血液検査検査値を確認せず、好中球減少等の患者に抗がん剤を投与してしまう医療事故が散発―医療機能評価機構
2022.5.17.(火)
抗がん剤投与前に血液検査値を確認しなかったため「中止すべき抗がん剤」を投与してしまった―。
日本医療機能評価機構が5月16日に公表した「医療安全情報 No.186」から、こうした事例(医療事故)が2018年1月1日から今年(2022年)3月末までの間に6件報告されていることが分かりました(機構のサイトはこちらこちら)。
医師・薬剤師がチェックを行い「中止すべき抗がん剤」投与防止徹底を
日本医療機能評価機では、全国の医療機関から医療事故やヒヤリ・ハット事例(事故には至らなかったものの担当医療スタッフ等が「ヒヤリ」とした、「ハッ」とした事例)の報告を受け、背景等を詳しく分析して「事故等の再発防止に向けた提言」等を定期的に行っています【医療事故情報収集等事業】(国立病院や特定機能病院などでは事故等の報告が義務付けられている、2021年度の第1四半期(2021年4―6月)の報告書に関する記事はこちら)。
また事故事例などの中から「特段の注意が必要と考えられる事例」(繰り返し発生している医療事故など)をピックアップ。その内容を簡潔に整理し「医療安全情報」として毎月公表しています。医療現場に「こうした事故が頻発しているので最大限の注意を払ってほしい」と強く呼びかけるものです。
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▽ガーゼの体内残存2
▽ガーゼの体内残存1
5月16日に公表された「医療安全情報No.186」では、「抗がん剤投与前の血液検査値の未確認」事例がテーマとなりました。
ある病院に、患者が「mFOLFIRINOX」(膵臓がんに効果的と考えられている▼オキサリプラチン注▼イリノテカン注▼レボホリナート注▼フルオロウラシル注—という4種類の抗がん剤を投与する療法)の2コース目治療のため2日後に入院することとなったことから、外来で血液検査を実施。しかし、外来担当医は「検査値を確認する」ことを失念してしまいました。入院当日に、病棟担当医は「外来担当医が血液検査値を確認したうえで入院を決めた」と思い、自身も検査値を確認しないまま抗がん剤の投与を確定してしまいました。14時過ぎに抗がん剤の投与を開始し、19時に病棟薬剤師から「2日前の血液検査で好中球数が693/μLであった」との指摘があり、抗がん剤の投与を中止することになりました。
好中球は白血球の一種で、細菌感染などから体を守る役目をしています。抗がん剤投与や放射線療法では副作用として「好中球減少症」が見られ、細菌感染などに対する制御がきかなくなり「感染症で死亡する」リスクが高まります。好中球数は通常1500/μLであり、1500-1000程度/μLであれば軽度の、500-1000程度/μLであれば中等度の、500未満/μLであれば重度の「好中球減少症」と考えられます。抗がん剤治療中に好中球減少が見られた場合には、原因と考えられる抗がん剤の投与は中止し、必要な治療を行うことが求められます。上記事例では「好中球減少症」が進行(→感染症による死亡リスクの上昇)を招く可能性があります。
また別の病院では、患者に外来で「アバスチン+アリムタ療法」(非小細胞肺がん治療などに使われる抗がん剤療法)が行われていました。医師は、来院後の血液検査でクレアチニンが2.07mg/dL(予測CCr:21mL/min)であることを確認しないまま、抗がん剤投与を確定。4コース目投与のため薬剤師による面談の対象となっておらず、薬剤師も検査値を確認しませんでした。また外来化学療法室の看護師においては「検査値を確認する手順になっていない」ことから、医師の指示通りに患者に抗がん剤を投与してしまいました。2週間後、患者が発熱を主訴に受診し、精査の結果「発熱性好中球減少症」「急性腎不全」と診断されました。
血清クレアチニン値は通常「男性1.2mg/dL、女性1.0mg/dL以下」とされており、上記患者ではクレアチニン値が高いと考えられます。これは「抗がん剤による腎障害」が生じている可能性があり、抗がん剤投与を中止し、必要な対象を行う必要があったと考えられます。
抗がん剤は、血液の成分をつくる骨髄にダメージを与えることもあり、抗がん剤治療中は定期的に血液検査を行い「抗がん剤が多大なダメージを与えていないか」を確認することが極めて重要です。にもかかわず、「血液検査値を確認しないまま抗がん剤投与が行われてしまう」事故が散発している点は大きな問題です。
機構では、▼医師は「血液検査値の評価を行った」ことをカルテに記載し、その後に抗がん剤の指示を確定する▼薬剤師は、レジメンの種類、投与量、検査値、前投薬などを把握するチェックリストを作成し、抗がん剤を調製する際に確認する—といった基本的な流れを再確認することを強く求めています。
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