「希少疾病の体外診断薬」や「効果が同等以上で価格の安い医療機器」などを新加算で評価へ―中医協・材料部会
2023.10.30.(月)
「希少疾病の体外診断薬」や「効果が同等以上で、価格の安い医療機器」などの開発を促進するために、新加算で評価を行ってはどうか—。
10月27日に開催された中央社会保険医療協議会の保険医療材料専門部会(以下、材料専門部会)で、こうした議論が行われました((同日の医療従事者処遇改善・在宅訪問歯科診療に関する総会論議の記事はこちら、薬価制度改革論議に関する記事はこちら)。また、同日には認知症治療薬「レケンビ」(レカネマブ)の薬価設定に関する議論も行われており、これらは別稿で報じます。
医療機器に関するイノベーションを評価し、優れた製品の開発を促進
2024年度には、保険医療材料価格制度改革(材料価格改定)も行われ、材料専門部会では個別具体的な制度改革論議に入っています(関連記事はこちら)。
10月27日の材料専門部会では、厚生労働省保険局医療課医療技術評価推進室の木下栄作室長から(1)希少疾患に用いる体外診断用医薬品等に対する評価(2)臨床的な有用性が同等以上であって費用を削減するような医療機器に対する評価(3)市場拡大再算定—の3点について見直し案が提示されました。(1)(2)はイノベーション評価策の一環と言えます。
「希少疾病用として指定された体外診断用医薬品」や「対象患者数が少ないコンパニオン診断薬」などは、臨床的に非常に重要である(そうした分野でこそ適切な診断・治療の実施が強く求められる)ものの、対象患者数が少ないために開発が遅れがちです。実際に「学会が医療技術評価分科会へ『保険適用』を希望して提案される医療技術のうち、希少疾患対応のものでは『当該技術に使用する医療機器等(とわけ検体検査)が薬事承認されている』ことが確認できないために評価の対象外となる」ケースが少なくありません(結果、有用な医療技術に患者がアクセスしにくくなっている可能性がある)。
そこで木下医療技術評価推進室長は、(1)として、こうした「希少疾病用として指定された体外診断用医薬品」や「対象患者数が少ないコンパニオン診断薬」などについて特別の評価(加算などでの高い償還価格設定)を検討することを中医協に提案しました。
その際、特別の評価にあたっては(a)対象は検体検査に限定する(b)加算率には「市場規模」を反映させる—ことも提案しています。
このうち(a)は、検体検査以外の「技術料に包括して評価される医療機器」等では、技術そのものと一体不可分でない場合がある点、関連技術料と比較して高額である場合は特定保険医療材料としての評価がなされる点(つまり別に「評価を行う」選択肢がある)を踏まえたものです。逆に言えば「検体検査」では、これまでに十分な評価を行う手段がなかったことから、今般、新たな評価方法が検討されるものです。
また(b)は、同じ加算率を設定した場合、市場規模が大きければメーカーの収益も大きくなるが、市場規模が小さい場合には収益も小さくなってしまう点を踏まえた提案です。例えば100円の製品に10%の加算(つまり+10円)がついたとして、100万個販売されれば1000万円の収益増になりますが、1万個しか販売されなければ10万円の収益増にしかなりません。希少疾病等では患者数が少なく、後者に該当しやすくなることから、「より多くの収益を確保し、開発を促進してもらう」ために、市場規模が小さな製品(検体検査)では「高い加算率を設定する」ことが検討されます。
この提案には反対意見は出ていませんが、「現場のヒアリングで実態を把握すべき」(資料側の茂松茂人委員:日本医師会副会長)、「加算での対応が好ましいのか、原価計算方式での対応が好ましいのか、さらに検討を深めるべき」(支払側の松本真人委員:健康保険組合連合会理事)などの声が出ています。
また(2)は、保険適用時の価格設定において「臨床的な有用性が同等以上であって費用を削減するような医療機器」について高い評価(加算)を行ってはどうかとの提案です。
メーカーサイドの努力により「より安く、より効果の高い医療機器」開発が進んでいます。例えば、パーキンソン病等の深部刺激療法において「既存の医療機器と同等の有効性を有しつつも、構造等の改良によって費用が削減される」ものが開発されています。こうした製品は、患者にとっても、医療保険財政にとっても好ましいため、さらに開発を促進していく必要があり、木下医療技術評価推進室長は費用対効果評価制度の仕組みに倣って、次のような対応を行ってはどうかと提案しました。
▽「同等以上の有効性を有し、費用が削減される医療機器」に対する評価(加算等)を行う
▽「削減される費用」として評価の対象とする範囲は「1回の使用における当該機器と従来品との価格の差分」とする
「安価な製品」では償還価格も低くなるため、メーカーの開発意欲が上がりませんでしたが、「安価であるが、効果が従来品と同程度以上」の製品では、より高い償還価格が設定され、結果、メーカーの収益増にもつながることから、開発が促進されると期待されます。上述のとおり、これは患者・医療保険財政に良い効果を及ぼすことになります。
この提案内容にも異論・反論は出ていません。ただし「どの程度の費用削減が、どの程度の加算評価につながるのか、詳細に詰めていくべき」(茂松委員)、「どのように費用削減効果を測定するのかなどの技術的課題を今後詰めていく必要がある。効果が同等以上で費用の小さな製品の開発は医療保険財政にとって好ましく、開発を進めていくべき」(松本委員)との注文がついています。
また茂松委員や診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)は「効果が同等以上で費用の小さな製品は、それだけで市場の評価が高まる点を考慮すべき」とも指摘しています。つまり「効果が同等以上で費用の小さな製品」は、医療現場のニーズが高く、それだけで「販売数量が多くなる」→「メーカーの収益が上がる」というメリットがあると両委員は指摘しています。頷ける指摘であり、この点も踏まえながら、今後「どの程度の加算で評価すべきか」を詰めていくことになります。
医療機器についても、「当初予測に比べて大きく市場が拡大し(つまり予想よりもはるかに多く売れた)、市場規模が一定額を超えた場合」には価格の引き下げを行うルール(市場拡大再算定)が設けられています。市場が広がった製品は、それだけ「優れている」と現場から高い評価を受けているわけですが、医療保険財政への影響を考慮して「一定の価格引き下げ」が行われるものです。
このルールについて木下医療技術評価推進室長は次のような見直し提案を行っており、反対意見は出ていません。
▽「技術料に包括して評価される医療機器」等について、市場拡大再算定の基準額を「特定保険医療材料と同様の水準」(『年間販売額が150億円超、かつ予想の2倍以上』または『年間販売額が100億円超、かつ予想の10倍以上』)で定める
▽「市場規模が小さい」ことを前提として市場性加算等が設定された製品については、上記基準額に関わらず「見直しを検討する対象」に位置づける
なお、9月20日の前回会合では診療報酬改定の直前(改定前年の12月から改定年の1月)に保険適用が中医協で承認された医療機器などの「実際の保険適用時期」に関する整理が行われました。その際「R(再製造)」区分(再製造品について新たな機能区分により評価する)が漏れていたため、C1区分と同じく取り扱うとの補足も行われました。
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