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GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

「患者間違え」医療事故、「患者の氏名確認・患者とモノの照合」などの基本ルールが疎かなことが主因―医療機能評価機構

2022.6.28.(火)

今年(2022年)1-3月に報告された医療事故は1348件、ヒヤリ・ハット事例は7360件であった。医療事故のうち7.9%では患者が死亡しており、11.3%では死亡にこそ至らないまでも「障害残存」の可能性が高い—。

こういった状況が、日本医療機能評価機構が6月27日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第69回報告書(今年(2022年)1-3月が対象)から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(前四半期(2021年10-12月)を対象にした第68回報告書に関する記事はこちら)。

また報告書では、前回に続き「患者間違いに関連した事例」をとりあげ、詳細な分析が行われています(今回は患者にモノを渡す・投与するなどの場面で生じた事故に焦点を合わせている)。患者間違いに関しては、多くの場面で、「患者氏名を確認する」という最も基本的なルールを曖昧にしているために生じていることが再確認されました。「患者とモノとの照合」を徹底するとともに、安易にダブルチェックには逃げてはいけない(解決にならない)ことを機構は強調しています。

2022年1-3月、「医療事故」の内容に若干の変化が生じ、重大事故割合もアップ

今年(2022年)1-3月に報告された医療事故は1348件でした。事故の程度別に見ると、▼死亡:106件・事故事例の7.9%(前四半期に比べて0.5ポイント増)▼障害残存の可能性が高い:152件・同11.3%(同1.5ポイント増)▼障害残存の可能性が低い:457件・同33.9%(同6.4ポイント増)▼障害残存の可能性なし:323件・同24.0%(同8.7ポイント減)―などとなりました。前四半期に比べて事故が重度化しているようです。中長期的に動向を見ていく必要があります。

医療事故の概要を見ると、最も多いのは「療養上の世話」の456件・33.8%(前四半期に比べて6.9ポイント増)となりました。次いで「治療・処置」453件・事故事例の33.6%(前四半期に比べて1.7ポイント減)、「薬剤」106件・同7.9%(同0.8ポイント増)、「ドレーン・チューブ」101件・同7.5%(同0.1ポイント増)などと続きます。全四半期に比べて「療養上の世話」関連が増加し、トップとなりました。

新型コロナウイルス感染症の影響で、医療現場が混乱していると思われ、今後も中長期的に動向を見守る必要があります。

2022年1-3月における医療事故事例の状況(医療安全情報69回報告書1 220627)

ヒヤリ・ハット事例、実施していれば重大事故につながったであろうものが増加

ヒヤリ・ハット事例に目を移すと、今年(2022)年1-3月の報告件数は7360件。内訳を見ると、依然として「薬剤」関連の事例が最も多く2934件・ヒヤリ・ハット事例全体の39.9%(前四半期と比べて0.8ポイント増)を占めています。次いで「療養上の世話」1398件・同19.0%(同0.6ポイント減)、「ドレーン・チューブ」1065件・同14.5%(同0.4ポイント減)などと続いています。

医療事故に比べて「シェアの変化」などが小さくなっていることから、「事故に結びつく場面」は変わっていないが、医療現場が混乱しているために「実際に事故につながる」事例に変化が生じていると推測できます。

ヒヤリ・ハット事例のうち、医療機関での実施がなかった4532件について、「仮に実施してしまっていた場合の患者への影響度」を見ると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が92.6%(前四半期から2.1ポイント減)と、ほとんどを占めている状況にも変化はありません。

ただし、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも5.5%(同1.4ポイント増)、「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」ケースも1.9%(同0.7ポイント増)あります。一部ですが「一歩間違えば重大な影響が出ていた」事例が生じており、また、その割合が増加していることから、「すべての医療機関において院内のチェック体制を早急に点検しなおす」必要があります。

2022年1-3月におけるヒヤリハット事例の状況(医療安全情報69回報告書2 220627)



なお、その際には、Gem Medが繰り返しお伝えしているように「個人の注意だけで医療事故やヒヤリ・ハット事例を防止することはできない」点に留意すべきでしょう。どれだけ注意深く業務を行っても、人は必ずミスを犯します。とりわけ、極めて多忙な業務環境にある医療従事者はミスが生じやすい状況に置かれており、こうした中では、「ペナルティの導入」などには意味がなく(効果がない)、かえって弊害のほうが大きくなると危機管理の専門家は指摘します。

「人はミスを必ず犯す」という前提に立ち、「必ず複数人でチェックする」「ミスが生じる前に、あるいは生じた場合には、すぐに気付ける仕組みを構築する」「また包み隠さず報告できるような、院内のルールを遵守し、医療安全を確保し、医療の質を向上させようという、風土を作り上げる」など、医療機関全体で対策を講じることが必要です。

ただし、「複数人でのチェック」には大きな落とし穴がある点に留意が必要です。A・Bの2人でチェックをする際に、Aさんは「Bさんがチェックをするので大雑把で良かろう」と、Bさんは「Aさんがチェックをしているので、大雑把で良かろう」と考えてしまうことがあり、この場合には「1人でのチェック」よりも甘くなってしまいます。こうした可能性もある点を十分に認識して「複数チェック」を導入する必要があります(関連記事はこちら)。

本来の患者と異なる患者に薬剤を渡す事故が頻発、「患者とモノとの照合」徹底が鍵

報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた詳細な分析を行っています。今回は、前回報告書につづき「患者間違いに関連した事例」を詳細に分析し、改善策を提示しています。

前回記事でも報じましたが、2019年1月から昨年(2021年)12月までに、144件もの患者間違い事故が報告されている点に驚かされます(年間50件程度、月に4件以上、週に1件程度発生している計算)。

前回報告書では「患者を治療室などに呼び込む場面」などに注目しましたが、今回は、上記144事例のうち65%を占める「患者にモノを投与する/使用する/渡す際に発生した事例」(中でも最も多い薬剤を投与する/使用する/渡す際の事故事例56例)に注目してみます。

事故の発生場所を見ると、内用薬・注射薬・外用薬のいずれでも「病室」がほとんどとなっています。また、事故の当事者となった医療スタッフを見ると「経験の浅い(0-4年)看護師」と「中堅(10-14年)の看護師」が多くなっています。巷間指摘されるとおり「経験・知識の少ない若手」と、「経験を一定程度積み、業務に相当程度慣れてきたころの中堅スタッフ」で事故が生じやすいようです。

機構では、事故のパターンを次のように分類し、事例を紹介しています。

【患者間違い】
●患者Xに薬剤を投与すべきところ、患者Yを患者Xと思い込んでしまった事例

▽患者Xの隣のベッドの患者Yを患者Xと思い込んだ
▽患者Xの坐薬を持って訪室したところ、患者Yがズボンを整えている動作が目に入り、 挿肛するために脱衣の準備をしている患者Xと思い込んだ
▽救急外来で患者Yの近くに患者Xの点滴指示書が置いてあったため、患者Xだと思い込んだ
▽COPD・肺炎の患者Yがベッドで端座位になり口すぼめ呼吸をしていた姿を見て、肺がん末期の患者Xと思い込んだ

患者間違いの事例1(医療安全情報69回報告書3 220627)



●患者Xに薬剤を投与すべきところ、「患者Yに投与する」ものと思い込んだ事例
▽患者XにKCL注キットが処方されたが、重症の患者Yに投与すると思い込んでしまった
▽他の看護師から患者Xのインスリンの注射を依頼されたが、患者Yに投与すると思い込んでしまい、患者Yの部屋に行き投与してしまった。

患者間違いの事例2(医療安全情報69回報告書4 220627)



【薬剤間違い】
▽患者Xに薬剤を投与するところ、「患者Yの薬剤」を「患者Xの薬剤」と思い込んだ
▽ワゴンの上段に患者Xの薬剤、下段に患者Yの薬剤を置くべきところ、誤って上段に患者Yの薬剤を置いたため、上段にあった薬剤を患者Xの薬剤だと思い込んだ
▽患者Xに「吸入薬を下さい」と言われた際、当病棟でレルベア吸入用を使用する患者はあまりいなかったため、ワゴンに置いてあった吸入薬を患者Xのものだと思い込んでしまった

薬剤間違いの事例1(医療安全情報69回報告書5 220627)



事例の多くは「患者の氏名を適切に確認することで防げた」ものであることが分かります。機構では、事例を詳細に分析したうえで「患者に薬剤を投与する/渡す際のポイント」(患者誤り、薬剤誤りの防止策)を次のように整理しています。

▽基本的な手順として、投与直前に「患者の氏名」と「薬包や注射ラベル等に記載された患者氏名」とが一致しているかを照合することが必要

▽報告された事故等事例には「確認」と記載されていることが多いが、「情報を『照合』しなければならない」という基本を理解していれば、状況に応じて必要な照合を適切に行うことができると考えられる

▽「患者に名乗ってもらう」という手順が遵守されていない事例が多い背景には、「名乗ってもらうという方法自体が難しい」可能性が考えられ、その要因を明らかにする必要がある

▽認証システムを導入していても「使用しなかった」「使用したが適切でなかった」ことにより発生した事例が報告されており、認証システムを使うことの意味を理解して活用することが重要である

▽「患者に名乗ってもらったが薬包・注射ラベル等の患者氏名と照合しなかった」「処方箋と薬包の薬剤名・薬剤量は照合したが患者のものであるか照合しなかった」との報告も少なくなく、何らかの確認作業をすることで患者と薬剤の照合ができたと「思い込んでしまう」傾向が伺われる点に最大の留意が必要である

▽患者氏名の確認は、▼患者に名乗ってもらう▼ネームバンドを見る▼ベッドネームを見る—など様々な方法があり、現場ではわかりにくくなっている可能性がある。また、薬剤側の患者氏名も、▼処方箋と薬包▼注射指示と注射ラベル—など、見るべきものが様々であることが、ルールの徹底を難しくしている一因と思われる。具体的に、「何と何を見て、何と何を照合するのか」をマニュアル等で示すとよい

▽基本的な対策は「患者とモノとの照合」である。「ダブルチェックをしなかったから」というのは根本的な問題でなく、「ダブルチェックをする」は根本的な対策ではない点に留意が必要である(関連記事はこちら

▽例えば「投与直前に5R(正しい患者か、正しい薬剤か、正しい用量か、正しい用法か、正しい時間か)を確認する」「6R(正しい患者か、正しい薬剤か、正しい目的か、正しい用量か、正しい用法か、正しい時間か)を徹底する」などの改善策もだされている。薬剤の準備から投与までの業務工程において「いつ何を確認するのかを整理する」と、無駄がなく漏れのない確認につながると考えられる(関連記事はこちら

▽改善策に「確認手順の徹底」が挙げられている事例があるが、手順が徹底できていないのはなぜかを検討し、手順を明確にして周知することが必要である。



これらを十分に参照したうえで「自院にマッチした方法」を考え、さらに「それを皆で遵守しよう。遵守しない人がいた場合には、きちんと注意し、注意された側もきちんと反省し、手順を守ろう」という風土を醸成することが非常に重要です。



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