変化はありません。しかし、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも2.4%(同増減なし)、「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」ケースも0.3%(同0.1ポイント減)あります。ごく少数ですが、「一歩間違えば重大な影響が出ていた」事例が生じていることから、全ての医療機関において院内のチェック体制を改めて点検しなおす必要があります。

その際、「個人が気を付ける」ことはもちろん重要ですが、個人の注意だけで医療事故やヒヤリ・ハット事例を防止することはできません。注意深く業務を行っても、人は必ずミスを犯しますし、とりわけ極めて多忙な医療従事者は、ミスが生じやすい環境で働いています。こうした中では、「ペナルティの導入」などには意味がなく(効果がない)、かえって弊害のほうが大きくなると指摘されています。

「人はミスを犯す」という前提に立ち、「必ず複数人でチェックする」「ミスが生じる前に、あるいは生じた場合には、すぐに気付け、また包み隠さず報告できるような仕組みを構築する」「院内のルールを遵守し、医療安全を確保し、医療の質を向上させようという、風土を作り上げる」など、医療機関全体で対策を講じることが必要となります。

ヒヤリ・ハット事例の概要(医療事故情報収集等事業62回報告書2 200929)

リハビリ関連事故が直近1年半で66件も発生、転倒などによる外傷がとりわけ多い

報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた詳細な分析を行っています。今回は、(1)リハビリテーションを受けている患者に関連した事例(2)ヘパリン製剤の投与量を誤った事例(3)患者の咀嚼・嚥下機能に合わせて食種を選択したが、想定していなかった食物が提供された事例―の3テーマについて詳細に分析し、改善策を提示しています。

本稿では、(1)の「リハビリ関連」に焦点を合わせ、事故の背景や対策について少し詳しく見てみましょう。

昨年(2019年)1月から今年(2020年)6月までのわずか1年半の間に、リハビリに関連する医療事故は66件も報告されています。うち死亡事例が3件(リハビリ関連事故の4.5%)、障害残存の可能性が高い事例が4件(同6.1%)、また事故後に濃厚な治療が必要な事例が29件(同43.9%)などとなっています。

66件のうち「実際のリハビリ」の際に発生した事故は49件あり、その内訳は▼転倒・転落:16件(リハビリの際に発生した事故の32.7%)▼転倒・転落以外による外傷:16件(同32.7%)▼全身状態の悪化:9件(同13.6%)▼チューブ類のトラブル:5件(同7.6%)▼免荷・荷重の指示からの逸脱:1件(同1.5%)▼患者間違い:1件(同1.5%)―などという状況です。

また49件のうち44件は「リハビリ実施中」に発生しており、実施していたリハビリの内容を見ると、▼歩行訓練:13件(実施中に生じた事故の29.5%)▼関節可動域訓練:8件(同18.2%)▼起居・移乗訓練:7件(同15.9%)▼端坐位訓練:2件(同4.5%)▼体位変換:2件(同4.5%)▼立位訓練:2件(同4.5%)―などが多くなっています。

実際に生じた事故(転倒・転落)の1例の状況を見てみると、入院中の70歳代患者が、自宅退院に向けて歩行訓練を実施(初回実施)している際、理学療法士が点滴スタンドの位置を歩行中に修正しようとした折に、患者の右足部が床にひっかかって転倒し、右大腿骨頚基部骨折(人工骨頭挿入術を実施)してしまいました。バランス機能評価の際に「右下肢の支持性が低下している」ことが分かっていましたが、点滴ルートが左前腕に挿入されていたことから「左側での介助」を理学療法士が選択。患者のふらつきに素早い介助ができなかったようです。

機構では、▼初回のリハビリでは、病棟の看護師から患者の情報を得る(困難な場合には、初回リハビリを担当した経験のある者の情報をもとにリハビリ部門で患者情報を共有する)▼初回のリハビリでは患者の能力を過信せず、「補助具の使用」「複数名でのサポート」などを含めて慎重に検討する▼点滴の時間が決まっている場合は、その時間を避けてリハビリを行う—などの対策案を指摘しています。



また、別の事例(全身状態の悪化)を見てみると、採血データから「Dダイマー((血栓の発症を診断する指標))が19.8μg/mL」と上昇した患者に対しリハビリを実施したところ、途中で気分不快の訴えがありました。バイタルサインを測定したところ問題がないことを確認し、病棟に戻しましたが、後にCT検査で「肺塞栓症」となっていたことが判明しました(治療薬エリキュースを3か月内服することになった)。同院ではDダイマー値が20μg/mL以上の場合にCT検査を実施するルールが設けられており、当該患者は僅かに基準をクリアしており、また担当理学療法士がリハビリ実施前に病棟に確認をしましたが、連絡がつかなかったため、そのままリハビリを実施してしまっています。

機構では、▼病棟等の連絡体制についての改善を行う▼「検査室におけるパニック値の連絡体制」(関連記事はこちら)なども参考に、「連絡が取れなかった場合の対応」についても検討しておく―ことを求めています。

さらに機構では、次回報告書(来年(2021年)1月公表予定)において、リハビリ関連事故に関するさらに詳細な分析を行います。

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