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救急搬送受け入れ2000件以上で、勤務医負担軽減に取り組む医療機関を【地域医療体制確保加算】で評価―中医協総会（3）

2020.1.30.（木）

お伝えしているとおり、1月29日の中央社会保険医療協議会・総会に「2020年度診療報酬改定の個別改定項目」（いわゆる短冊）が提示され、改定内容（基本方針の項目建て）のうち「医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進」および「タスク・シェアリング／タスク・シフティングのためのチーム医療等の推進」に関する議論が行われました。

本稿では、2020年度改定の重点事項とされた「医療従事者の働き方改革」の診療報酬でのサポートに焦点を合わせてみます（関連記事はこちらとこちら）。

1月29日に開催された、「第448回中央社会保険医療協議会総会」

1 救急搬送受け入れ2000件以上医療機関に、勤務医負担軽減の経済的インセンティブ
2 救急搬送受け入れ1000件以上の医療機関、救急搬送看護体制加算を充実
3 常勤換算の要件を緩和、入退院支援加算・入院時支援加算でも活用可能
4 特定行為研修を修了した看護師、麻酔業務の一部を実施可能に

救急搬送受け入れ2000件以上医療機関に、勤務医負担軽減の経済的インセンティブ

我が国の医療は「勤務医による極めて過酷な長時間労働」によって支えられており、「勤務医自身の健康・生命の確保」「医療安全の確保」のために「医師の働き方改革」を実行することが極めて重要な政策課題となっています。昨年（2019年）3月には厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が取りまとめを行い、次のような方向が固められています。

▽2024年4月から「医師の時間外労働上限」を適用し、原則として年間960時間以下とする（すべての医療機関で960時間以下を目指す）【いわゆるA水準】

▽ただし、「3次救急病院」や「年間に救急車1000台以上を受け入れる2次救急病院」など地域医療確保に欠かせない機能を持つ医療機関で、労働時間短縮等に限界がある場合には、期限付きで医師の時間外労働を年間1860時間以下までとする【いわゆるB水準】

▽また研修医など短期間で集中的に症例経験を積む必要がある場合には、時間外労働を年間1860時間以下までとする【いわゆるC水準】

こうした時間外労働上限の遵守を可能とするため、今後、すべての医療機関で「労務管理の徹底」（いわゆる36協定の適切な締結など）や「労働時間そのものの短縮」（例えば、医師の業務を多職種に移譲（タスク・シフティング）するなど）を強力に進めていくことが求められます。

ただし、少なからぬ医療機関（とりわけ病院）では勤怠管理すら十分に行われておらず、こうした取り組みを強力に進めていくためには相応のコストがかかることも事実です。

そこで社会保障審議会の医療部会・医療保険部会でまとめられた2020年度診療報酬改定の「基本方針」では、「医療従事者の負担軽減、医師等の働き⽅改⾰の推進」が重点課題に据えられ（医療部会の議論に関する記事はこちら、医療保険部会の議論に関する記事はこちら）、昨年末の2020年度予算編成に向けた加藤勝信厚生労働大臣・麻生太郎財務大臣の折衝では「消費税を財源として、救急医療の提供実績が一定以上の病院について『勤務医に対する働き方改革』に向けた診療報酬上の対応を行う」（プラス改定0.08％分、公費126億円）ことを決定。

こうした状況を踏まえ、中医協では「過酷な勤務環境となっている、地域の救急医療体制において重要な機能を担う医療機関を評価する」方針を決定。厚労省保険局医療課の森光敬子課長は、この方針に沿って、新たな入院基本料等加算【地域医療体制確保加算】を創設する考えを示しました。なお、下記の要件を満たさないまでも、地域医療確保にとって重要な役割を果たす救急医療機関等については、別途、「地域医療介護総合確保基金」の積み増し（2020年度予算では143億円増）で経済的支援が行われます。

救急医療機関等の経済的評価は、診療報酬と地域医療介護総合確保基金で分けて行われる（中医協総会（3）1　200129）

施設基準案は次のように設定されており、勤務医の負担軽減・処遇改善等に積極的に取り組む10対1以上の病棟・ユニットが対象となっていることが分かります。

▽一般病棟入院基本料（地域一般を除く）、結核病棟入院基本料（7対１・10対１）、精神病棟入院基本料（10対1）、特定機能病院入院基本料（7対１・10対１）、専門病院入院基本料（７対１・10対１）、救命救急入院料、特定集中治療室管理料、ハイケアユニット入院医療管理料、脳卒中ケアユニット入院医療管理料、小児特定集中治療室管理料、新生児特定集中治療室管理料、総合周産期特定集中治療室管理料、新生児治療回復室入院医療管理料、一類感染症患者入院医療管理料、小児入院医療管理料（小入管5を除く）、精神科救急入院料又、精神科救急・合併症入院料を算定する病棟

▽救急用自動車・救急医療用ヘリコプターによる搬送件数が「年間2000件」以上

▽病院勤務医の負担軽減・処遇改善に資する次の体制を整備（すべて）
▼病院勤務医の負担軽減・処遇改善のため、勤務医の勤務状況把握とその改善の必要性等を提言するための責任者を配置する
▼病院勤務医の勤務時間および当直を含む夜間の勤務状況を把握する
▼院内に多職種からなる役割分担推進委員会・会議を設置し、「病院勤務医の負担軽減・処遇に資する計画」（以下、計画）を作成。当該委員会等は、計画の達成状況の評価を行う際、その他適宜必要に応じて開催する
▼計画は、現状の勤務状況等を把握し、問題点を抽出した上で、具体的な取り組み内容と目標達成年次等を含めた病院勤務医の負担軽減・処遇改善に資するものとし、定期的な評価・見直しを行う
▼計画作成に当たっては、以下の項目を踏まえ検討した上で、必要な事項を記載する
・医師と医療関係職種、医療関係職種と事務職員等における役割分担の具体的内容（初診時の予診の実施、静脈採血等の実施、入院の説明の実施、検査手順の説明の実施、服薬指導など）
・勤務計画上、連続当直を行わない勤務体制の実施
・前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間の一定時間休息の確保（勤務間インターバル）
・予定手術前日の当直や夜勤に対する配慮
・当直翌日の業務内容に対する配慮
・交替勤務制・複数主治医制の実施
・育児・介護休業法を活用した短時間正規雇用医師の活用
▼病院勤務医の負担軽減・処遇改善に関する取り組み事項を院内掲示等の方法で公表する

ここで「病院勤務医の負担軽減・処遇に資する計画」の内容が気になりますが、上記を眺めると、各医療機関に求められている「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取り組み」（下表、上段）の的確な実施が大きな柱になっていることが分かります。また森光医療課長は、「『医師の働き方改革の推進に関する検討会』において、いわゆるB・C水準指定の要件となる『医師労働時間短縮計画』（この内容が十分と評価されて初めてB・C医療機関の指定を受けられる）の検討が進められており（下表、下段）、これが固まれば、診療報酬の施設基準や算定要件を合わせていく」考えを示しています。2021年度から医師労働時間短縮計画を作成することになるため、2020年度中にその詳細が固められる見込みです。

2018年3月に通知された「緊急的な取り組み」の概要（中医協総会（1）3　191218）

具体的な点数は、答申時（2月7日見込み）に明らかにされます。体制加算となり、入院初日に上記の入院料算定病棟において全患者に算定することが可能となります。

救急搬送受け入れ1000件以上の医療機関、救急搬送看護体制加算を充実

また救急医療現場における勤務医の負担軽減を図るために、【救急搬送看護体制加算】に上位区分（加算1）を設けることになりました（関連記事はこちら）。

【救急搬送看護体制加算】は、【夜間休日救急搬送医学管理料】（地域医療支援病院や救急告示病院等において夜間・休日・深夜に救急用自動車等で緊急搬送された患者への医学管理実施を評価する）の上乗せ加算で、「救急用自動車・救急医療用ヘリによる搬送件数が年間200件以上」「救急患者受け入れ対応に係る専任看護師配置」を要件とするものです。

今般、新設される加算1は、▼救急用自動車・救急医療用ヘリによる搬送件数が「年間1000件」以上▼救急患者受け入れ対応に係る専任看護師の「複数」配置―が施設基準となり、救急搬送患者受け入れ実績の高さと、救急患者への対応体制の充実に着目して、より高い評価を行うものです。

以上より、救急搬送患者の受け入れ実績が高い（年間2000件以上）病院では、新設される【救急搬送看護体制加算1】と【地域医療体制確保加算】という2つの加算で手厚く評価されることになります（もちろん、各要件等を満たさなければならない）。この2つの加算を活用して、「救急医の確保」や「看護師等へのタスク・シフティング」（看護師等確保も必要となる）を進め、救急医をはじめとする勤務医の負担軽減を積極的に行っていくことが期待されます。

常勤換算の要件を緩和、入退院支援加算・入院時支援加算でも活用可能

また、医師をはじめとする医療従事者の負担軽減を進めるために、次のようなさまざまな診療報酬上の手当ても行われます。

▽常勤換算の緩和と拡大
→現在「週3日以上・週24時間以上の勤務を行う複数非常勤職員を組み合わせた常勤換算」を一部で認めているが、これは「1日8時間以上勤務」がベースの考え方となっている。1日8時間未満（例えば7.5時間など）勤務など多様な働き方が進められている点を踏まえ、「週3日以上・週22時間以上の勤務を行う複数非常勤職員を組み合わせた常勤換算」を可能とする
→常勤換算を可能とする診療報酬を、【緩和ケア診療加算】【栄養サポートチーム加算】【感染防止対策加算】【抗菌薬適正使用支援加算】などにも拡大する

▽専従要件の拡大
→【ウイルス疾患指導料】の注2、【障害児（者）リハビリテーション料】、【がん患者リハビリテーション料】について「専従を求められる業務を実施していない勤務時間において、他の業務に従事できる」ことを明確にする

▽医療従事者の勤務環境改善に関する取り組みの推進
→【総合入院体制加算】、【医師事務作業補助体制加算】、処置・手術における【休日加算1・時間外加算1・深夜加算1】で求められている「医療従事者の勤務環境改善に関する取り組み」の実効性を確保するため、多職種からなる役割分担推進委員会・会議に「年１回以上、当該病院の管理者（院長等）が出席する」ことを求める
→【総合入院体制加算】において、「医療従事者の勤務環境改善に関する取り組み」の内容に「特定行為研修修了者である看護師複数名の配置・活用」「院内助産・助産師外来の開設」を含める（5項目中2項目実施→7項目中3項目実施とする）

▽薬剤師の活用による勤務医負担軽減の推進
→【病棟薬剤業務実施加算】の評価を充実（点数の引き上げ）し、ハイケアユニットにおいても取得可能とする
→【病棟薬剤業務実施加算】【薬剤管理指導料】について、薬剤師の常勤換算（週3日以上・週22時間以上の勤務を行う複数非常勤薬剤師を組み合わせた常勤換算）を可能とする

▽夜間における看護業務の柔軟な負担軽減
→【夜間看護体制加算（急性期看護補助体制加算の上乗せ加算）】などの「夜間における看護業務の負担軽減」に向けた取り組みとして、「夜勤を含む交代制勤務に従事する看護要員の夜勤後の暦日の休日確保」「夜勤時間帯の患者のニーズに対応できるような柔軟な勤務体制の工夫」「ICT、AI、IoT等の活用による看護要員の業務負担軽減」を追加する

▽臓器移植に係る評価の充実等

▽【入退院支援加算】【入院時支援加算】における看護師等配置について、常勤換算（週3日以上・週22時間以上の勤務を行う複数非常勤看護師等を組み合わせた常勤換算）を可能とする

特定行為研修を修了した看護師、麻酔業務の一部を実施可能に

さらに、医師から他職種へのタスク・シフティングを推進する観点から、次のような見直しも行われます。

▽【医師事務作業補助体制加算】について評価を充実（点数の引き上げ）するとともに、算定対象病棟の拡大（療養病棟の回復期リハビリ病棟や地域包括ケア病棟など）を行う

▽麻酔管理料（II）について、麻酔を担当する医師の一部の行為を「適切な研修を修了した看護師」（特定行為研修を修了した看護師等）が実施することを認めるとともに、麻酔前後の診察を「当該医療機関の常勤麻酔科標榜医」でも実施可能とする

▽【看護職員夜間配置加算】、【急性期看護補助体制加算】などの評価を充実（点数の引き上げ）する

また、【感染防止対策加算1】や【退院時共同指導料】などで求められているカンファレンスについて、現在は「原則として対面、やむを得ない場合等にはオンラインでも可能」としている点について、オンラインカンファレンスの縛り（やむを得ない場合など）を削除し、特段の理由がなくともオンラインでカンファレンスを実施することが可能となります。多忙な医療専門職が一堂に会することは困難で、これが加算算定のハードルになっている部分も少なくないことから、今回の見直しで「オンラインの活用によるカンファレンスの実現」→「加算算定」につながり、医療の質向上につながると期待されます。