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血液検査でパニック値(緊急異常値)が検出された場合の報告・対応ルールを医療機関で定め、遵守せよ―医療安全調査機構の提言(20)

2024.12.18.(水)

検査でパニック値(生命が危ぶまれるほど危険な状態にあることを示唆する異常値、緊急異常値、緊急報告検査値、critical valueなどとも呼ばれる)が検出された場合には、医師にすぐさま報告を行い、医師は必要な対応を迅速に行うことが求められる—。

このため、各医療機関において「パニック値の項目と閾値の設定」を行うとともに、▼「パニック値は、臨床検査技師から検査をオーダーした医師へ直接報告する」ことを原則とする▼パニック値を報告された医師は「速やかにパニック値への対応を行い、その内容を記録」する—などのルール化を行うことが必要となる—。

あわせて医療機関と院内情報システムベンダとが協力し、「パニック値の見落とし」を防ぐため、院内情報システムで「一目でパニック値であることがわかる表示」を検討することも重要である—。

日本で唯一の医療事故調査・支援センター(以下、センター)である日本医療安全調査機構は12月11日に20回目の「医療事故の再発防止に向けた提言」として『血液検査パニック値に係る死亡事例の分析』を作成・公表しました(機構のサイトはこちら)。

院内情報システムで「一目でパニック値であることがわかる表示」の検討も重要

2015年10月から【医療事故調査制度】がスタートしています。

すべての医療機関等(病院、診療所、助産所)において、「管理者(院長など)が予期しなかった、医療に起因する(疑いを含む)死亡・死産」のすべてをセンターに報告することを義務付けるものです。事故の原因・背景を詳しく調査・分析して「再発防止策」を構築。それを医療現場に広く共有することで医療安全の確保・向上を狙う仕組みで、事故事例を集積・分析する中で「具体的な再発防止策などを構築」していくことがセンターに課せられた重要な役割の1つとなっています。

センターは今般、「血液検査パニック値に係る
死亡事例」を分析し、20回目の医療事故再発防止策として提言を行いました。

◆過去の提言に関する記事
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析
(8)救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析
(9)入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析
(10)大腸内視鏡検査等の前処置に係る死亡事例の分析
(11)肝生検に係る死亡事例の分析
(12)胸腔穿刺に係る死亡事例の分析
(13)胃瘻造設・カテーテル交換に係る死亡事例の分析
(14)カテーテルアブレーションに係る 死亡事例の分析
(15)薬剤誤投与に係る死亡事例の分析
(16)頸部手術に起因した気道閉塞に係る死亡事例の分析
(17)中心静脈カテーテル挿入・抜去に係る死亡事例の分析—第2報(改訂版)—
(18)股関節手術を契機とした出血に係る死亡事例の分析—
(19)肺動脈カテーテルに係る死亡事例の分析—



「パニック値」とは、「生命が危ぶまれるほど危険な状態にあることを示唆する異常値、検査値の基準範囲から極端に逸脱した検査値」を意味します(緊急異常値、緊急報告検査値、critical valueなどとも呼ばれる)。このため、検査で「パニック値」が示された場合には、時機を失することなく、つまりすぐさま、検査をオーダーした医師に報告し、緊急の対応が必要となります。

この点、パニック値が検出された際に臨床検査部門から診療側に速報値として様々な手段で連絡されているものの、▼緊急連絡体制▼カルテ記録▼臨床的対応とその確認方法—などが医療機関で統一されていないことも明らかになっています。

こうした状況を踏まえ、医療事故調査制度の中で医療事故調査・支援センターに報告された「血液検査パニック値に係る死亡事例」の中でも教訓的な12例を対象に詳細に分析し、次のような提言が行われました。なお、医療機関が取り扱う疾患によってパニック値が異なるため、基準となる項目や閾値についての提言はなされていません。

(1)パニック値の項目と閾値の設定
→医療機関において、診療状況に応じてパニック値の項目(グルコース(Glu)、カリウム(K)、ヘモグロビン(Hb)、血小板(Plt)、プロトロンビン時間-国際標準比(PT-INNR)など)と閾値を検討・設定する

(2)パニック値の報告
→「パニック値は、臨床検査技師から検査をオーダーした医師へ直接報告する」ことを原則とする
→臨床検査部門は報告漏れを防ぐため「報告したことの履歴」を残す

(3)パニック値への対応
→パニック値を報告された医師は、速やかにパニック値への対応を行い、記録する
→「医師がパニック値へ対応したことを組織として確認する方策」の検討が望まれる。

(4)パニック値の表示
→「パニック値の見落とし」を防ぐため、臨床検査情報システム・電子カルテ・検査結果報告書において、「一目でパニック値であることがわかる表示」を検討する

(5)パニック値に関する院内の体制整備
→「パニック値に関する院内の運用」を検討する担当者・担当部署の役割を明確にし、定期的に運用ルールを評価する体制を整備する
→決定した運用ルールを「院内で周知」する



まず(1)では、パニック値が設定されていない医療機関が分析対象12例中『2例』あり、いずれも400床未満の医療機関であったこと、一方、パニック値は、「外来、入院」などの診療体制、「急性疾患、慢性疾患」など疾患の特徴を踏まえて設定する必要があり、全国一律の設定が難しいことなどを踏まえ、各医療機関で▼どのような検査項目にパニック値を設定するか▼報告対象とするパニック値の基準(閾値)をどの程度にするか—を検討・設定するよう要望。

より具体的に、致死的となる可能性がある緊急性の高い検査項目である▼グルコース(Glu)▼カリウム(K)▼ヘモグロビン(Hb)▼血小板(Plt)▼プロトロンビン時間-国際標準比(PT-IN)—などについて、優先的に設定することを推奨しています。



また(2)では、確実な報告が行われるよう▼パニック値の報告は「対面」や「電話」による医師への直接報告を原則とする(電子カルテのメールやポップアップ機能は、電子カルテにログインしていない場合は気づかない)▼パニック値の検出時に、検査をオーダーした医師に連絡がとれない場合に備え「医師の不在時や勤務時間外などの報告方法」を事前に決めておく▼「パニック値の報告であること」の伝達が重要である▼医師への報告内容は「入院患者か外来患者か」、「患者の氏名」、「生年月日(ID番号)」、「検査日時」、「パニック値の項目と値」などで、定型化しておく▼医師は「正確に情報を受け取ったことを臨床検査技師に伝える」ために復唱する▼報告漏れを防ぐために、例えば、パニック値の報告表などを作成し、医師へ報告したことの履歴を残す—などの具体的な提言を行っています。

あわせて「血液検査パニック値の医師への電話報告の場面」を例にとって、具体的な報告内容も提案しています。

パニック値が検出された場合の報告場面例



他方、(3)は報告を受けた医師が「患者への対応を確実に行う」ことを求めるとともに、▼パニック値に対応した医師は、その対応内容について速やかに記録を残す▼将来的に「いつ」、「誰が」、「どのように」パニック値への対応状況を確認するのかを組織として検討する▼外来終了後・患者帰宅後にパニック値を確認した場合の対応方法(例えば「状況に応じて救急車での来院を求める」など)—ことを提案しています。



さらに(4)では「パニック値の見落としを防ぐ」ための方策です。センターでは「臨床検査部門で臨床検査技師が確認する臨床検査情報システム、多職種が使用する電子カルテや検査結果報告書において、一目でパニック値とわかるような表示」を検討するよう求めています。

たとえば、▼数値表示欄を「識別しやすい蛍光色に変更」する▼パニック値の頭に「P」を表示する▼パニックを太字にする▼エクスクラメーションマーク「!」をつけてパニック値を識別する▼欄外のコメント欄に記載する▼電子カルテにログインすると対象患者のカルテにアクセスしなくても、パニック値がアラート表示されるようにシステム改修を行う—などの具体例を紹介。医療機関単独での対応は困難な場合もあり、情報システムを担当するベンダーと相談して対応することが重要です。なお、表示方法が「医療機関ごと」「院内情報システムの機種ごと」に異なれば、転職したばかりのスタッフが「パニック値を見落としてしまう」ことにもなりえます。このためセンターでは、後述するように、学会にも「一目でパニック値とわかるような表示」(いわば統一ルール)を検討するよう求めています。



また(5)では、パニック値の運用について▼院内情報システムの表示方法、報告相手など一連の工程に関する運用方法を検討し、決定する▼医師、看護師、薬剤師などパニック値の検出時に連携が必要となる職種が参加し、医療安全担当者の意見を含めて組織として検討する▼運用体制を定期的に評価し、必要に応じて見直す▼「パニック値の運用ルール」を院内スタッフに広く周知する—よう求めています。

こうした内容を参考に、各医療機関で「自院にマッチした報告ルール」を構築し、院内に周知することが重要です。



このほかセンターでは、学会に対し「院内情報システムにおいて、『一目でパニック値であることがわかる』表示を検討する」ことを、院内情報システムを製造・販売する企業(ベンダー)に対し▼パニック値表示の標準搭載▼検査の進捗がわかる表示▼パニック値の情報共有のため互換性の拡大—を検討・実施するよう要望しています。



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2018年11月までに1200件の医療事故、72.8%で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
2018年10月までに1169件の医療事故、国民の制度理解が依然「最重要課題」―日本医療安全調査機構
2018年9月までに1129件の医療事故、国民の制度理解は依然進まず―日本医療安全調査機構
2018年8月までに1102件の医療事故報告、国民の制度理解が今後の課題―日本医療安全調査機構
2018年7月までに1061件の医療事故報告、うち71.2%で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
医療事故調査、制度発足から1000件を超える報告、7割超で院内調査完了―日本医療安全調査機構
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2018年4月までに965件の医療事故、うち68.5%で院内調査完了―日本医療安全調査機構
2018年3月までに945件の医療事故が報告され、67%で院内調査完了―日本医療安全調査機構
2018年2月までに912件の医療事故報告、3分の2で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
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2017年末までに857件の医療事故が報告され、63.8%で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
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2017年7月までに674件の医療事故が報告され、63.5%で院内調査完了―日本医療安全調査機構
2017年6月までに652件の医療事故が報告され、6割超で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
2017年5月までに624件の医療事故が報告され、6割超で院内調査完了―日本医療安全調査機構
2017年4月までに601件の医療事故が報告、約6割で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
2017年2月までに546件の医療事故が報告、過半数では院内調査が完了済―日本医療安全調査機構
2017年1月までに517件の医療事故が報告、半数で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
2016年12月までに487件の医療事故が報告され、46%超で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
2016年11月に報告された医療事故は30件、全体の45%で院内調査が完了―日本医療安全調査機構
2016年10月に報告された医療事故は35件、制度開始からの累計で423件―日本医療安全調査機構
2016年8月に報告された医療事故は39件、制度開始からの累計で356件―日本医療安全調査機構
2016年7月に報告された医療事故は32件、制度開始からの累計で317件―日本医療安全調査機構
2016年6月に報告された医療事故は34件、制度開始からの累計では285件―日本医療安全調査機構
制度開始から半年で医療事故188件、4分の1で院内調査完了―日本医療安全調査機構



医療事故に該当するかどうかの判断基準統一に向け、都道府県と中央に協議会を設置―厚労省
医療事故調査制度、早ければ6月にも省令改正など行い、運用を改善―社保審・医療部会

医療事故調査制度の詳細固まる、遺族の希望を踏まえた事故原因の説明を―厚労省



中心静脈穿刺は致死的合併症の生じ得る危険手技との認識を—医療安全調査機構の提言(1)
急性肺血栓塞栓症、臨床症状に注意し早期診断・早期治療で死亡の防止—医療安全調査機構の提言(2)
過去に安全に使用できた薬剤でもアナフィラキシーショックが発症する—医療安全調査機構の提言(3)
気管切開術後早期は気管切開チューブの逸脱・迷入が生じやすく、正しい再挿入は困難—医療安全調査機構の提言(4)
胆嚢摘出術、画像診断・他診療科医師と協議で「腹腔鏡手術の適応か」慎重に判断せよ—医療安全調査機構の提言(5)
胃管挿入時の位置確認、「気泡音の聴取」では不確実—医療安全調査機構の提言(6)
NPPV/TPPVの停止は、自発呼吸患者でも致命的状況に陥ると十分に認識せよ―医療安全調査機構の提言(7)
救急医療での画像診断、「確定診断」でなく「killer diseaseの鑑別診断」を念頭に―医療安全調査機構の提言(8)
転倒・転落により頭蓋内出血等が原因の死亡事例が頻発、多職種連携で防止策などの構築・実施を―医療安全調査機構の提言(9)
「医療事故再発防止に向けた提言」は医療者の裁量制限や新たな義務を課すものではない―医療安全調査機構
大腸内視鏡検査前の「腸管洗浄剤」使用による死亡事例が頻発、リスク認識し、慎重な適応検討を―医療安全調査機構の提言(10)
「肝生検に伴う出血」での死亡事例が頻発、「抗血栓薬内服」などのハイリスク患者では慎重な対応を―医療安全調査機構の提言(11)
胸腔穿刺で心臓等損傷する死亡事故、リスクを踏まえた実施、数時間後に致命的状態に陥る可能性踏まえた経過観察を―医療安全調査機構の提言(12)
抗血栓療法中・低栄養患者は胃瘻造設リスク高、術後出血や腹膜炎等の合併症に留意を―医療安全調査機構の提言(13)
カテーテルアブレーション治療、心タンポナーデなど重篤リスクにも留意した体制整備を―医療安全調査機構の提言(14)
死亡医療事故の2割弱は薬剤誤投与に起因、処方から投与まで各場面で正しい薬剤かチェックを―医療安全調査機構の提言(15)
患者の訴え・患部観察により「頸部手術後の気道閉塞」徴候把握し、迅速な対応を―医療安全調査機構の提言(16)
中心静脈カテーテルに関連する「事故防止」の提言を充実、医療機関管理者が組織的管理を行い事故防止目指せ—医療安全調査機構の提言(17)
股関節手術、血管損傷等による出血リスク高く、目視での出血確認困難な点踏まえ出血時対応等の事前準備を―医療安全調査機構の提言(18)

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