有床診、2022年10月に6000施設・12月に8万床を切る見込み、減少に歯止めがかかったのか?―医療施設動態調査(2021年6月)
2021.9.6.(月)
有床診療所は、今年(2021年)5月から6月にかけて9施設・222床の減少となり、減少ペースは落ちているようにも見えるが、早計な判断はできない―。
現在の減少ペースが維持されるとすれば、来年(2022年)10月末に6000施設を割り込み、同じく12月末には8万床を切る計算である―。
厚生労働省が8月31日に公表した医療施設動態調査(2021年6月末概数)から、こうした状況が分かりました(厚労省のサイトはこちら)。
有床診の施設数、来年(2022年)10月に6000施設を割るペースで減少
「医療施設動態調査」は、毎月末における医療機関(病院・診療所)の施設数・病床数を集計したものです(前月末の状況はこちら、前々月末の状況はこちら、その前の月末の状況はこちら)。今年(2021年)6月末における全国の医療施設は18万198施設となり、5月末から252施設増加しました。
うち病院の施設数は、今年(2021年)5月末から1施設減少し、8215施設となりました。種類別に見ると、▼一般病院:7162施設(5月末から1施設減)▼精神科病院:1053施設(同増減なし)—などです。一般病院のうち「療養病床を有する病院」は3536施設で、5月末から3施設減、「地域医療支援病院」は630施設で5月末から変化ありません。
医科診療所の施設数は10万3924施設で、5月末から287施設の増加となりました。内訳を見ると、無床の一般診療所が296施設増加(9万7670施設)、有床診療所が9施設減少(6254施設)となっています。無床の一般診療所増加は、「病院から無床診療所への医師移動、つまり退職」を伴います。新型コロナウイルス感染症が急拡大し、「医療従事者が散在し、医療提供体制が逼迫している」と各地で悲鳴が上がる中で、こうした動きをどう考えていくべきなのか、議論を呼ぶことになるかもしれません。
医科の有床診療所施設数を見ると、2年前(2019年6月末)には6697施設(厚労省のサイトはこちら)、1年前(2020年6月末)には6446施設(厚労省のサイトはこちら)でした。2019年6月末から昨年(2020年)6月末までの1年間で251施設の減少、そこから今年(2021年)6月末(6254施設)までの1年間で192施設の減少となっています。有床診療所の施設数は、昨年(2020年)6月末以降、次のように推移しています。
▼2020年6月末:6446施設
↓(13施設減)
▼2020年7月末:6433施設
↓(19施設減)
▼2020年8月末:6414施設
↓(10施設減)
▼2020年9月末:6404施設
↓(25施設減)
▼2020年10月末:6379施設
↓(9施設減)
▼2020年11月末:6370施設
↓(21施設減)
▼2020年12月末:6349施設
↓(26施設減)
▼2021年1月末:6323施設
↓(20施設減)
▼2021年2月末:6303施設
↓(17施設減)
▼2021年3月末:6286施設
↓(17施設減)
▼2021年4月末:6269施設
↓(6施設減)
▼2021年5月末:6263施設
↓(9施設減)
▼2021年6月末:6254施設
直近1年間は、1か月当たりちょうど「16施設」のペースで減少が続いています。現在のペースが続くと仮定すれば、来年(2022年)10月末に6000施設を割る計算です(前月までよりも1か月遅いペース)。
有床診のベッド数、「2022年12月末」に8万床を割るペースで減少
病院・診療所の病床数(ベッド数)に目を移してみましょう。
全体では、今年(2021年)6月末には158万9076床で、前月(2021年5月)末から856床の減少となりました。再び「ベッドの減少」スピードが上がっているように見え、今後の状況を注視する必要があります。
このうち病院の病床数は150万4269床で、前月末から634床の減少。医療法上の病床種類別に見ると、▼一般病床:88万6491床(前月末から102床増加)▼療養病床:28万8144床(同653床減少)▼精神病床:32万3719床(同65床減少)—などとなっています。
また、有床診療所の病床数は前月末から222床減少し、8万4749床となりました。2年前(2019年6月末)には9万1498床(厚労省のサイトはこちら)、1年前(2020年6月末)には8万7938床(厚労省のサイトはこちら)でした。2019年6月末から昨年(2020年)6月末までの1年間で3560床減少、そこから今年(2021年)6月末までの1年間で3189床減少しています。昨年(2020年)6月末以降、有床診のベッド数は次のように推移しています。
▼2020年6月末:8万7938床
↓(215床減)
▼2020年7月末:8万7723床
↓(325床減)
▼2020年8月末:8万7398床
↓(182床減)
▼2020年9月末:8万7216床
↓(348床減)
▼2020年10月末:8万6868床
↓(200床減)
▼2020年11月末:8万6668床
↓(337床減)
▼2020年12月末:8万6331床
↓(402床減)
▼2021年1月末:8万5929床
↓(280床減)
▼2021年2月末:8万5649床
↓(313床減)
▼2021年3月末:8万5336床
↓(287床減)
▼2021年4月末:8万5049床
↓(78床減)
▼2021年5月末:8万4971床
↓(2262床減)
▼2021年6月末:8万4749床
この1年間では、1か月当たり「266床弱」のペースで減少が続いています。現在のペースが継続すると仮定すれば、来年(2022年)12月末に8万床を切る計算です(前月までより2か月遅いペース)。
有床診は、▼将来の地域包括ケアシステム(要介護状態になっても住み慣れた地域で在宅生活を継続可能とする仕組み)▼現在の医療提供体制―のいずれにおいても重要な構成要素です(2次医療圏の中には、総ベッド数の4分の1が有床診である地域もある)。有床診の減少は、現在および将来における地域医療・介護提供体制の脆弱化を招きかねません。
厚労省は、2018年度診療報酬改定(介護報酬との同時改定)で、有床診療所を(1)専門特化型(2)地域包括ケア型―の2類型に分け、後者の『地域包括ケア型』について「過疎地などにおける入院医療の重要な支え手(地域包括ケアシステムの重要な担い手)であるものの、経営が厳しく、存続が困難」といった課題に直面していることを重視。有床診経営を支援するために、要介護者の受け入れを【介護連携加算】で評価するなどの報酬見直しを行いました(関連記事はこちらとこちら)。
さらに、2020年度診療報酬改定では、次のような見直しが行われました(関連記事はこちら)。
▼【有床診療所一般病床初期加算】(急性期病棟からの転棟患者受け入れを評価する)について、点数を150点に引き上げ(50点増)、算定上限日数を「転棟等日から14日」に延長する(7日間延長)
▼【医師配置加算】について、加算1を120点(32点増)、加算2を90点(30点増)に引き上げる
▼【看護配置加算】について、加算1を60点(20点増)、加算2を35点(15点増)に引き上げる
▼【夜間看護配置加算】について、加算1を100点(15点増)、加算2を50点(15点増)に引き上げる
▼【看護補助配置加算】について、加算1を25点(15点増)、加算2を15点(10点増)に引き上げる
▼【有床診療所緩和ケア診療加算】について、250点に引き上げる(100点増)
この効果はどの程度なのかは、これまでのところ明確には鑑別できないようです。今年(2021年)4月から5月、5月から6月にかけて減少ペースがダウンしているように見えますが、「恒久的なものか」「一時的なものか」の判断はまだ早いでしょう。
この点、「診療報酬による手当てでは、有床診の減少を止めることはできないのではないか。有床診減少の背景には『後継者不在』なども大きく関係しており、別の手当てを考える必要があるのではないか」と指摘する識者もおられます。2022年度診療報酬改定に向けた議論が本格スタートしていますが、「有床診の減少スピードに歯止めをかけるために新たな一手を打つ」のか、あるいは「別の方向に舵を切る」のか、今後の動きに注目する必要があるでしょう。
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