放置すれば「大腸がん」化が必至なFAP、効果的な内視鏡治療(予防摘除)を診療報酬でサポート―中医協総会
2021.12.24.(金)
医療従事者の働き方改革をサポートするために、診療報酬にかかる施設基準届け出などの手続き簡素化を行ってはどうか―。
放置すれば「大腸がん」になることが確実なFAP(家族性腺腫性ポリポーシス)について、効果的な内視鏡治療(多数の大腸ポリープの予防的摘除)を進めるため診療報酬面でのサポートを行ってはどうか―。
12月24日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こういった議論が行われました。
2022年度診療報酬改定に向けた論点は概ね出揃い、支払側・診療側の双方が「改定に対する意見」を提出しています。すでに社会保障審議会の医療保険部会・医療部会で固められた基本方針(関連記事はこちらとこちら)、12月22日に正式決定された改定率なども踏まえ、年明けからの中医協では「議論の整理→短冊(個別改定項目)→答申」という流れで詰めの論議を行います。もちろん、残された重要論点(重症度、医療・看護必要度、看護職員の処遇改善など)の審議も並行して進められます。
目次
診療報酬にかかる施設基準届け出などの医療機関負担をさらに軽減
2022年度の次期診療報酬改定に向けた論議が佳境に入っています。12月24日の中医協総会では、個別事項として(1)診療報酬上の届け出簡素化(2)内視鏡治療(3)これまでの宿題に対する回答―を主な議題としました。
まず(1)では診療報酬にかかる施設基準の▼届け出▼手続き―などについて「医療機関の負担軽減」に向けた効率化を行うものです。例えば、A208-2【超急性期脳卒中加算】における日本脳卒中学会等の行うt-PA適正使用に関する講習会などの「研修終了証の添付」の簡素化、訪問看護ステーションにおける「連絡先やその他職員」のみを変更した場合の届け出手続き見直しなどが考えられます。
この点、簡素化に反対する委員はおらず、今後、厚労省で具体的な簡素化内容を詰めていくことになります。
併せて支払側の佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)や公益代表の飯塚敏晃委員(東京大大学院経済学研究科教授)は「施設基準等届け出のデジタル化」を要望。厚生労働省保険局医療課保険医療企画調査室の高宮裕介室長は「2022年度には施設基準のうち16項目(例えば医科の【入退院支援加算】、調剤の【地域支援体制加算】【後発医薬品調剤体制加算】など)および毎年7月1日時点の届け出状況報告についてデジタル化を進める。今後、対象拡大に向けて取り組んでいく」考えを示しています。
大腸がんが必発するFAPの内視鏡的治療を診療報酬でサポート
また(2)では、家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)に対する内視鏡治療を診療報酬でどう評価するかという論点です。
FAPは遺伝性の希少疾患で、「消化管全体にポリープが多発し、放置すれば大腸がんが必発する(40歳で50%、60歳までに100%)」ことから「大腸の予防的切除」が推奨されています(標準治療)。しかし負担の小さな「内視鏡治療」(内視鏡によって多発する大腸ポリープを徹底的に摘除する)を希望する患者も少なくなく、「大腸切除よりも内視鏡治療の方が効果が高い」との最新研究結果もあります。
一方、診療報酬の規定を見ると、K721【内視鏡的大腸ポリープ・粘膜切除術】は、大腸切除を評価する点数に比べて低く、またポリープの大きさによってのみ点数設定(直系2cm未満は5000点、2cm以上は7000点)がなされ、「ポリープの数による評価」はなされていません。上述のようにFAPでは「大腸ポリープが多数発生し、これを徹底的に摘除する」ことが効果的ですが、現行診療報酬では「数多くのポリープを摘除」する技術・手間への十分な評価がなされているとは言えない状況です(極論すれば1個のポリープ摘除であっても、100個のポリープ摘除であっても同じ点数)。
こうした点を踏まえて中医協では、「FAP症例に対する、内視鏡での多数の大腸ポリープ摘除について診療報酬での十分な手当てを行うべき」との意見が診療側・支払側の双方から出ています。どのような評価方法となるのかは今後の厚労省検討を待つ必要がありますが、▼FAP内視鏡治療で多数個のポリープ摘除を行う場合の点数を設けてはどうか(診療側の城守国斗委員:日本医師会常任理事、支払側の佐保委員)▼K721【内視鏡的大腸ポリープ・粘膜切除術】について「多数ポリープ摘除」に対応するための増点を考えてはどうか(診療側の島弘志委員:日本病院会副会長)―などの意見が提示されています。
ところで、2020年度の前回診療報酬改定では「遺伝的に乳がん・卵巣がんになりやすい患者(HBOC患者)に対する臓器の予防的切除」などを保険適用する画期的な見直しが行われました。2022年度改定でも、言わば「大腸がんに進行する前の予防的治療」に力点を置いた評価がなされると考えられます。「いずれ『がん』に罹患・進行することが確実である」と考えられる患者への積極的な治療が、今後も保険診療の中で進むことに期待が集まります。
人工腎臓、「HIF-PH素材剤を院外処方しない」ケースは様々で高点数算定の不合理も
他方(3)は、これまでの改定論議の中で「議論を深めるために、こうしたデータを出してもらえないか」という委員からの宿題に対し、厚労省が回答を行ったものです。例えば次のような点が明らかにされています。
▽在宅療養支援病院における「緊急入院のための病床確保」「緊急入院患者の受け入れ実績」については、機能強化型でも機能強化型以外でも傾向に大きな違いはない(関連記事はこちら)
▽分娩を取り扱うが、A237【ハイリスク分娩管理加算】を算定できないと考えられる(常勤医師3本以上配置要件を満たさない)医療機関は、病院で「985施設中の188施設(19.1%)、有床診療所で「1148施設中の658施設(59.7%)(関連記事はこちら)
▽経口の腎性貧血治療薬「HIF-PH阻害剤」を使用する透析について、例えば▼他院でHIF-PH阻害剤を院外処方され、自院ではHIF-PH阻害剤を院外・院内とも処方していないケース▼他院でHIF-PH阻害剤を退院時に院内処方され退院し、外来通院透析を再開する際、自院ではHIF-PH阻害剤を院外・院内とも処方してないケース―では「院外処方している患者以外の患者」に該当し、薬剤を処方していないにもかかわらず高い点数を算定できてしまうという不合理がある(関連記事はこちら)
▽長期入院血液透析患者の受け入れ施設が不足していると考えられる中で、有床診療所が大きな役割を果たしている(関連記事はこちら)
▽耳鼻咽喉科領域の処置について、同時に算定されている項目数は「2項目」が最多で、▼鼻処置+ネブライザー▼鼻処置+副鼻腔自然口開大処置▼鼻処置+間接喉頭鏡下喉頭処置(喉頭注入含む)―などが多い(関連記事はこちら)
このうち「透析」(人工腎臓)の点数は次のように複雑に設定されています(ここにさらに処置時間、実施医療機関の体制を考慮するため、さらに複雑になり18通りの点数区分になる)
(A)HIF-PH阻害剤を「院外処方している患者以外」の場合:高い点数(例えば4時間未満で透析用監視装置が26台未満等の場合には1924点)
(a)HIF-PH阻害剤を院内処方している場合(院内処方されたHIF-PH阻害剤を内服して血液透析を実施)
(b)HIF-PH阻害剤を使用しない場合
▼ESA製剤(エリスロポエチン製剤)を使用する場合
▼ESA製剤を使用しない場合
(B)HIF-PH阻害剤を院外処方している場合(透析実施施設でHIF-PH阻害剤を院外処方して血液透析を実施):低い点数(上記例では1798点)
このように(A)には様々なケースがありますが一律に「高い点数」が設定され、また上述ような「高い点数を算定することが不合理なケース」も存在します。こうした不合理が存在する点や、(B)の院外処方するケースが著しく少ない点などを踏まえて「人工腎臓の点数体系」見直しを議論していくこととなります。例えば従前は「さまざまな医薬品について包括した点数設定」としており、「HIF-PH阻害剤についても包括評価の中で対応していく」という考えもあるかもしれません。この点、診療側の島委員や有澤賢二委員(日本薬剤師会常務理事)は「HIF-PH阻害剤を院外処方するケースは存在し、そうした医療現場への配慮は行うべき」(例えば「院外処方する場合の点数」(上記(B))を残し、薬剤費を薬局等で算定できる余地を残すなど)との考えを改めて述べています。今後の調整を見守る必要があるでしょう。
また透析における有床診の重要性に鑑みて診療側の島委員は「有床診においても、療養病棟と同じく【慢性維持透析管理加算】(1日につき100点)の算定を認めるべき」と要望。これに対し支払側の松本委員は「有床診と病院の療養病棟とでは体制等に大きな違いがある。加算をそのまま適用することは好ましくない」との考えを示しました。松本委員の考えに沿えば、例えば「有床診においては減額した【慢性期維持透析管理加算】の算定を認める」ことなどが考えられそうです。
なお、耳鼻咽喉科の処置について診療側の城守委員は「常に感染のリスクがあり、現下の新型コロナウイルス感染症対応の中で苦慮されている部分だが、点数設定が診療実態に合っていない。まず処置点数の引き上げを行い、そこから『複数処置を組み合わせて行った場合の評価』を考えるべき」と訴えています。
2022年度改定に向けた素材が概ね出揃う、年明けから個別改定項目に関する審議に入る
また12月24日の中医協総会には、支払側・診療側の双方が「改定に対する意見」を提出しています。例えば支払側は▼急性期一般入院料1の重症患者割合(看護必要度を満たす患者割合)引き上げ▼post acute機能に偏る地域包括ケア病棟の減算対象拡大▼初診料における機能強化加算の対象患者限定―など、診療側は▼初診料・再診料・外来診療料の引き上げ▼看護必要度の項目見直しなどは避ける▼入院医療の評価体系見直しは不合理修正にとどめる―など、個別項目についての考え方を改めて整理しています。
すでに固められた▼基本方針(関連記事はこちらとこちら)▼改定率―、さらにこれまでの中医協議論で、2022年度改定に向けた素材が概ね出揃ったと言えます(ただし重症度、医療・看護必要度のシミュレーション、看護職員の処遇改善などの重要論点も一部残されており、下記の詰めの議論と並行して審議される)。
年明けからの中医協では、こうした素材をもとにより具体的な改定論議(個別点数の要件や基準など)に入り、次のような流れで詰めの議論を行うことになります。
▼議論の整理(改定項目の洗い出し、言わば短冊の目次に相当)
↓
▼公聴会(2022年1月21日、オンライン形式で開催)・パブリックコメント募集
↓
▼短冊(個別改定項目)論議
↓
▼答申(2月上旬予定
なおGem Medでは年末年始を利用してこれまでの論議を総点検する記事を掲載するとともに、改定セミナー動画の中でも全体の振り返りを行います。是非、ご活用ください。
【これまでの2022年度改定関連記事】
◆入院医療の全体に関する記事はこちら(入院医療分科会の最終とりまとめ)とこちら(入院医療分科会の中間とりまとめを受けた中医協論議)とこちら(入院医療分科会の中間とりまとめ)とこちら(入院総論)
◆急性期入院医療に関する記事はこちら(看護必要度6)とこちら(新指標4)とこちら(新指標3、重症患者対応)とこちら(看護必要度5)とこちら(看護必要度4)とこちら(看護必要度3)とこちら(新入院指標2)とこちら(看護必要度2)とこちら(看護必要度1)とこちら(新入院指標1)
◆DPCに関する記事はこちらとこちらとこちら
◆ICU等に関する記事はこちらとこちらとこちらとこちら
◆地域包括ケア病棟に関する記事はこちらとこちらとこちらとこちら
◆回復期リハビリテーション病棟に関する記事はこちらとこちらとこちらとこちら
◆慢性期入院医療に関する記事はこちらとこちらとこちらとこちら
◆入退院支援の促進などに関する記事はこちらとこちら
◆救急医療管理加算に関する記事はこちらとこちらとこちら
◆短期滞在手術等基本料に関する記事はこちらとこちら
◆外来医療に関する記事はこちらとこちらとこちらとこちら
◆在宅医療・訪問看護に関する記事はこちら(訪問看護)とこちら(小児在宅等)とこちら(訪問看護)とこちらとこちら
◆オンライン診療に関する記事はこちら
◆新型コロナウイルス感染症を含めた感染症対策に関する記事はこちらとこちら
◆医療従事者の働き方改革サポートに関する記事はこちらとこちら
◆がん対策サポートに関する記事はこちらとこちら
◆難病・アレルギー疾患対策サポートに関する記事はこちら
◆認知症を含めた精神医療に関する記事はこちらとこちら
◆リハビリに関する記事はこちら
◆小児医療・周産期医療に関する記事はこちら
◆医療安全対策に関する記事はこちら
◆透析医療に関する記事はこちら
◆個別疾患管理等に関する記事はこちら
◆データ提出等に関する記事はこちらとこちら
◆調剤に関する記事はこちらとこちらとこちら
◆後発医薬品使用促進・薬剤使用適正化、不妊治療技術に関する記事はこちらとこちらとこちらとこちら
◆医療経済実態調査(第23回調査)結果に関する記事はこちら
◆消費税対応の是非に関する記事はこちら
◆薬価・材料価格調査に関する記事はこちら
◆改定率に関する記事はこちら
◆基本方針策定論議に関する記事はこちら(医療部会5)とこちら(医療保険部会5)とこちら(医療保険部会4)とこちら(医療部会4)とこちら(医療部会3)とこちら(医療保険部会3)とこちら(医療部会2)とこちら(医療保険部会2)とこちら(医療部会1)とこちら(医療保険部会1)
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