2023年7-12月、ドレーン・チューブに関連する重大医療事故が25件発生、ヒューマンエラーに関連する事故も―PMDA
2024.10.28.(月)
昨年(2023年)7-12月にはドレーン・チューブに関連する医療事故が241件報告され、うち25件では患者が死亡、または障害残存可能性が高い重大なものであった—。
当該期間では「その他のドレーン・チューブ類」に関する事故・重大事故が多く発生しており、ヒューマンエラーに関連するものもある—。
こういった状況が、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が10月28日に公表した2024年度の第1回「医療機器安全使用対策検討会結果報告」から明らかになりました(機構のサイトはこちら(報告概要)とこちら(事例の詳細1:メーカー等で対策がとられているもの等)とこちら(事例の詳細2:ヒューマンエラー事例)とこちら(事例の詳細3:事例集積が必要なもの))。
医療機器に関連する医療事故をピックアップし、背景を詳しく分析して改善策を提案
日本医療機能評価機は、全国の医療機関から医療事故やヒヤリ・ハット事例(事故には至らなかったものの担当医療スタッフ等が「ヒヤリ」とした、「ハッ」とした事例)の報告を受け、背景等を詳しく分析して「事故等の再発防止に向けた提言」等を定期的に行っています【医療事故情報収集等事業】(国立病院や特定機能病院などでは事故等の報告が義務付けられている)(2024年4-6)を対象にした第78回報告書に関する記事はこちら、毎月の医療安全情報に関する記事はこちら)。
今般、PMDAでは、医療事故情報収集等事業の第75回報告書(2023年7-9月の報告事故を分析)・第76回報告書(2023年10-12月の報告事故を分析)の記述情報や公開データから抽出した「医療機器に関連する医療事故・ヒヤリハット事例」を対象に安全対策に関する専門的な検討を行い、その結果を公表しました。
最も多い「ドレーン・チューブに関連する医療事故」は、2023年7-12月に報告されたは241件で、前半年(2023年1-6月:242件)からほぼ横ばいです。
事故の内訳を見ると次のような機器に関連するものが多くなっています。
▼その他のドレーン・チューブ類:55件・22.8%(前半年に比べて4.2ポイント増加)
▼中心静脈ライン:34件・14.1%(同4.6ポイント増加)
▼気管チューブ:33件・13.7%(同6.5ポイント減少)
▼気管カニューレ:32件・13.3%(同3.2ポイント減少)
▼尿道カテーテル:23件・9.5%(同0.4ポイント増加)
また、事故の結果「患者が死亡したもの」「患者に障害残存の可能性が高いもの」(重大事故)は、上記のうち25件(機器関連事故全体の10.4%)あり、前半年(242件中20件:8.3%)よりも2.1ポイント増加しています。
その内訳を見ると、次のような機器に関連するものが多くなっています。
▼その他のドレーン・チューブ類:9件・36.0%(前半年に比べて31.0ポイント増加)
▼気管カニューレ:5件・20.0%(同15.0ポイント減少)
▼中心静脈ライン:3件・12.0%(同8.0ポイント増加)
最も重大事故の多い「その他のドレーン・チューブ類」の内訳を見ると、患者が亡くなった事例では▼イレウス管▼透析用カテーテル▼送血管▼リザーバーマスク▼脱血カニューレ▼ブラッドアクセスカテーテル—、障害残存の可能性が高い事例では▼尿管ステント▼PICC カーテル▼送血管—となっています(各1件ずつ発生)。
「ヒューマンエラーによってドレーン・チューブ類に関する事故が生じ、結果、患者が亡くなってしまった」事例からいくつかをピックアップし、少し詳しく見てみると、次のような状況と、今後の改善策が示されています(機構サイトはこちら(事例の詳細2:ヒューマンエラー事例))。
(事例概要)
→朝にPCPSの導入を決定。高度の酸素化不良であったため血管造影室での移動は不可能と判断し、ベッドサイドでレントゲン連続撮影下に行うことになった。右鼠径部より静脈ラインを確保し、ガイドワイヤーを進め、上大静脈までガイドワイヤーが進んでいることを確認。動脈は、前日に挿入していたシースからガイドワイヤーを挿入し、レントゲンで下行大動脈のオープンステントグラフト内にガイドワイヤーがあることを確認した
→ガイドワイヤーに沿ってダイレーターを2段階に分けて使用し、脱血カニューレを挿入したが抵抗はなかた。脱血管を空気抜きしながら接続し、側管から静脈血が用手的に引けることを確認し、ヘパリン生食で回路内をクランプ
→この時点で「血圧が低下」したため、胸骨圧迫を開始。同時に送血用のガイドワイヤーに沿ってダイレーターを2段階使用して送血カニューレを挿入したが、抵抗はなし。空気抜きしながら送血管を接続しPCPSを開始したところ脱血不良。ボリュームを入れても改善しなかったため、カニューレ内血栓を疑い静脈カニューレを入れ替えることとした
→抜去したカニューレ側に少量の血栓を認めたため、抜去部を用手的に圧迫しながら、新たな脱血カニューレをガイドワイヤー越しに挿入。胸骨圧迫中でありバウンディング下にカニュレーションとなり、ひどく抵抗があったわけではなく、新たな脱血管を挿入した。しかし脱血できず、30分以上心肺蘇生を継続していたが、脳へのダメージが不可逆であることを家族に説明し死亡となった
→脱血不良の原因検索のためAiを行ったところ「脱血管が大腿部から後腹膜を通過し、肺野まで迷入していた」ことが分かった
(事故の背景)
→1本目の挿入中に心停止・胸骨圧迫の開始がされており、十分な静脈内血液が不足し太めの脱血管での脱血不良が起きたと考えられる
→2本目の脱血カニューレを挿入する際、ガイドワイヤー越しに脱血カニューレを挿入しているが、胸骨圧迫中であったこともあり、このカニュレーション時に「ガイドワイヤーに沿わせた脱血カニューレが迷入した」と考えられる
(改善策)
▽カニュレーション中に心停止となってしまったことも大きな要因で、より早い時期にPCPS導入を検討していれば安全に導入できていた可能性が残る
▽レント ゲン連続撮影下では安全性が不十分である可能性もあり、経食道心エコーガイ ド下や透視室での導入も検討される(ただし、今回の状況では移動困難で難しかった)
▽当該診療科のみでなく「救急科等への相談、協力要請」を行っていくことが重要
(事例の概要)
→大動脈弁置換術施行し、術後に急性心筋梗塞が発症し心停止となった。人工呼吸器装着、PCPSを導入し、同日にPCI施行した
→発症2日後にPCPS離脱し、経過観察していたが、感染、心不全により徐々に状態悪化を認めた
→左下肢に挿入中のバスキャスカテーテルが感染源と考えて、発症4日後に左内頸静脈への入替えを行ったところ、挿入後の胸部X-Pで左気胸を確認。気胸に対してはトロッカーを挿入し経過観察となった
(事例の背景)
→カテーテル感染を疑ったためカテーテルの入替えを行った際に気胸が発生
→気胸に対しトロッカーを挿入したが、緊張性気胸の状態となっており、血圧低下もあり早急に入替を行う必要があった
(改善策)
▽術後、カテーテル感染コントロールを計画的に行う
▽緊急処置においては、外科と内科が協力し安全に実施できる場所を考慮する
「ドレーン・チューブ類『以外』の機器に関連事故」「障害残存の可能性が高い事故」についても、同様に詳細な分析を行ったうえで改善策が提示されており、医療現場で十分に参考にすることが期待されます。
【更新履歴】本調査について日本医療機能評価機構が実施した旨でお伝えしていましたが、PMDAの誤りです。まことに申し訳ありませんでした。お詫びして訂正いたします。
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