2023年の医療事故は6070件、ヒヤリ・ハット事例は113万超件の報告、インスリン過量投与・退院前後処方誤りの分析進む―日本医療機能評価機構
2024.7.1.(月)
昨年(2023年)1年間に報告された医療事故は6070件あり、前年に比べて14.2%増加した。このうち「死亡」事故は7.4%で、前年から0.6ポイント減少したものの、「障害残存の可能性が高い」事故が同11.2%で、前年から0.9ポイント増加するなど、中長期的に動向を見ていく必要がある—。
同じく昨年(2023年)1年間に報告されたヒヤリ・ハット事例は113万件超で、前年に比べて11.0%の増加となった、報告件数の増加は、「ミスを医療現場で適切に把握し、包み隠さずに報告している」ことを意味しており、「医療の透明性が高まってきている」と評価することが可能である—。
このような状況が、日本医療機能評価機構が6月27日に発表した2023年の「医療事故情報収集等事業」の年報から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(2022年の状況に関する記事はこちら、2021年の状況に関する記事はこちら、2020年の状況に関する記事はこちら、2019年の状況に関する記事はこちら、2018年の状況に関する記事はこちら、2017年の状況に関する記事はこちら、2016年の状況に関する記事はこちら)。
事故、ヒヤリ・ハット事例について「再発防止策」(インスリンの過量投与、退院前後の処方誤りなど)が詳細に検討されており、各医療機関でも参考にしていくことが強く期待されます。
2023年の医療事故、死亡事例は減少するも、障害残存可能性の高い事故が増加
日本医療機能評価機構では、医療安全の確保に向け、医療機関で発生した医療事故やヒヤリ・ハット事例(事故には至らなかったがヒヤリとした、ハッとした事例)を収集・分析する「医療事故情報収集等事業」を実施し、定期的にその内容を公表しています。
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昨年(2023年)に報告された医療事故の状況を見てみると、件数は合計6070件で、前年から14.2%増加しました。
事故全体を程度別に見ると、「死亡」が449件(事故事例の7.4%、前年比べて0.6ポイント減)、「障害残存の可能性が高い」ものが682件(同11.2%、同0.9ポイント増)、「障害残存の可能性が低い」ものが1717件(同28.3%、同0.4ポイント減)、「障害残存の可能性なし」が1601件(同26.4%、同1.3ポイント減)などとなっています。死亡事故は減少しているものの、「障害残存の可能性が高い」重大な事故が増加している点が懸念されます。中長期的に動向を見ていく必要があるでしょう。
医療事故の概要を見てみると、最も多いのは「治療・処置」で1937件(事故全体の31.9%、前年から0.5ポイント減少)。次いで「療養上の世話」の1890件(同31.1%、同増減なし)、「薬剤」の492件(同8.1%、同0.2ポイント増)、「ドレーン・チューブ」の492件(同8.1%、同0.4ポイント増)などと続きます。前年・前々年に続き「治療・処置」に関する事故がシェアチップを占めており、コロナ感染症との関連を今後分析していく必要があるでしょう。
事故に関連した診療科(複数回答が可能)を見ると、これまでと同様に整形外科が最も多い状況に変わりなく、シェアは11.3%で前年から0.8ポイント増となりました。コロナ禍で「整形外科の医療事故シェアが減少」していたましたが、コロナ感染症が落ち着く中で、医療現場が通常に戻りつつあることが背景にあるのかもしれません。患者調査などの動向と比較分析することも有用でしょう(関連記事はこちら)。
このほか、▼外科の7.2%(前年度から0.7ポイント減)▼内科の6.8%(同0.1ポイント増)▼循環器内科の6.7%(同0.2ポイント減)▼消化器科の6.1%(同0.7ポイント減)—などで多くなっています。上位診療科の顔ぶれは変わりませんが、順位が入れ替わっています。
ヒヤリ・ハット事例は113万件超、報告件数増は「医療現場の透明性確保」を意味する
次にヒヤリ・ハット事例を見てみましょう。昨年(2023年)1年間に報告されたヒヤリ・ハット事例は合計113万40件で、前年に比べて11.0%の増加となりました。報告件数の増加は、「ミスの増加」よりも「ミスを医療現場で適切に把握し、包み隠さずに報告している」ことを意味すると言えます。つまり「透明性が増している」と考えられ、報告件数の増加は「好ましい」方向に動いていると考えるべきでしょう。
内訳を見ると、「薬剤」が最も多く35万5481件(ヒヤリ・ハット事例全体の31.5%、前年に比べて0.2ポイント減)、次いで「療養上の世話」24万3212件(同21.5%、同0.4ポイント減)、「ドレーン・チューブ」15万8018件(同14.0%、同0.6ポイント減)などで多くなっています。前年と比べて目立った変化はなさそうです。
「ヒヤリとした、ハットした」にとどまり、実際に患者に誤った行為などをしていないケースが全体の約3分の1超に当たる40万9878件あります。これらについて、「仮に誤った行為を実施してしまった」場合の影響を推測すると、「死亡」もしくは「重篤な状況」に至ったであろう重大なミスは6691件・1.6%(前年から0.5ポイント増)、「濃厚な処置・治療が必要になった」と思われる中程度のミスは3万1434件・7.7%(同0.3ポイント増)となっています。大きなミスが増加している可能性もあり、「十分な注意」「1人がミスをしても他者が気づき、リカバリーできる体制づくり」などの重要性がさらに増していくと考えられます。
なお、年報では具体的な医療事故をクローズアップして背景など分析。再発防止策などを提言しています。2023年報では、▼ダブルチェックに関連した事例(関連記事はこちら)▼インスリンバイアル製剤の過量投与に関連した事例(関連記事はこちらとこちら)▼退院前後の処方間違いに関連した事例(関連記事はこちらとこちら)—を取り上げています。
このうち「インスリンバイアル製剤の過量投与」については、例えば「どのような時でも例外なくインスリン専用注射器を使用することを院内スタッフに周知する」など医療現場に留意を求めるとともに、製薬メーカーに宛てて「インスリンバイアル製剤にはインスリン専用注射器しか接続できないような構造への見直し」などを提言しています(関連記事はこちらとこちら)。
また「退院前後の処方間違い」に関しては、患者に重大な健康被害も生じている点を強調し、例えば「患者・処方内容の再確認を徹底する」「入院担当医と外来担当医の情報連携を十分に行う」などの対策を徹底するよう提言しています(関連記事はこちらとこちら)。
こうした提言をベースに「自院にマッチした医療事故防止策」などをまとめ、院内スタッフ全員に周知し、かつ「院内ルールを遵守する」風土を作り上げることが重要です。この点、「ダブルチェック」は万能ではなく、「●●さんが事後にチェックするので安心、◆◆さんが事前にチェックしているので簡易なチェックでよいだろう」と考えてしまうことがあり、かえって危険であることもありうる点に留意が必要です(関連記事はこちら)。
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