【急性期一般1】、単価アップで増収見込む病院が多い、利用率低下で減収となる病院も―福祉医療機構
2018.11.6.(火)
福祉医療機構(WAM)が11月5日に、「今般の2018年度診療報酬改定が医療機関等に及ぼした影響」に関するアンケート結果を公表しました(WAMのサイトはこちら(概要版)とこちら(詳細版))。▼対象が、WAMの貸し付けを受けている1331病院にとどまる▼アンケート形式での調査にとどまる▼改定から間もない調査である(2018年7・8月調査)―といった限界はあるものの、有用な調査結果であることは事実です。
今回は、2018年度改定の中でも大きな注目を集める【急性期一般入院基本料】に焦点を合わせて、アンケート結果を眺めてみましょう。
急性期一般1の45.5%は「今後も増収」見込むが、18.2%は「今後は減収」予測
【急性期一般入院基本料】は、従前の7対1・10対1一般病棟入院基本料を再編・統合した入院基本料です。看護配置などに基づく「基本部分」と、重症患者の受け入れ状況などに基づく「実績評価部分」を組み合わせ、次の7種類の入院基本料(入院料)が設定されています。
【急性期一般入院料1】(7対1相当):1591点(現行7対1と同水準)
▼看護配置:7対1以上(7割以上が看護師)▼医師配置:10対1以上▼重症患者割合:看護必要度Iによる測定では30%以上、看護必要度IIによる測定では25%以上▼平均在院日数:18日以内▼在宅復帰・病床機能連携率(在宅復帰率を見直し):80%以上▼データ提出
【急性期一般入院料2】(7対1と10対1の中間的評価その1):1561点(現行7対1より30点低い水準)
▼看護配置:10対1以上(7割以上が看護師)▼医師配置の規定なし▼重症患者割合:看護必要度IIによる測定で24%以上(2018年3月31日時点で7対1を届け出ている許可病床数200床未満の病院では、看護必要度Iによる測定で27%以上、看護必要度IIによる測定で22%以上)▼平均在院日数:21日以内▼在宅復帰・病床機能連携率の規定なし▼データ提出
【急性期一般入院料3】(7対1と10対1の中間的評価その2):1491点(現行7対1より100点低い水準)
▼看護配置:10対1以上(7割以上が看護師)▼医師配置の規定なし▼重症患者割合:看護必要度IIによる測定で23%以上(2018年3月31日時点で7対1を届け出ている許可病床数200床未満の病院では、看護必要度Iによる測定で26%以上、看護必要度IIによる測定で21%以上)▼平均在院日数:21日以内▼在宅復帰・病床機能連携率の規定なし▼データ提出
【急性期一般入院料4】(10対1+看護必要度加算1のイメージ):1387点(現行10対1+看護必要度加算1と同水準)
▼看護配置:10対1以上(7割以上が看護師)▼医師配置の規定なし▼重症患者割合:看護必要度Iによる測定で27%以上、看護必要度IIによる測定で22%以上▼平均在院日数:21日以内▼在宅復帰・病床機能連携率の規定なし▼データ提出
【急性期一般入院料5】(10対1+看護必要度加算2のイメージ):1377点(現行10対1+看護必要度加算2と同水準)
▼看護配置:10対1以上(7割以上が看護師)▼医師配置の規定なし▼重症患者割合:看護必要度Iによる測定では21%以上、看護必要度IIによる測定では17%以上▼平均在院日数:21日以内▼在宅復帰・病床機能連携率の規定なし▼データ提出
【急性期一般入院料6】(10対1+看護必要度加算3のイメージ):1357点(現行10対1+看護必要度加算3と同水準)
▼看護配置:10対1以上(7割以上が看護師)▼医師配置の規定なし▼重症患者割合:看護必要度Iによる測定では15%以上、看護必要度IIによる測定では12%以上▼平均在院日数:21日以内▼在宅復帰・病床機能連携率の規定なし▼データ提出
【急性期一般入院料7】(10対1相当):1332点(現行10対1と同水準)
▼看護配置:10対1以上(7割以上が看護師)▼医師配置の規定なし▼重症患者割合:看護必要度の測定を行っていること▼平均在院日数:21日以内▼在宅復帰・病床機能連携率の規定なし▼データ提出
高齢化の進展等で「7対1」のニーズが減少する中で、「7対1から10対1への移行が必要」とは分かっているものの、点数の乖離が大きく、実行には躊躇してしまうという声がありました。そこで2018年度改定では、▼7対1と10対1の間に「中間的な評価」(急性期一般入院料2・3)を設定する▼入院料の評価軸を「看護配置」から「重症患者受け入れ」などの実績にシフトしていく—といった大きな見直しが行われたのです。
急性期一般入院基本料の届け出状況を見ると、▼入院料1:29.7%▼入院料2:ゼロ%▼入院料3:ゼロ%▼入院料4:21.6%▼入院料5:24.3▼入院料6:18.9%▼入院料7:5.4%―となっています。2018年9月までは経過措置が設けられていたため、入院料2・3の届け出がなかった状況は理解できます。経過措置終了後の届け出状況の推移に興味がわきます。
また届け出入院料別に「前年同時期からの医業収益の変化」を見ると、入院料1病院では▼増収:40.0%▼横ばい:25.0%▼減収:35.0%―となっています。増収の要因としては「診療報酬改定(加算新設や要件・基準・点数見直しなど、以下同)による利用者単価の変化」をあげる病院が多く、また減収の要因としては「診療報酬改定による利用率の変化」をあげる病院が多くなっています。
さらに「今後の医療収益の見通し」については、入院料1病院では▼増収:45.5%▼横ばい:36.4%▼減収:18.2%―と考えています。増収の要因としては、やはり「診療報酬改定による利用者単価の変化」をあげる病院が多く、また減収の要因としては「診療報酬改定による利用率の変化」をあげる病院が多くなっています。
より重症な患者を受け入れることで「単価アップ」を見込む病院が多い一方で、地域の患者動向を踏まえ「重症患者の確保に苦労する」と考えている病院もあることが分かります。後者は極めて重要な視点で、地域によってはすでに「人口減少」(=患者減少)が生じており、その場合、重症度、医療・看護必要度の基準値を満たせる患者の確保がさらに難しくなってくることから、他の入院基本料(急性期入院料2・3)への移行や、病床規模の縮小などを真剣に考える必要があります。今後の動向に留意が必要です。
「看護必要度見直し」で重症患者割合は概ね増加、看護必要度II採用は限定的
2018年度診療報酬改定では、急性期一般入院基本料等の実績を評価する指標である「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)についても、次のような大きな見直しが行われました。
(1)看護必要度の定義を一部見直し、▼「A項目1点以上かつB項目3点以上」(現在は重症患者に非該当)のうち、「診療・療養上の指示が通じる」「危険行動」のいずれかに該当すれば、「重症患者に該当」と扱う▼C項目の開腹手術(現在は5日間)について、所定日数4日に短縮する―
(2)従前からの看護必要度評価票に基づく重症患者割合の計算方法を「看護必要度I」、新たにDPCのEF統合ファイルに基づく計算方法を「看護必要度II」とし、それぞれで重症患者割合の基準値を設定する(例えば、【急性期一般入院料I】では看護必要度Iで30%以上、看護必要度IIで25%以上)
(3)看護必要度I・看護必要度IIのいずれを用いた場合でも、重症患者割合は「3か月の平均」とし、これまでに「1割以内・3か月以内変動の救済ルール」は廃止する
看護必要度IIの採用状況を見ると、▼入院料1:ゼロ%▼入院料4:ゼロ%▼入院料5:5.6%(1病院)▼入院料6:7.1%(1病院)▼入院料7:ゼロ%―と、ごく少数にとどまっています。改定直後(2018年7・8月)の調査であり、「様子見」をしている病院が多いことでしょう。今後、看護必要度IIへの理解が進む中で、徐々に採用病院が増えていくと考えられます。
また、看護必要度Iを用いた場合の重症患者割合(看護必要度の基準を満たす患者の割合)は、▼入院料1:35.7%(当該入院料を届け出る場合には30%以上であることが必要)▼入院料4:38.3%(同27%以上)▼入院料5:27.8%(同21%以上)▼入院料6:26.8%(同15%以上)▼入院料7:24.6%(基準値なし、ただし全患者で看護必要度の測定が必要)—となりました。
さらに、重症患者の中で、「『A項目1点以上かつB項目3点以上』で、『診療・療養上の指示が通じる』『危険行動』のいずれかに該当する患者」が最も多いという病院が一定程度あり(例えば入院料1では22.7%、入院料4では25.0%)、病院側が上記(1)の見直しを歓迎している状況が伺えます。
また、上記(1)から(3)の見直しの影響については、「重症患者割合が上昇した」病院が多い(入院料1病院の72.7%、入院料4病院の75.0%)ことが分かりましたが、一部には「重症患者割合が低下した」病院(入院料1病院の22.7%、入院料4病院の25.0%)もあり、2020年度の次期改定に向けて慎重なフォローアップが必要でしょう。
なお、急性期一般入院料1では、施設基準に「在宅復帰・病床機能連携率80%以上」が盛り込まれています。従前の「在宅復帰率」から、「在宅復帰機能強化加算を取得していない療養病棟なども含める」との見直しが行われましたが、その影響はごくごく限定的なようです(影響なしとの病院が77.3%)。
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