ロボット支援下内視鏡手術の「術者としての経験症例」基準緩和へ、Ai画像診断支援を診療報酬で評価―中医協総会(1)
2022.1.19.(水)
da Vinciなどを用いるロボット支援下内視鏡手術について、比較的新たな技術ゆえに実施する場合には「術者としてロボット支援下内視鏡術を●例以上実施した経験のある常勤医師を配置している」ことといった施設基準が設けられている―。
この点、胃がん・直腸がん・食道がんについて「経験症例数が施設基準を上回っている医師」と「そうでない医師」とで、「医療の質」(重篤な合併症の発生率)に大きな差はないことがデータから明らかとなった。このデータを踏まえて、ロボット支援下内視鏡手術の施設基準(経験症例数)の見直しを検討してはどうか―。
またAi(人工知能)を用いた画像診断支援について、診療報酬の加算などで評価を行ってはどうか―。
1月19日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こういった点が了承されました。
目次
2022年度の次期診療報酬改定、有用性・安全性の確認された175技術を保険適用
2年に一度行われる診療報酬改定では「有用性・安全性が確認された新たな医療技術を体系立てて保険適用する」ことも大きな要素の1つとなります。進歩する医療技術を大量に保険適用することで、医療の質をより高めることが期待されます。
医療技術の有用性・安全性の評価は、専ら中医協の下部組織である「診療報酬調査専門組織・医療技術評価分科会」で行われ、▼医学会等からエビデンスを添えて「保険適用が妥当である」と提案された技術▼先進医療で実施されている技術―について、有用性・安全性をもとに保険適用の妥当性を専門的な視点で評価・審査します。従前は、「医学会等から保険適用の提案がなされた技術」は医療技術評価分科会で、先進医療として実施されている技術については先進医療会議で有効性・安全性が評価・審査されていましたが、2018年度改定から、医学会からの提案技術、先進医療技術のいずれについても医療技術評価分科会で審査することになりました(統一視点での評価・審査を行う)。
2022年度の次期診療報酬改定に向けては、学会などから提案された714件の医療技術と、19件の先進医療について有効性・安全性を審査。このうち175件(新規技術77件、既存技術98件)について「保険適用が妥当」との評価案が医療技術評価分科会で作成され、今般、中医協総会で原案通り了承されました。他の技術については「既に保険適用されている技術と重複している」「保険診療になじまない」「保険適用に向けたエビデンス等が十分でない」などと判断されています。
●技術評価結果の一覧はこちら
ロボット支援下内視鏡手術、経験症例数にかかる施設基準を緩和へ
まずda vinciシステムなどを活用したロボット支援下内視鏡手術(内視鏡手術用支援機器を用いる手術)については「経験豊富な術者」(胃がん・直腸がんでは10症例超、食道がんでは5症例超)と、「経験の浅い術者」(前述の基準値以下)とで医療の質(具体的には重篤な合併症(Clavien Dindo分類IIIa:CDIIIa以上、外科的治療・内視鏡的治療・IVR(画像下治療)が必要な合併症)の発生度合)を比較(2018年・19年に日本外科学会のNCD(National Clinical Database)に登録された延べ1万219件を対象)。
その結果、両者の間に有意な差は見られませんでした。ここから「経験の浅い術者でも相当程度の医療の質を担保できる」技術であることが伺えます。
ところで現在の施設基準を見ると、例えば▼食道がんでは「胸腔鏡下食道悪性腫瘍手術(内視鏡手術用支援機器を用いる場合)を術者として5例以上実施した経験を有する常勤の医師が1名以上配置されていること」▼胃がんでは「腹腔鏡下胃切除術(内視鏡手術用支援機器を用いる場合)・腹腔鏡下噴門側胃切除術(内視鏡手術用支援機器を用いる場合)・腹腔鏡下胃全摘術(内視鏡手術用支援機器を用いる場合)を術者としてあわせて10例以上実施した経験を有する常勤の医師が1名以上配置されていること」▼直腸がんでは「腹腔鏡下直腸切除・切断術(内視鏡手術用支援機器を用いる場合)を術者としてあわせて10例以上実施した経験を有する常勤の医師が1名以上配置されていること」―などの基準が設定されています。比較的新しい技術であるため、「経験豊富な術者」を配置することで「医療の質」を担保する狙いがあります。
今回のデータを踏まえれば、「施設基準の緩和」、つまり「術者としての経験症例数の基準緩和」が検討されることになるでしょう。基準の緩和が実現すれば、より多くの病院でロボット支援下内視鏡手術が保険診療として実施できることにつながります。ICT技術がさらに進化し、将来的に「遠隔手術」(例えば遠隔地にいる医師が、他施設のロボットを操作して手術を行うなど)が可能となれば、「外科医の地域偏在解消」に大きな一石を投じることになるでしょう。今後の技術進展に期待が集まります。
また、▼ロボット支援手術(喉頭・下咽頭悪性腫瘍手術、中咽頭悪性腫瘍手術(前壁切除)、中咽頭悪性腫瘍手術 前壁以外)▼総胆管拡張症手術(ロボット支援)▼肝切除術(ロボット支援)▼結腸悪性腫瘍手術(ロボット支援)▼腎悪性腫瘍手術(ロボット支援)▼尿管悪性腫瘍手術(ロボット支援)▼副腎腫瘍摘出術(ロボット支援)▼副腎腫瘍切除術・髄質腫瘍(褐色細胞腫)(ロボット支援)▼―の保険適用が認められます。
さらに、すでに保険適用されている▼胃悪性腫瘍手術(切除)(ロボット支援)▼胃悪性腫瘍手術(全摘)(ロボット支援)▼胃悪性腫瘍手術(噴門側切除術)(ロボット支援)―については学会から有用性のエビデンスが示されており、診療報酬上の評価が見直される可能性があります。
一方、▼子宮悪性腫瘍手術(広汎切除)(ロボット支援)▼ロボット支援下子宮悪性腫瘍手術(単純)(傍大動脈リンパ節郭清を含む)▼骨盤内臓全摘術(ロボット支援)▼肝門部胆管悪性腫瘍手術(血行再建なし)(ロボット支援)▼ロボット支援下鼠径ヘルニア手術―については、有用性に関するエビデンスが不十分として今回の保険適用は見送られる格好です。
先進医療の中から、有用性・安全性・効率性等が十分に確認された5技術を保険適用
先進医療は、有効性・安全性が一定程度確立している医療技術について「保険診療と保険外診療との併用」を認めるものです(原則は、保険外の技術を行う場合には一連の治療すべてが保険外となる)。▼未承認の医薬品・医療機器を用いない、または人体への影響が小さな先進医療A▼未承認の医薬品・医療機器を用いる先進医療B―があります。先進医療に該当する部分の費用は自己負担としたまま、入院費用などについて公的医療保険を併用できる仕組みです。
現在、すべての先進医療は「症例数を集積して有用性・安全性・効率性等のさらなるエビデンスを蓄積し、保険適用を目指す」ことになっています。2022年度の次期改定に向けては、次の5技術について「有用性のエビデンスがある」と判断され、保険適用されることになりました。
▽陽子線治療
▽重粒子線治療
▽LDLアフェレシス療法
▽MRI撮影および超音波検査融合画像に基づく前立腺針生検法
▽流産検体を用いた染色体検査
その他の既存先進医療技術については、「現時点で十分なエビデンスが構築されていない」ことから、先進医療として継続(つまり保険外診療と保険診療との併用を継続)し、さらに症例数を蓄積する中でエビデンス構築を目指すことになっています。なお、昨年(2021年)12月8日の中医協総会では、先進医療会議が▼神経変性疾患の遺伝子診断▼培養細胞によるライソゾーム病の診断▼培養細胞による脂肪酸代謝異常症または有機酸代謝異常症の診断―の3技術について「有効性、効率性等が十分に示されておらず、先進医療から削除する」方針を固めたことが報告されています。
また上記5技術(先進医療から保険適用される技術)以外に、新たに保険適用等の対応が行われる170技術のうち113技術(新規36、既存77)については「診療ガイドライン」等での記載がなされています。これらの技術を保険診療の中で実施する際には「診療ガイドライン等に沿う」ことが求められるでしょう。
Ai(人工知能)を用いた画像診断の補助、新加算で対応へ
このほか、新たに保険適用される医療技術を眺めると、例えば▼人工知能技術(Ai)を用いた画像診断補助に対する加算(単純・コンピュータ断層撮影)▼肩腱板断裂手術(腱板断裂5cm未満)(関節鏡下)(腱固定術を伴う)▼遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)に対する予防的乳房切除の施設基準の要件変更▼画像等手術支援加算(術中MRIによるもの)―などが目を引きます。
Ai画像診断支援は、2020年度の前回改定では「有用性に関する十分なエビデンスがない」として保険適用が見送られましたが、今回は「有用性のエビデンスあり」として保険適用が認められます。「Ai(人工知能)による診断補助」の診療報酬での評価は今後も拡大していくものと思われます。
外保連試案や診療実態を踏まえた手術点数体系の改善をさらに研究・検討
なお、診療報酬点数表の手術コード(Kコード)について外科系学会社会保険委員会連合(外保連)試案の基幹コードである「STEM7」(部位・基本操作・アプローチ方法・アプローチ補助器械で体系化したコード)に沿った再編の検討・研究が進められています(2018年度改定からKコードにSTEM7併記がデータ提出加算の要件となった)。
今般、医療技術評価分科会で、DPCデータの麻酔時間に着目して、「KコードとSTEM7との突合解析」を行ったところ、例えば次のような状況が明らかになりました。
▽1つのKコードに対して手術部位毎にSTEM7が分類されているケース(例:K046【骨折観血的手術】の「1 肩甲骨、上腕、大腿」など)
→STEM7では3つ(上腕骨、肩甲骨、大腿骨)に分類され、部位により「麻酔時間の分布」が異なっていた
▽1つのKコードに対して「手術部位は同じだが、使用する器材の違い」によりSTEM7が分類されているケース(例:K655-2【腹腔鏡下胃切除術】の「2 悪性腫瘍手術」、内視鏡による場合、ロボット支援手術の場合)
→用いる器材の違いによって「麻酔時間の分布」が異なっていた
▽Kコードが複数ある一方で「STEM7では同一」とされているケース(例:K695【肝切除術】の「4 1区域切除(外側区域切除を除く)」と同「5 2区域切除」)
→STEM7上は同一で、また麻酔時間の分布の相違も明らかではなく、いずれの術式においても「540分以上」が多数存在した
こうした解析結果からは「麻酔時間の分布から細分化・合理化が可能なKコードがある」ことが伺われます。今後、▼STEM7で分類した際に「症例数が少ない」場合の取扱いをどう考えるか▼麻酔時間の長さと手術時間の長さは一致しているのか▼包括されている材料の違いなど麻酔時間以外にも考慮すべき点はないか―などを考えながら、手術点数体系の精緻化をさらに研究・検討していくことになります。
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