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「病棟・部署の定数配置薬」取り違え事故が散発し、死亡事例も発生、薬剤使用前の確認・薬剤師との連携などが重要―医療機能評価機構

2024.10.4.(金)

今年(2024年)4-6月に報告された医療事故は1174件、ヒヤリ・ハット事例は4941件であった。医療事故のうち7.6%では患者が死亡しており、13.0%では死亡にこそ至らないまでも「障害残存」の可能性が高い—。

こういった状況が、日本医療機能評価機構が9月30日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第78回報告書(本年(2024年)4-6月が対象)から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(前四半期(2024年1-3月)を対象にした第77回報告書に関する記事はこちら)。

また報告書では「病棟・部署の定数配置薬」取り違え事故に焦点を合わせた更なる分析を行っています。死亡事例も発生しており、薬剤使用「前」の確認徹底やスタッフ間の情報旧友、薬剤師との連携、さらに薬剤師に関する知識の確認などが重要と提言されています。機構提言を踏まえ、各医療機関で「自院にマッチした再発防止策」を構築・周知する必要があります。

2024年4-6月、重大な医療事故(障害残存事例など)が増加、引き続きの注意を

日本医療機能評価機は、全国の医療機関から医療事故やヒヤリ・ハット事例(事故には至らなかったものの担当医療スタッフ等が「ヒヤリ」とした、「ハッ」とした事例)の報告を受け、背景等を詳しく分析して「事故等の再発防止に向けた提言」等を定期的に行っています【医療事故情報収集等事業】(国立病院や特定機能病院などでは事故等の報告が義務付けられている)。

今年(2024年)4-6月に報告された医療事故は1174件でした。

事故の程度別に見ると、▼死亡:89件・事故事例の7.6%(前四半期に比べて増減なし)▼障害残存の可能性が高い:153件・同13.0%(同1.9ポイント増)▼障害残存の可能性が低い:355件・同30.227.4%(同2.8ポイント増)▼障害残存の可能性なし:233件・同19.8%(同6.7ポイント減)―などとなりました。前四半期に比べて「障害残存の可能性が高い事故」が増えているように見えますが、中長期的に状況を見ていく必要があります。

医療事故の概要を見ると、最も多いのは「治療・処置」の383件・32.6%(前四半期に比べて0.4ポイント減)。次いで、「療養上の世話」の365件・31.1%(同1.6ポイント減)、「薬剤」82件・同7.0%(同1.0ポイント減)、「ドレーン・チューブ」74件・同6.3%(同0.9ポイント減)などと続きます。多くの医療行為で「事故」が生じており、確認手順などを常に検証・改善することが重要です。

医療事故の状況(医療事故情報収集等事業 第78回報告書1 240920)

ヒヤリ・ハット事例は、依然として「様々な場面で発生」しており、最大限の留意を

ヒヤリ・ハット事例に目を移すと、今年(2024年)4-6月の報告件数は4941件。内訳を見ると、依然として「薬剤」関連の事例が最も多く1699件・ヒヤリ・ハット事例全体の34.4%(前四半期と比べて1.4ポイント減)を占めています。次いで「療養上の世話」1262件・同25.5%(同0.8ポイント増)、「ドレーン・チューブ」677件・同13.7%(同1.2ポイント減)などと続いています。

ヒヤリ・ハット事例のうち、医療機関での実施がなかった2521件について、「仮に実施してしまっていた場合の患者への影響度」を見ると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が95.6%(前四半期から1.3ポイント減)と、大部分を占めている状況にも変化はありません。

しかし、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも3.4%(同1.2ポイント増)、さらに「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」ケースも1.0%(同0.2ポイント減)あります。一部にとどまってはいますが、「一歩間違えば重大な影響が出ていた」事例が生じている点を重く見て、「すべての医療機関において院内のチェック体制を早急に点検しなおす」必要があります。

ヒヤリハット事例の状況(医療事故情報収集等事業 第78回報告書2 240930)



なお、その際には、Gem Medで繰り返しお伝えしているように「個人の注意だけで医療事故やヒヤリ・ハット事例を防止することはできない」点に留意しなければなりません。どれだけ注意深く業務を行っても、人は必ずミスを犯します。とりわけ、極めて多忙な業務環境にある医療従事者はミスが生じやすい状況に置かれており、こうした中では、「ペナルティの導入」などには意味がなく(効果がない)、かえって弊害のほうが大きくなると危機管理の専門家は指摘します。

「人は必ずミスを犯す」という前提に立ち、「必ず複数人でチェックする」「ミスが生じる前に、あるいは生じた場合には、すぐに気付ける仕組みを構築する」「また包み隠さず報告できるような、院内のルールを遵守し、医療安全を確保し、医療の質を向上させようという、風土を作り上げる」など、医療機関全体で対策を講じることが必要です。

もっとも「複数人でのチェック」には大きな落とし穴がある点にも留意が必要です。A・Bの2人でチェックをする際に、Aさんは「Bさんがチェックをするので『だいたい』で良かろう」と、Bさんは「Aさんがチェックをしているので『だいたい』で良かろう」と考えてしまうことが少なからずあります。この場合には「1人でのチェック」よりも甘くなってしまいます。こうした点も十分に認識したうえで、慎重に「複数チェック」を導入する必要があるでしょう(関連記事はこちらこちらこちら)。

「病棟・部署の定数配置薬」取り違え事故が散発、死亡事例も発生

報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた詳細な分析を行っています。今回は「病棟・部署の定数配置薬に関連した事例」を詳細に分析し、改善策を提示しています。

医療機関においては、不眠時や発熱時などにできるだけ速やかに薬剤を投与する必要がある場合に、医師があらかじめ「必要時指示」を出しておき、看護師は患者の状態に応じて「病棟・部署の定数配置薬」を使用することがあります。しかし、この場合「薬剤師の処方監査」や「オーダリングシステムのアラートの仕組み」が入らないため、「薬剤の指示内容が不適切であっても、そのまま投与されてしまう」可能性があります。また、看護師が「配置場所から取り揃えて準備する際に、薬剤を取り違えてしまう」可能性もあります。

2020年1月から本年(2024年)6月に報告された事例のうち、上述したような「病棟・部署の定数配置薬に関連した事例」は46件あり、うち18件(39.1%)は「病室」で発生しており、また「注射薬」が41件(89.1%)を占めています。また2例(4.3%)では患者が死亡しています。

事例のうち11例(23.9%)はアレルギー・禁忌に関連しています。まずアレルギー関連事例をいくつか眺めてみましょう。

ある病院のある患者プロファイルには「解熱鎮痛剤カロナール(一般名:アセトアミノフェン)でアレルギー」との情報が入力されていました。当該患者が発熱したため、医師の「必要時指示」を確認したところ、「発熱時アセリオ」(解熱鎮痛剤、一般名:アセトアミノフェン)と記載されており、看護師が病棟の定数配置薬から取り出して投与しました。その後、患者は全身のほてり感を訴え、バイタルサインの測定、モニタ装着を実施。経過観察したところ、症状は消失しました。

また、ある病院で眼科手術を終了した後、患者は17時頃に病室に戻りました。患者が眼痛増強を訴えたため、看護師が「疼痛時指示」により病棟の定数配置薬から鎮痛・抗炎症・解熱剤の「ロキソプロフェンNa錠60mg」(ロキソプロフェンナトリウム水和物)を与薬し、18時半に患者が内服しました。しかし、20時20分に患者からナースコールがあり、呼吸困難感を訴えていました。患者のSpO2は94-95%と大きくは低下していませんでしたが、訴えが強いため酸素投与を開始。あわせて患者から「先の薬にロキソニンの成分が入っているか?自分はロキソニンアレルギーである。以前にもロキソニンで呼吸困難感が出現し、入院時にアレルギーを伝えていた」ことを聴取しました。この点、「アレルギー登録」はなされていたものの、▼担当看護師はアレルギー情報の確認を行っていない▼「疼痛時指示」はクリニカルパスを転用し、「ロキソプロフェン」と記載されていた—ことが分かりました。

事例の背景には「アレルギー情報の確認不足」「アラート機能がない」「薬剤師の監査がない」「情報伝達の不足」などがあり、機構では再発防止に向けて次のような提言を行っています。

【指示を出す時の確認】(▼医師は、指示を出す時にアレルギー情報を確認する▼医師は、クリニカルパスの指示にアレルギーのある薬剤がないか確認する—)

【薬剤使用「前」の確認】(▼看護師は、薬剤使用の「前」にアレルギー情報を確認する▼患者に初めての薬剤を使用する際はアレルギー情報を確認する—)

【薬剤師との連携】(薬剤師は「アレルギーのある薬剤の指示が出ている」ことに気付いた場合、担当看護師や医師に「直接連絡」し、その後、薬剤が変更されたかどうか確認する)

【情報共有】(▼アレルギー登録欄に記載しきれない情報は、掲示板の指定の欄に医師と協議の上で注意喚起の記載する▼手術の際、タイムアウトでアレルギー情報を共有する—)

【システムの変更】(▼指示受けの際の電子カルテ画面にアレルギー情報が表示されるようにシステムを修正する▼手術部門システムと電子カルテのオーダリングシステムのデータを共有化する—)



次に、禁忌に関連する事例を眺めてみましょう。

「真菌性眼内炎で入院中の患者」が入眠困難であり、定期的に入眠剤の「ゾルピデム錠」(一般名:ゾルピデム酒石酸塩)が処方されていました。患者に、本剤に由来すると思われる幻覚などの症状が見られたため、看護師は患者と相談し、電子カルテの「必要時指示」に「不眠時の選択肢の1つ」として記載があった不眠症治療薬の「ベルソムラ錠」(一般名:スボレキサント)を試してみることにし、定数配置薬を使用して患者に「ベルソムラ錠20mg」1錠を渡しました。看護師が電子カルテで定数配置薬使用実施を入力したところ、主病治療に用いられていた「ブイフェンド200mg静注用」との間に【併用禁忌】のアラートが出たことから、初めて「主病の治療に用いている薬」と、「今さっき患者に渡した不眠症治療薬」とが【併用禁忌】であることに気付きました。慌てて回収しようとしたものの、既に患者は服用していました。

パーキンソン病の既往があり、自院の神経内科に通院中の80歳代女性患者が「吐血」し、緊急入院しました。患者は夜間にせん妄を呈しており、看護師の暴力をふるう行動があったため、病棟リーダー看護師が「不穏時指示」を確認し、医師に抗精神病剤の「セレネース注」(一般名:ハロペリドール)の注射オーダを依頼しました。看護師Aが点滴の準備を始め、看護師Bは患者対応をしていました。その後、病棟リーダー看護師から看護師Aに「患者はパーキンソン病の既往があり、セレネースが禁忌であるため、医師に確認するまで保留にする」よう指示がありました。しかし、看護師Bはそれを知らず、患者の身体を抑制して安全確保をしたうえで、セレネース注を投与しました。セレネース注投与に気付いた病棟リーダー看護師がすぐに点滴を中止したものの、すでに全量の2/3程度が投与されていました。

事例の背景には、「知識不足」「周知・注意喚起の不足」「わかりにくい指示」「アラート機能がない」「ルールの不遵守」などがあり、機構では再発防止に向けて次のような提言を行っています。

【指示の出し方の見直し】(発熱・疼痛時の指示は、患者ごとに「喘息あり」「喘息なし」のいずれかにする)

【薬剤使用時の確認】(定数配置薬を使用する場合は看護師2名で指示と薬剤を照合する)

【注意喚起の表示】(▼病棟の定数配置薬の保管場所に禁忌事項を記載する▼定数配置薬のベルソムラ錠20mgはチャック付ポリ袋に入れ、併用禁忌薬のリストを示したシールを貼って保管する▼抗ヒスタミン剤の「ヒベルナ注」は2歳未満の患者に禁忌であることを注意喚起する札を作成し、病棟と小児科外来に配置する—)

【マニュアルの改訂】(小児科の鎮静マニュアルに禁忌の年齢を追記し、他の鎮静薬についても禁忌の項目を追記して配布する)

【システムの変更】(処方オーダリングシステムでヒベルナ注を処方する際に、「2歳未満には禁忌である」旨のアラートが出るように変更する)

【周知・教育】(▼セレネースの禁忌について医療安全情報で周知する▼NSAIDsによるアスピリン喘息の危険性について周知する▼小児科と看護部(小児科病棟・外来)で事例を共有する—)



こうした事例や提言も参考に、「自院の状況したマッチした対策」を検討・実施・全スタッフへ周知することが重要です。



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2017年10-12月、医療事故での患者死亡は71件、療養上の世話で事故多し―医療機能評価機構
誤った人工関節を用いた手術事例が発生、チームでの相互確認を―医療機能評価機構
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手術室などの器械台に置かれた消毒剤を、麻酔剤などと誤認して使用する事例に留意―医療機能評価機構
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15年4-6月の医療事故は771件、うち9.1%で患者が死亡―医療機能評価機構
14年10-12月の医療事故は755件、うち8.6%で患者死亡―医療事故情報収集等事業