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診療科内でのフォロー体制構築・システム上での対応などにより「画像診断の重要所見の見落とし」を避けよ―医療機能評価機構

2024.12.30.(月)

今年(2024年)7-9月に報告された医療事故は1357件、ヒヤリ・ハット事例は9111件であった。医療事故のうち8.3%では患者が死亡しており、11.0%では死亡にこそ至らないまでも「障害残存」の可能性が高い—。

こういった状況が、日本医療機能評価機構が12月26日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第79回報告書(本年(2024年)7-9月が対象)から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(前四半期(2024年4-6月)を対象にした第78回報告書に関する記事はこちら)。

また報告書では「画像診断報告書は『既読』であったが、読影結果に対する治療開始が遅れた医療事故事例」を詳細に分析し、改善策を提示しています。各医療機関で「診療科内でのフォロー体制を構築する」こと、システム上で「重要所見が主治医に通知されるような仕組み」を設けることなどを提言しています。機構提言を踏まえ、各医療機関で「自院にマッチした再発防止策」を構築・周知する必要があります。

重大な医療事故(障害残存事例など)が少数ながら発生しており、引き続きの注意を

日本医療機能評価機は、全国の医療機関から医療事故やヒヤリ・ハット事例(事故には至らなかったものの担当医療スタッフ等が「ヒヤリ」とした、「ハッ」とした事例)の報告を受け、背景等を詳しく分析して「事故等の再発防止に向けた提言」等を定期的に行っています【医療事故情報収集等事業】(国立病院や特定機能病院などでは事故等の報告が義務付けられている)。

今年(2024年)7-9月に報告された医療事故は1357件でした。

事故の程度別に見ると、▼死亡:112件・事故事例の8.3%(前四半期に比べて0.7ポイント増)▼障害残存の可能性が高い:149件・同11.0%(同2.0ポイント減)▼障害残存の可能性が低い:417件・同30.7%(同0.5ポイント増)▼障害残存の可能性なし:330件・同24.3%(同4.5ポイント増)―などとなりました。前四半期に比べて少し状況が変化していますが、中長期的に眺めていく必要があります。

医療事故の概要を見ると、最も多いのは「治療・処置」の432件・31.8%(前四半期に比べて0.8ポイント減)。次いで、「療養上の世話」の406件・29.9%(同1.2ポイント減)、「薬剤」99件・同7.3%(同0.3ポイント増)、「ドレーン・チューブ」87件・同6.4%(同0.1ポイント増)、「検査」87件・同6.4%(同0.8ポイント増)などと続きます。多くの医療行為で「事故」が生じており、確認手順などを常に検証・改善することが重要です。

医療事故の状況(医療事故情報収集等事業 第79回報告書1 241226)

ヒヤリ・ハット事例は、依然として「様々な場面で発生」しており、最大限の留意を

ヒヤリ・ハット事例に目を移すと、今年(2024年)7-9月の報告件数は9111件。内訳を見ると、依然として「薬剤」関連の事例が最も多く3220件・ヒヤリ・ハット事例全体の35.3%(前四半期と比べて0.9ポイント増)を占めています。次いで「療養上の世話」1707件・同18.7%(同6.8ポイント増)、「ドレーン・チューブ」1223件・同13.4%(同0.3ポイント減)などと続いています。

ヒヤリ・ハット事例のうち、医療機関での実施がなかった5369件について、「仮に実施してしまっていた場合の患者への影響度」を見ると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が96.7%(前四半期から1.1ポイント増)と、大部分を占めている状況にも変化はありません。

しかし、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも2.7%(同0.7ポイント減)、さらに「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」ケースも0.6%(同0.4ポイント減)あります。一部にとどまってはいますが、「一歩間違えば重大な影響が出ていた」事例が生じている点を重く見て、「すべての医療機関において院内のチェック体制を早急に点検しなおす」必要があります。

ヒヤリハット事例の状況(医療事故情報収集等事業 第79回報告書2 241226)



なお、その際には、Gem Medで繰り返しお伝えしているように「個人の注意だけで医療事故やヒヤリ・ハット事例を防止することはできない」点に留意しなければなりません。どれだけ注意深く業務を行っても、人は必ずミスを犯します。とりわけ、極めて多忙な業務環境にある医療従事者はミスが生じやすい状況に置かれており、こうした中では、「ペナルティの導入」などには意味がなく(効果がない)、かえって弊害のほうが大きくなると危機管理の専門家は指摘します。

「人は必ずミスを犯す」という前提に立ち、「必ず複数人でチェックする」「ミスが生じる前に、あるいは生じた場合には、すぐに気付ける仕組みを構築する」「また包み隠さず報告できるような、院内のルールを遵守し、医療安全を確保し、医療の質を向上させようという、風土を作り上げる」など、医療機関全体で対策を講じることが必要です。

もっとも「複数人でのチェック」には大きな落とし穴がある点にも留意が必要です。A・Bの2人でチェックをする際に、Aさんは「Bさんがチェックをするので『だいたい』で良かろう」と、Bさんは「Aさんがチェックをしているので『だいたい』で良かろう」と考えてしまうことが少なからずあります。この場合には「1人でのチェック」よりも甘くなってしまいます。こうした点も十分に認識したうえで、慎重に「複数チェック」を導入する必要があるでしょう(関連記事はこちらこちらこちら)。

「診療科内でのフォロー体制」構築し、画像診断報告書の重要所見見直しを防止せよ

報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた詳細な分析を行っています。今回は▼病棟・部署の定数配置薬に関連した事例▼画像診断報告書は「既読」であったが、読影結果に対する治療開始が遅れた事例—を詳細に分析し、改善策を提示しています。

今回は、後者の「画像診断報告書は『既読』であったが、読影結果に対する治療開始が遅れた事例」に注目してみましょう。

こうした医療事故は2020年1月から本年(2024年)9月までに9件発生しており、うち3件は救急科から画像診断がオーダされています。事例をいくつか見てみましょう。

▽9か月前に患者は慢性便秘症を背景とした下腹部痛で救急外来を受診し、内科当直の初期研修医と上級医が単純CT検査等を実施。その際、CT画像で「腸閉塞所見がない」ことが確認されました。その後、患者が倦怠感を主訴に同院の総合診療科を受診した際「S状結腸の狭窄」が疑われて緊急入院。精査の結果、▼S状結腸がん▼多発肝転移▼多発肺転移▼リンパ節転移—と診断されました。9か月前の単純CT検査の画像診断報告書を見返すと、明らかな腸管狭窄の指摘はなかったものの、「肝腫瘤」が指摘され、血管腫などの充実性腫瘤の可能性が指摘されていました。同院にはCT検査の画像診断報告書確認システムがありましたが、「オーダした医師のみに通知される」仕組みとなっており、研修医が画像診断報告書を「既読」とすると、上級医などへは通知がなされませんでした
→機構では、▼初期研修医から上級医に連絡すべきであった▼現在の画像診断報告書確認システムでは、対応が困難な事例であった—と指摘しています

▽4か月前に、患者がは他院からの紹介で救急外来を受診。CT検査で総胆管結石性胆管炎と診断され、消化器内科で入院加療しました。今月、4か月前に紹介のあった医療機関から胸部単純CT検査の読影の依頼があり、放射線科医師が読影したところ「肺がんが疑われる腫瘤の増大と転移がある」ことがわかりました。4か月前に救急科医師がオーダしたCT検査の画像診断報告書にも「肺がん疑い」と指摘されていましたが、精査されていないことに 気付きました。画像診断報告書の確認状況は、電子カルテのCT画像診断報告書閲覧履歴で▼「未」:未開封▼「参照のみ」:参照済▼「承認済」:確認済—の3種類となっていますが、「画像診断報告書に記載された対応が必要な所見について、対応済かどうか」をシステムで確認する仕組みはありませんでした
→機構では、▼画像診断報告書の確認者は、患者・主治医へ確実に内容を伝達する▼救急外来から各診療科に入院した患者については、「主科の主治医が責任者として画像診断報告書を確認」して閲覧履歴を残し、対応する▼救急外来の受診終了時に救急科医師は、「画像診断報告書の結果は後日説明する」「患者自身に検査結果を知る権利がある」ことを伝え、次回受診時などに患者から検査結果を聞いてもらう仕組みを検討する—などと指摘しています



事例分析を詳細に行い、機構では▼緊急時に画像検査を行う場合、画像を見て目的の所見だけに注目してしまい、後から作成される画像診断報告書の確認が疎かになる場合があることなどから、まずは「診療科内でのフォロー体制を構築する」ことが重要である▼放射線部門や医療安全管理部門の連携による画像検査の重要所見への対応漏れを防ぐ取り組みは重要だが、マンパワーなどを考えると限界もあり、画像診断報告書の未読・既読を管理するシステムに「重要所見に対して検査・治療後に『対応済』のチェックができる機能」「『対応済』になっていない重要所見が主治医に通知されるような仕組み」など、ヒトの力に頼らない機能が追加されることを期待したい—とコメントしています。

システムの機能開発・導入には相当の時間がかかってしまうため、まずは「診療科内でのフォロー体制を構築する」ことによって、上記のような事例の発生を防止することが現実的でしょう。

こうした事例や提言も参考に、「自院の状況したマッチした対策」を検討・実施・全スタッフへ周知することが重要です。



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