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輸血時の患者間違え・血液製剤取り違え頻発、「確認」ではなく「照合」の重要性再確認し、徹底を―医療機能評価機構

2022.10.5.(水)

今年(2022年)4-6月に報告された医療事故は1131件、ヒヤリ・ハット事例は7054件であった。医療事故のうち7.1%では患者が死亡しており、9.4%では死亡にこそ至らないまでも「障害残存」の可能性が高い—。

こういった状況が、日本医療機能評価機構が9月30日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第70回報告書(今年(2022年)4-6月が対象)から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(前四半期(2022年1-3月)を対象にした第69回報告書に関する記事はこちら)。

また報告書では、前回報告書前々回報告書につづき「患者間違いに関連した事例」を取り上げています。今回は「輸血」の際の「患者取り違え」「製剤の取り違え」がテーマであり、機構では「確認ではなく、照合する」ことの重要性を強く訴えています。

2022年1-3月、「治療・処置」関連の医療事故が最多に

今年(2022年)4-6月に報告された医療事故は1131件でした。事故の程度別に見ると、▼死亡:80件・事故事例の7.1%(前四半期に比べて0.8ポイント減)▼障害残存の可能性が高い:106件・同9.4%(同1.9ポイント減)▼障害残存の可能性が低い:303件・同26.8%(同7.1ポイント減)▼障害残存の可能性なし:277件・同24.5%(同0.5ポイント増)―などとなりました。前四半期に比べて事故が軽度化しているように見えますが、中長期的に動向を見ていく必要があります。

医療事故の概要を見ると、最も多いのは「治療・処置」の379件・33.5%(前四半期に比べて0.1ポイント減)。次いで「療養上の世話」の339件・30.0%(同3.8ポイント減)、「ドレーン・チューブ」99件・同8.8%(同1.3ポイント増)、「薬剤」86件・同7.6%(同0.3ポイント減)などと続きます。前四半期に比べて「療養上の世話」関連が減少し、順位が入れ替わっています。

長引く新型コロナウイルス感染症の影響で、医療現場の混乱が続いていると考えられます。今後も中長期的に動向を見守る必要があります。

2022年4-6月における医療事故の状況(医療安全情報70回報告書1 220930)

ヒヤリ・ハット事例、薬剤関連が4割を超える

ヒヤリ・ハット事例に目を移すと、今年(2022)年4-6月の報告件数は7054件。内訳を見ると、依然として「薬剤」関連の事例が最も多く2876件・ヒヤリ・ハット事例全体の40.8%(前四半期と比べて0.9ポイント増)を占めています。次いで「療養上の世話」1422件・同20.2%(同1.2ポイント増)、「ドレーン・チューブ」872件・同12.4%(同2.1ポイント減)などと続いています。

医療事故に比べて「シェアや順位の変化」などが小さいようです。ここから「事故に結びつくシチュエーションは大きく変わっていない」が、医療現場が混乱しているために「実際に事故につながる事例に変化が生じている」のではないか、と推測できます。

ヒヤリ・ハット事例のうち、医療機関での実施がなかった4103件について、「仮に実施してしまっていた場合の患者への影響度」を見ると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が92.8%(前四半期から0.2ポイント増)と、ほとんどを占めている状況にも変化はありません。

しかし、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも6.3%(同0.8ポイント増)、「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」ケースも1.0%(同0.9ポイント減)あります。一部にとどまってはいますが、「一歩間違えば重大な影響が出ていた」事例が生じており、「すべての医療機関において院内のチェック体制を早急に点検しなおす」必要があります。

2022年4-6月におけるヒヤリハット事例の状況(医療安全情報70回報告書2 220930)



なお、その際には、Gem Medが繰り返しお伝えしているように「個人の注意だけで医療事故やヒヤリ・ハット事例を防止することはできない」点に留意すべきでしょう。どれだけ注意深く業務を行っても、人は必ずミスを犯します。とりわけ、極めて多忙な業務環境にある医療従事者はミスが生じやすい状況に置かれており、こうした中では、「ペナルティの導入」などには意味がなく(効果がない)、かえって弊害のほうが大きくなると危機管理の専門家は指摘します。

「人はミスを必ず犯す」という前提に立ち、「必ず複数人でチェックする」「ミスが生じる前に、あるいは生じた場合には、すぐに気付ける仕組みを構築する」「また包み隠さず報告できるような、院内のルールを遵守し、医療安全を確保し、医療の質を向上させようという、風土を作り上げる」など、医療機関全体で対策を講じることが必要です。

ただし、「複数人でのチェック」には大きな落とし穴がある点に留意が必要です。A・Bの2人でチェックをする際に、Aさんは「Bさんがチェックをするので『だいたい』で良かろう」と、Bさんは「Aさんがチェックをしているので『だいたい』で良かろう」と考えてしまうことが少なからずあります。この場合には「1人でのチェック」よりも甘くなってしまいます。こうした点も十分に認識したうえで、慎重に「複数チェック」を導入する必要があるでしょう(関連記事はこちら)。

輸血の際に患者・製剤を取り違える事故が頻発、「照合する」ことの意味の再確認を

報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた詳細な分析を行っています。今回は、前回報告書前々回報告書につづき「患者間違いに関連した事例」を詳細に分析し、改善策を提示しています。

すでに報じているとおり、2019年1月から昨年(2021年)12月までに、144件もの患者間違い事故が報告されている点に驚かされます(年間50件程度、月に4件以上、週に1件程度発生している計算)。

前々回報告書では「患者を治療室などに呼び込む場面」などに、前回報告書では「患者にモノを投与する/使用する/渡す場面」に注目し、間違いが発生する原因や、改善策などを詳しく検討しています。

今回は、「輸血」の際に発生した患者取り違え事例に注目しています。輸血時の患者取り違えは2019年1月から昨年(2021年)12月までに「9件」発生しており、▼ABO式血液型の相違が7件▼濃厚な治療が必要なケースが4件▼患者の間違いが3件・血液製剤の間違いが6件—などという状況です。

患者間違い事例を見てみると、例えば▼患者認証を「氏名」ではなく「ベッド番号」で行っていた▼輸血3点認証を患者のベッドサイドで実施していなかった▼ 輸血3点認証の際、リストバンドのバーコードを読み取ることになっていたが、患者がリストバンド未装着であり、輸血伝票の患者IDを手入力して実施してしまった▼電子カルテで患者の血液型を確認していなかった▼輸血マニュアルが10年間改訂されていなかった—ことなどが背景にあるようです。

一方、血液製剤間違い事例を見ると、例えば▼数日前の心臓血管外科手術用に準備されていた製剤が使用されず、返品するため名前札(ラベル)を外した状態で冷凍庫に入れてあり、誤って使用してしまった▼本来、使用しなかった製剤は輸血部が持ち帰るが、それを失念し、誰にも割り付いていない製剤が手術室の冷凍庫に残ってしまった▼輸血部スタッフが手術室内にいる間は冷凍庫内と側面に名前札を貼る運用であったが、時間外は輸血部スタッフがいないため冷凍庫に貼る名前札が用意されていなかった▼ICU看護師から製剤を受け取った看護師は「夜間緊急手術をしている患者は1名であった」ことから、輸血伝票を冷凍庫に貼らなかった(貼らなくても分かるであろうと思ったと推察される)▼冷凍庫内に霜が多量に付着し伝票が貼りにくい状況もあった▼手術室看護師は「冷凍庫内には手術中の患者用に準備された製剤しか存在しない」(他の製剤は入っていない)との思い込みがあり、血液型や名前を確認せず融解し麻酔科医師に渡した▼麻酔科医師も製剤の血液型や名前を確認しないまま臨床工学技士へ渡した▼臨床工学技士も患者名、血液型、製剤番号を確認せず、人工心肺の回路へ注入した—などの複合的な要因が明らかになっています。

輸血の誤りは、述べるまでもなく「重篤な副作用」を引き起こす可能性があり、十分な再発防止策をとる必要があります。機構では、次のような改善策を提示し、参考にするよう医療現場に提案しています。

【患者と輸血用血液製剤の照合】
▽投与前に必ずPDA認証を徹底する
▽電子照合端末の表示の種類には、「×」でも「異なる患者様の製剤です」「指定した製剤は返品または破損処理済です」「既に実施されています」などの種類があることを共有する
▽小児に輸血用血液製剤を複数回に分けて投与する場合、「認証システムで再度照合」する

【輸血マニュアルの改訂】
▽ICU安全マニュアルにダブルチェックのタイミングを追記し、輸血用血液製剤を取り出す際の確認方法を明記する
▽輸血委員会や医療安全会議でマニュアルを検討し、現場で実施可能なよう「病棟に払い出された製剤と輸血伝票の確認は、看護師を含む医療者2名でダブルチェックする」「ベッドサイドでの患者と製剤の照合の際は、医師または看護師1名でまず患者にフルネームで名乗ってもらい、その後、必ずPDAを使用する」ことなどを盛り込む

【手順の遵守状況の確認】
▽マニュアルの遵守状況を輸血部・看護部・医療安全管理室でチェックする
▽PDAによる輸血認証の未実施に関しては、所属長へ医療安全レポートの報告を依頼し、PDAの確実な使用を指導する

【教育】
▽患者・指示・物の確認の徹底を啓発する
▽輸血実施時のルールを再確認し徹底する
▽異型輸血によって重篤な状態になることの知識が欠けているので教育を進める
▽異型輸血の危険性に関するポスターを作成し、各セクションに掲示して注意喚起する

【業務配分・人員配置などの見直し】
▽新人看護師の受け持ち患者の配分を工夫し、相談する人を決める
▽緊急時以外は「休憩に入る時間帯の輸血」を避ける
▽夜間の緊急手術で応援が必要な場合は、早い段階から夜勤看護長、遅出看護師などへ依頼する

【事例の周知・共有】
▽院内に安全ニュースを配信して注意喚起を行う

【認証システムの設置】
▽カテーテル検査室やその他の輸血をする場所には輸血用血液製剤の認証ができるようにシステム機器を設置する

【その他】
▽不要な製剤を冷凍庫へ入れたままにしない体制を構築する
▽患者の静脈路に接続されていない回収式自己血は手術室から持ち出さない
▽輸血用血液製剤の保管場所の視認性を高める

病棟に輸血用血液製剤が届いてから患者に投与するまでの業務工程図の例(医療安全情報70回報告書3 220930)



さらに機構では「照合」の重要性を改めて強調。今般の「輸血」に限らず、「間違いの内容に照合する」(「確認」ではない点に留意)ことは、あらゆる業務で「当然」のことであり、「照合することの意味を理解して徹底する」ことが重要であると強く訴えています。

これらを十分に参照したうえで「自院にマッチした方法」を考え、さらに「それを皆で遵守しよう。遵守しない人がいた場合には、きちんと注意し、注意された側もきちんと反省し、手順を守ろう」という風土を醸成することが非常に重要です。



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