看護必要度見直しのシミュレーション実施、心電図モニター・点滴ライン3本以上管理を削除した場合の影響など―中医協総会(2)
2021.12.17.(金)
一般病棟用、特定集中治療室(ICU)管理料用、ハイケアユニット(HCU)入院医療管理料用の重症度、医療・看護必要度(以下、単に看護必要度)について、「項目の妥当性」などを議論するためのシミュレーションを行う―。
例えば一般病棟では「心電図モニター管理」の削除、「点滴ライン同時3本以上管理」の削除や定義見直し、B項目の重複排除、C項目の日数短縮などを組み合わせ、「重症患者割合」(看護必要度を満たす患者割合)にどういった影響が出るのかを試算する―。
12月17日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こうした点が了承されました。ただしシミュレーション結果を見て「看護必要度の項目等について見直すべきか、現状維持とするか」を改めて議論することになるため、現時点で「看護必要度の見直しが行われるか否か」は未知数です。
また、新たにDPCに参加する病院について、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた特例措置を行うことも固められています。
目次
心電図モニター管理の削除、必要度Iでは18%、必要度IIでは11%が重症者から外れる
2022年度の次期診療報酬改定に向けた論議が佳境に入ってきています。12月17日の中医協総会では▼かかりつけ医機能の評価▼入院医療―を主な議題としました。本稿では後者の「入院医療」に焦点を合わせます(前者のかかりつけ医機能に関する議論の記事はこちら)。
入院医療に関しては「看護必要度の見直し」、とりわけ「項目見直しによる影響のシミュレーション」が議題となっています。
一般病棟用の看護必要度に関しては、中医協の下部組織である「入院医療等の調査・評価分科会」において、たとえば▼A項目のうち「心電図モニター管理」や「点滴ライン同時3本以上の管理」▼B項目の「口腔清潔」「衣服着脱」「食事摂取」▼C項目の「骨の手術」—について「見直し」を行ってはどうか、その際「項目削除等による影響を試算し、その結果を踏まえて見直しを検討してはどうか」との考えが示されています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
例えば「点滴ライン同時3本以上管理」では、レセプトでは「使用薬剤が2種類」以下しか確認できない事例があること、「心電図モニター管理」では「他の看護必要度項目との重なりがあまりに少ない」こと、B項目では「項目の重複が大きい」こと、C項目では「該当期間の途中にA項目ゼロ点となるケースが少なくない」ことなどから、これらの項目が「急性期入院医療の評価手法・項目として適切か、妥当か」という問題点が指摘されているのです。
ただし、従前から何度も議論されているテーマでもあり、「看護必要度から除外」した影響をシミュレーションし、「継続するか、除外するかをそろそろ決断する議論をすべき時期に来ている」との提言もなされています。
12月17日の中医協総会には、厚生労働省保険局医療課の井内努課長から、上記項目について見直しを行った場合、「重症患者」(A2点・B3点、A3点、C1点のいずれかに該当としてカウントされる患者の割合にどの程度の影響が出るのかの試算結果が示されました。
まずA項目の「点滴ライン同時3本以上管理」については、「削除」した場合に看護必要度I(従前からの評価票を活用)では0.60%、看護必要度II(DPCデータを活用)では2.30%の患者が「重症患者」にカウントされなくなります。また削除はせず「点滴ライン同時3本以上」という定義を「点滴薬剤3種類以上」に変更すると、看護必要度Iでは0.30%、看護必要度IIでは1.30%の患者が「重症患者」にカウントされなくなります。
また同じくA項目の「心電図モニター管理」を削除した場合、看護必要度Iでは18.90%、看護必要度IIでは11.90%の患者が「重症患者」にカウントされなくなります。
井内医療課長は、今後、こうした見直しを「組み合わせて実施」した場合に、重症患者割合の分布がどのように変化するのか」をシミュレーションする考えを提示しました。
例えば、次のような「見直し」を組み合わせて試算していきます。
▽急性期入院医療を必要とする患者の状態を適切に反映するための項目の見直し(例えばA項目の「心電図モニターの管理」、B項目の「口腔清潔」「食事摂取」「衣服の着脱」を削除・整理する)
▽管理に係る実態をより適切に評価するための配点方法の変更(例:A項目の「輸血や血液製剤の管理」の点数を見直す)
▽急性期入院医療を必要とする患者の状態を適切に反映するための項目内容の見直し (例:A項目の「点滴ライン同時3本以上の管理」の薬剤種類数、C項目の「骨の手術」の該当日数を見直す)
心電図モニター管理については「削除」した場合の影響、点滴ライン同時3本以上管理については「削除」「定義変更」した場合の影響、「輸血や血液製剤の管理」については、現在「あり」の場合に1点獲得できますが、負荷を考慮して「2点」に引き上げた場合の影響、B項目では「重複をなくすための項目整理(一部削除)」を行った場合の影響、骨手術では該当日数を短縮した場合の影響が想定され、組み合わせが「重症患者割合」をどう動かすのかをみていくことになります。
この点、診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)は、▼急性期病床削減を目的にした診療報酬の見直しは許されない▼診療報酬は医療計画・地域医療構想を支え、寄り添うものであり、診療報酬で強引に急性期入院医療提供体制改革を誘導しては誘導してはいけない―ことを確認したうえで、シミュレーションの実施を了承。ただし、例えば「心電図モニター管理」について「たとえば循環器領域では極めて、他領域でも非常に重要である。『問題点がある』との指摘もあるが、急性期入院医療現場では必須の評価事項である。各項目の存在意義をしっかり認識する必要がある」と述べ、シミュレーション後の「項目削除等に向けた論議」に釘を刺しました。
一方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「患者の状態・医療資源投入量を適切に反映した評価指標を設定するための議論であり、急性期病床削減を目指すものではない」とし、シミュレーション実施を歓迎しました。また、「心電図モニター管理」については「削除した場合の影響(重症患者を満たす患者の減少幅)が大きい。これは『心電図モニター管理によって、ギリギリ重症患者にカウントされる』ということの証左だ。しっかり検証する必要がある」とコメント。城守委員とは逆に「シミュレーション結果を見て、項目削除等の議論を積極的に行っていく」意欲をにじませています。
また、支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は「点滴ライン同時3本以上管理については看護必要度IIで影響が大きいが、これはレセプト電算処理システムのコード設定に起因する部分も少なくないと思われる。そうした点を加味した精緻なシミュレーションを行ってほしい」と要望しています。レセプトから「使用薬剤」を必ずしも十分に拾えておらず、それが「点滴ライン同時3本以上管理に該当しながら、薬剤が2種類以下になってしまう」原因になっている可能性があるものです。
他方、診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)は「M行為の質と看護必要度が適切か、マッチしているのかを検証することがポイントである。評価の在り方をより適切なものに改善していく方向に進めてほしい」旨をコメントしています。
今後のシミュレーション結果に注目が集まり、その後の議論次第では2022年度改定にも「重症患者割合」(看護必要度を満たす患者割合)が見直される可能性もあります。
ICU・HCU用の看護必要度でも「心電図モニター管理」「B項目」削除等の影響を試算
またICUやHCU用の看護必要度についても、例えば▼心電図モニター管理などは、ほとんどの患者に該当し評価項目の意義が希薄になっている▼B項目については、A項目4点に該当する患者では、ほとんどすべてB項目3点に該当しており、項目の存在意義が極めて希薄になっている―との指摘があります。意義が希薄になっている項目では「削除」することが看護職員の負担軽減にもつながります(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
さらに、一般病棟と同様に「ICU等にもDPCデータを活用した看護必要度IIを導入すべき」との意見もあります。
この点、井内医療課長からは、例えば▼A項目の「心電図モニター管理」を削除しても、重症患者の基準を「A3点・B3点」とすれば、重症患者該当数などに影響はでない▼B項目を削除し「A4点のみ」で重症患者をカウントしても、重症患者該当者数などに影響は出ない―などのデータを紹介。
併せて一般病棟と同様に、「見直しを組み合わせて実施」した場合の重症患者割合の分布状況をシミュレーションする考えを提示しました。例えば、次のような「見直し」を組み合わせて試算していきます。
▽A項目についてレセプト電算処理システムコードの導入(いわば看護必要度IIを導入する)
▽高度急性期入院医療を必要とする患者の状態を適切に反映するための項目の見直し (例:A項目の「心電図モニターの管理」「輸液ポンプの管理(ICUのみ)」、B項目の削除)
▽高度急性期入院医療を必要とする患者の状態を適切に反映するための評価票の見直し (例:救命救急入院料1・3で用いる評価票をHCU用に変更する)
▽項目の内容の見直し (例:A項目の「点滴ライン同時3本以上の管理(HCUのみ)」の薬剤種類数などを見直す)
このシミュレーション方向にも異論は出ていません。シミュレーション後の議論に注目が集まります。
新規DPC病院で「コロナ感染症前の診療実績データ」がない病院、係数の特例設ける
また12月17日の中医協総会には、DPC病院の医療機関別係数に関する特例も議題となりました。
DPCでは診療実績に基づいて医療機関別係数を設定しますが、現下の新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえて、▼コロナ患者受け入れ期間を、実績期間から控除して、その分を過去に遡って実績を算出する▼コロナ患者受け入れ期間を除外して実績を算出する▼コロナ患者受け入れ期間を除外しないで実績を算出―の中で「最も高い実績」を使用できるとの特例措置が設けられています(コロナ感染症の影響で予定入院・予定手術等の延期、空床確保などが行われ実績が低くなっている病院の救済措置)。
この取り扱いは2022年度改定時の医療機関別係数設定にも用いられると思われますが、コロナ感染症の流行期間が長いためにこの特例では対応困難なケースが存在すると思われます。具体的には「新規にDPC制度へ参加する病院の中には、従前にデータ提出をしておらず『コロナ患者受け入れ期間以外の診療実績データが存在しない』ケース」で、井内医療課長は、こうした病院について次のような新特例を適用してはどうかと中医協に提案しました。
▽対象病院:2022年度に新たに DPCに参加する、「コロナ患者受け入れ以前の診療実績データが存在しない」病院
▽「基礎係数算出に係る医療機関群の決定に使用する実績」「機能評価係数IIの診療実績に基づく指数」は、当該病院の診療実績データについて「データ提出している期間で最もコロナ感染症の影響が少ない」と考えられる月の診療実績データを12倍して得られた数値に基づき算出する
「コロナ感染患者を受け入れているか否か」は病院側の申告に基づいて判断し、「最もコロナ感染症の影響が少ない月」の選定は厚労省の判断で行われることになります。
【これまでの2022年度改定関連記事】
◆入院医療の全体に関する記事はこちら(入院医療分科会の最終とりまとめ)とこちら(入院医療分科会の中間とりまとめを受けた中医協論議)とこちら(入院医療分科会の中間とりまとめ)とこちら(入院総論)
◆急性期入院医療に関する記事はこちら(新指標4)とこちら(新指標3、重症患者対応)とこちら(看護必要度5)とこちら(看護必要度4)とこちら(看護必要度3)とこちら(新入院指標2)とこちら(看護必要度2)とこちら(看護必要度1)とこちら(新入院指標1)
◆DPCに関する記事はこちらとこちらとこちら
◆ICU等に関する記事はこちらとこちらとこちらとこちら
◆地域包括ケア病棟に関する記事はこちらとこちらとこちらとこちら
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◆救急医療管理加算に関する記事はこちらとこちらとこちら
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◆医療従事者の働き方改革サポートに関する記事はこちらとこちら
◆がん対策サポートに関する記事はこちらとこちら
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◆リハビリに関する記事はこちら
◆小児医療・周産期医療に関する記事はこちら
◆医療安全対策に関する記事はこちら
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◆個別疾患管理等に関する記事はこちら
◆データ提出等に関する記事はこちらとこちら
◆調剤に関する記事はこちらとこちらとこちら
◆後発医薬品使用促進・薬剤使用適正化、不妊治療技術に関する記事はこちらとこちらとこちらとこちら
◆医療経済実態調査(第23回調査)結果に関する記事はこちら
◆消費税対応の是非に関する記事はこちら
◆薬価・材料価格調査に関する記事はこちら
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