処遇改善等加算の効果あるが「全産業平均と介護職との給与差」拡大、2026年4月予定の期中介護報酬改定に注目―社保審・介護給付費分科会
2025.3.25.(火)
2024年度介護報酬改定等によって看護職員等の給与が上昇している。しかし、▼他産業では「より高い賃上げ」が行われており、給与格差が広がっている▼訪問看護ステーションやケアマネ事業所は加算の対象となっておらず、人材確保が難しくなっている—といった点を考慮した、さらなる処遇改善策を今年末(2025年末)に向けて検討していく必要がある—。
新型コロナウイルス感染症は終息しておらず、入所・退所の多い介護老人保健施設では「感染者の発生→クラスターの発生→入所・退所の制限」がたびたび生じてしまう。この場合、「在宅復帰率が下がる→基本報酬も下がる」こととなり、経営に大きな影響が出るため、2026年3月まで臨時特例措置を継続する—。
3月24日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会で、こうした議論が行われました。
処遇改善等加算の効果が出ているが、全産業平均と介護職との給与差が拡大
Gem Medで報じているとおり、2024年年度介護報酬改定では、これまでに設けられた3つの「介護職員等の処遇改善に向けた加算」(介護職員処遇改善加算、特定処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算)を一本化・充実した【介護職員等処遇改善加算】が新設されました。
【新加算I】(例えば訪問介護では加算率24.5%(現在の3加算合計22.4%よりも2.1ポイントの加算率アップ)、1か月の総請求単位数に上乗せする(以下同))
→下記の(新加算II-IV)の要件に加えて、「経験技能のある介護職員を事業所内で一定割合(例えば訪問介護では介護福祉士30%以上)以上配置する」ことを求める
【新加算II】(同じく訪問介護では22.4%加算率(現在の3加算合計20.3%よりも2.1ポイントの加算率アップ))
→下記の(新加算III、IV)の要件に加えて、「改善後の賃金年額440万円以上であるスタッフが1人以上」「職場環境の更なる改善、見える化」を求める
【新加算III】(同じく訪問介護では加算率18.2%(現在の3加算合計16.1%よりも2.1ポイントの加算率アップ))
→下記の(新加算IV)の要件に加えて、「資格や勤続年数等に応じた昇給の仕組みの整備」を求める
【新加算IV】(同じく訪問介護では加算率14.5%(現在の3加算合計12.4%よりも2.1ポイントの加算率アップ))
→「新加算IVとして得た収益の2分の1(1か月の総請求単位数×6.2%)を月額賃金で配分する」「職場環境を改善する(職場環境等要件)」「賃金体系等の整備、研修の実施」などを求める

処遇改善加算見直し概要1(社保審・介護給付費分科会(3)3 240122)

処遇改善加算見直し概要2(社保審・介護給付費分科会(3)4 240122)
この加算見直しによって、▼介護従事者やその他スタッフの給与が一定程度改善している▼上位加算の取得が進んでいる—状況が明らかになりました。

処遇状況等調査結果の全体像(介護事業経営調査委員会1 250318)
もっとも3月24日の介護給付費分科会では、委員から「他産業では『より高い賃上げ』が行われており、給与格差が広がっている(賃金構造基本統計調査結果によれば賃金格差は2023年度の6万9000円から24年度には8万3000円に拡大)。訪問看護ステーションやケアマネ事業所は加算の対象となっておらず、人材確保が難しくなっている。こうした点を考慮して、さらなる処遇改善策を今年末(2025年末)に向けて検討していく必要がある」との声が多数出されました(江澤和彦委員:日本医師会常任理事、田母神裕美委員:日本看護協会常任理事、東憲太郎委員:全国老人保健施設協会会長、小泉立志委員:全国老人福祉施設協議会副会長、田中志子委員:日本慢性期医療協会常任理事、濵田和則委員:日本介護支援専門員協会副会長、及川ゆりこ委員:日本介護福祉士会会長、長内繁樹委員:全国市長会(大阪府豊中市長)、小林司委員:日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局長ら)。

介護職員と全産業との給与差は拡大してしまっている(社保審・介護給付費分科会 250324)
この点、昨年(2024年)12月25日に福岡資麿厚生労働大臣と加藤勝信財務大臣の間で、例えば次のような点が固められています。
▽処遇改善加算等が、2024年度に2.5%・25年度に2.0%のベースアップへと確実につながるようにするとともに、2024年度補正予算で措置した施策による生産性向上・職場環境改善等を通じて、更なる賃上げの推進に取り組む(関連記事はこちら)
▽2024年度介護報酬改定・2024年度補正予算で措置した施策が介護職員等の処遇改善に与える効果について、実態を把握。それを通じた処遇改善の実施状況等や財源とあわせて2026年度予算案の編成過程で検討する
ここからは「2026年4月に、さらなる処遇改善を目指した期中の介護報酬改定を行う」可能性が読み取れます(【介護職員等処遇改善加算】については2024年度に2.5%、25年度に2.0%の処遇改善を行うが、2026年度分について別途、つまり2026年度予算編成過程の中で検討する)。
今後、2026年度の期中の介護報酬改定に向けた議論が行われ、本年(2025年)12月中下旬に期中改定を実施するか否か、実施する場合にはその内容が決まると考えられます。そうした議論においては、今般の「2024年度の賃上げ」状況(2024年9月の賃金状況)はもちろん、2024年度補正予算や処遇改善等加算の柔軟化などが介護職員等の給与アップにどういった効果を及ぼしているかも見ながら「処遇改善等加算の在り方」などを検討していくことになるでしょう。
なお、その際、現在は処遇改善等加算の対象となっていない訪問看護ステーションやケアマネ事業所の取り扱いをどう議論するのか、注目が集まります。
また、「8割の事業所が加算財源をすべて2024年度の賃上げに充当している」点にも多くの委員が着目。「2025年度に更なる賃上げが行われるのか」も今後、把握していくことになります。

加算額の「2025年度への繰り越し」状況(介護事業経営調査委員会7 250318)
老健施設の在宅復帰率に関するコロナ特例、2026年3月まで延長することを決定
また、3月24日の介護給付費分科会では「新型コロナウイルス感染症に係る介護サービス事業所の人員基準等の臨時的な取扱い」の見直し内容も決定しています。
コロナ感染症流行時には、例えば「スタッフが罹患して休職したため、介護事業所・施設で人員基準を満たせなくなる」などの事態が生じました。この場合「介護報酬が減額される」「介護報酬が算定できなくなる」などの対応を取ったのでは、「感染対策でコスト増になっている中で、収益が減ってしまったのでは経営が維持できない」事態に陥ってしまいます。
そこで各種の「介護報酬の臨時対応」が設けられましたが、コロナ感染症が5類感染症に位置付けられたことを踏まえ、以下を除いて臨時特例は2024年3月で終了しました。
(2024年4月以降も1年間継続する臨時特例)
(1)介護老人保健施設について「感染者の発生により入退所を停止する」場合の、基本サービス費、および在宅復帰・在宅療養支援機能加算における在宅復帰・在宅療養支援等指標の取り扱い
(2)ユニットリーダー研修について「実地研修が未受講である」場合の取り扱い

コロナ臨時特例の取り扱い方針(社保審・介護給付費分科会(1)1 240318)
まず(1)の臨時特例について見てみましょう。
老人保健施設では「在宅復帰機能の強化」を目指して、在宅復帰率などが高い場合に「高い基本施設サービス費を取得できる」「在宅復帰・在宅療養支援機能加算を算定できる」といった報酬基準が設けられています。

老健施設における在宅復帰・在宅療養支援機能促進1(2024年度介護報酬改定)

老健施設における在宅復帰・在宅療養支援機能促進2(2024年度介護報酬改定)
しかし、コロナ感染患者が生じた場合には、感染拡大を防ぐために「入所・退所の制限」が行われることが多くなります。この場合、「在宅復帰率が下がる→加算を算定できなくなり、基本報酬も低くなる」となれば、老健施設経営の維持が困難になってしまいます。
そこで、「都道府県等が、老人保健施設に対し公衆衛生対策の観点から入所・退所の一時停止などを要請した場合、介護老人保健施設の基本施設サービス費、在宅復帰・在宅療養支援機能加算に係る施設基準において『算定日が属する月の前6か月間』などの指標算出に当たって使用する月数に、当該期間を含む月は含めない」とするものです(厚労省サイトはこちら)。
2024年4月以降のコロナ感染症の状況を見ると、▼昨夏(2024年夏)にも相当程度の感染者増が見られた▼昨年(2024年)4-7月の間に半数近くの老健施設でコロナ感染が発生した▼相当程度の老健施設で「10名以上」のコロナ感染者が発生している—などの状況が明らかになりました。

2024年4-7月における老健施設でのコロナ感染症状況(社保審・介護給付費分科会2 250324)
多くの老健施設が在宅復帰に力を入れており、在宅復帰率が指標となる高い基本報酬を算定する類型(超強化型、強化型、加算型、基本型)が2023年2月時点で94.3%を占めています。また、コロナ感染症は現在も終息していません。こうした中で臨時特例を廃止すれば、「コロナ患者の発生→クラスターの発生→入所・退所の制限→在宅復帰率の低下→低い基本報酬への転落・加算算定の不可→収益の悪化」という事態に陥りかねません。

在宅復帰・在宅療養支援機能に力を入れる老健が増えてきている(介護給付費分科会(3)1 230807)
そこで厚生労働省老健局老人保健課の堀裕行課長は、(1)の特例を「次期介護報酬改定までの2年間(2026年3月まで)、延長する」考えを提示。多くの委員がこの考えに賛同し、了承されました。
もっとも「臨時特例を活用する老健施設の割合などのデータがない」ことを問題視する委員もおり、今後「臨時特例の活用状況」などを厚労省で把握し、次期介護報酬改定論議の中で「コロナ感染症に限らず、各種感染症流行などの影響で入所・退所制限をせざるを得ない場合の在宅復帰率の取り扱い」などを検討していく考えも固められています。
また(2)の臨時特例は、「ユニットリーダー研修については、コロナ感染症対応により例年どおりの実地研修が実施できない期間が生じていることから、当面の間、講義・演習を受講済みであって『実地研修は未修了』の者について、実地研修が可能となった際は速やかに受講することを条件に、人員基準上、暫定的にユニットリーダー研修修了者として取り扱って差し支えない」とするものです(厚労省サイトはこちら)。
この点、研修機関や都道府県への調査では「概ね未受講者は解消されている」ことが判明したため、(2)の臨時特例は期限どおり「この3月(2025年3月)で終了する」こととなりました。
もっとも田中委員は「スタッフを研修に出す余裕がない施設もあるのではないか」とコメントし、「より詳細にユニットリーダー研修の受講状況を把握していく」ことの必要性を訴えました。こちらも、次期介護報酬改定に向けて、さらなるデータを把握し、研修受講の在り方などを検討していくことになります。
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