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感染症への医療提供体制確保のため、都道府県等が病床確保を医療機関に「強く要請」するケースも―厚労省

2021.2.12.（金）

Gem Medでお伝えしているとおり、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」等の改正が行われ、▼「新型インフルエンザ等感染症」に「新型コロナウイルス感染症」と「再興型コロナウイルス感染症」を追加する▼宿泊・自宅療養を法的に位置づける▼入院勧告・措置の取り扱いを見直す▼積極的疫学調査等の実効性を確保するための規定を設ける▼国・自治体の権限を強化する―こととなりました。改正法は2月13日から施行されます（関連記事はこちら）。

施行に合わせて厚生労働省は2月10日に、事務連絡「『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の改正について（新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律関係）』に関するQ＆Aについて」を示しています（厚労省のサイトはこちら）。

気になるところを眺めてみましょう。

1 宿泊・自宅療養を法的に位置づけ、従わない場合には「入院勧告」等も
2 入院勧告や積極的疫学調査に正当理由なく応じない感染者等にはペナルティも
3 十分な人材・設備があるにもかかわらず、感染症病床確保要請に応じない病院等にはペナルティ

宿泊・自宅療養を法的に位置づけ、従わない場合には「入院勧告」等も

まず「宿泊・自宅療養」についてです。現在「すべて入院療養を求めている」ところ、感染症病床や急性期病床が限られる中で、限界のある医療資源を重症者等に重点化・集約化するために「宿泊療養・自宅療養」を感染症法に明確に位置付けるものです。

厚労省は、宿泊療養・自宅療養の質の確保が求められていることから、法改正に伴って「宿泊・自宅療養の運用に係る留意事項等について、近く関係マニュアル等の改定を行う」考えを明らかにしています。

費用負担については「現行の取り扱いのまま」であり、自治体の判断で「柔軟な取り扱い」が行えることを明示しています。

また、宿泊・自宅療養を行う際、都道府県知事等には「必要に応じて、食事の提供、日用品の支給その他日常生活を営むために必要なサービスの提供、また物品の支給など」を行う努力義務が課されます。この具体的なサービス等については、個別事例で異なる（利用者の状態などで異なる）ことを確認したうえで、例えば「福祉支援、医療等が必要な者への、必要な環境・体制整備」などが例示されました。詳細は、改定マニュアルで近く示されることになるでしょう。

なお、後述するように、宿泊・自宅療養の要請に応じない者には一定のペナルティが課されます。ただし、宿泊・自宅療養の要請の際には、「感染拡大防止のために、無症状や軽症であっても、一定の期間、外出を自粛してもらうことが重要である」旨を丁寧に説明し、理解・協力を得ることが第一であり、それにもかかわらず協力が得られない際にペナルティ措置が用意されていることになります。宿泊・自宅療養は「日常生活を強く制限する」もので、対象者には「大きなストレス」となる点にも留意が必要です。

入院勧告や積極的疫学調査に正当理由なく応じない感染者等にはペナルティも

また改正法では、「入院勧告等や積極的疫学調査に正当な理由なく従わない者に一定のペナルティを課す」こととし、その一環として▼宿泊療養・自宅療養の協力の求めに応じない者は入院勧告・措置の対象とし、この場合は入院費用の自己負担分を徴収可能とする▼入院先から逃げた場合、また正当な理由がなく入院措置に応じない場合は「50万円以下の過料」に処す―こととしています。これらのペナルティは。「感染拡大の防止」「感染源推定」などが極めて重要であるために設けられており、まず対象者に十分かつ丁寧に説明を行ったうえで、それでも協力が得られない場合に発動されるものです。厚労省は「入院の勧告・措置では、入院が困難である理由に対する相談・支援を十分に尽くし、慎重に対応する」よう自治体に求めています。また対象者には「弁明の機会」が付与されなければならない点にも留意が必要です。

入院勧告・措置や積極的疫学調査の流れ（改正感染症法等QA 210210）

前者（入院勧告等）については、次のような考え方が示されました。

▽入院勧告を行うかどうかは都道府県知事等が判断するものであり、宿泊・自宅療養の期間中に少しでも要請に従わなかったら「すべからく入院勧告・措置を行わなければならない」訳ではない。地域の実情に応じて対応してほしい

▽宿泊・自宅療養の協力要請に応じなければ直ちに入院医療費の全額自己負担を求めなければならないものではない。「宿泊・自宅療養に応じた場合の費用負担」との衡平などを勘案し、自治体で適当と認める場合に、適当な額の負担を求めることとしてよい

▽「正当な理由」について一概に確定することはできないが、例えば、新型コロナウイルス感染症に関する場合、「入院措置の対象となっても、患者本人やその家族に必要な介護や保育等の福祉サービスを確保できないために、当該措置で指定された医療機関に入院できない」場合などは、「正当な理由」に該当し得る

▽「病室にバス・トイレがない」「入院中にタバコが吸えない」「Wi-Fiが使えない」などは正当な理由に該当しない

▽「仕事がある」ことだけをもって正当な理由には該当しない

▽過料の納付があったとしても、強制的な入院措置をとることが可能（過料を支払えれば入院しなくてよい、というわけではない）

また、後者（積極的疫学調査）に関しては、次のような点が示されています。

▽積極的疫学調査には、「患者」「疑似症患者」「無症状病原体保有者」「感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」が対象となり、「感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由がある」とは、新型コロナウイルス感染症では、▼濃厚接触者▼地域や集団、組織等において検査前確率が高いと考えられ、かつ、クラスター連鎖が生じやすいと考えられる状況にあると保健所長が認める場合における、当該地域や集団、組織等に属する者▼接触確認アプリCOCOAで通知を受けた者―が該当する

▽「接触者の名前」、「連絡先」、「訪れた場所」などは、基本的に回答してもらう

▽自治体が積極的疫学調査により取得した情報は、マスメディアを含め一般や他者にむやみに公表されるものではない。個人情報について、十分な保護が図られる旨を特に丁寧に説明する必要がある

▽十分な説明を行ってもなお、「全く回答しない」「回答内容が矛盾し、適切な説明を行わない」場合などには、「正当な理由がなく協力しない場合」として、「調査に応じすべき旨の命令」を行うことが可能となる

▽回答が明確に得られない理由が「正当な理由」に該当するかは、私権の保護と公共の利益への影響のバランスについて慎重に判断してほしい（何が「正当な理由」に該当するかは一概に確定できない）

▽「特定の場所を訪れた理由」「接触した人との人間関係」「接触した人との会話の内容」などは回答拒否したとしても罰則の対象にはならない

十分な人材・設備があるにもかかわらず、感染症病床確保要請に応じない病院等にはペナルティ

また、改正法では「医療関係者や民間等の検査機関に対して、感染症のまん延防止等のために必要な協力要請ができ、正当な理由がなく当該要請に応じなかったときには勧告や公表が行える」こととしています。

医療機関に対しては、「感染患者を受け入れる病床確保」の要請を行い、正当な理由なく協力しない場合には「当該医療機関名が公表される」というイメージです。感染患者等への医療提供体制を確保することが狙いであり、厚労省は「医療提供体制の整備に当たり、要請を行う前に、地域の医療機関等の関係者間での話し合いに基づく調整を行うことが重要である」点を確認しています。この場合には、感染症医療だけでなく、▼救命救急医療▼他の一般診療―への影響など、地域の医療提供体制全体の状況を十分に勘案することが重要です。

この点、感染症が蔓延してからの調整は極めて困難であり、平時から「感染症患者、感染疑い患者を受け入れる医療機関」「その他の救急患者を受け入れる医療機関」などの機能分化を地域ごとに定めておく必要があります。地域の医療提供体制の在り方を定める「医療計画」（都道府県）の中に、新興感染症対策を新たに盛り込むこととなっており（2024年度から）、「どういった事項を医療計画に記載するか」を今後、厚労省の検討会（医療計画の見直し等に関する検討会など）で議論していくことになります（関連記事はこちらとこちら）。

感染症が「計画時の想定を超えて蔓延する」場合などには、計画外の医療機関にも感染症患者の受け入れを求めなければならないケースが出てきます。この要請を行う際には、対象となる医療関係者などに「協力要請の趣旨等について丁寧に説明し、理解を得ながら要請に応じてもらう」ことが重要な点を厚労省は確認しています。

ただし、要請を受けられないケースもあるでしょう。厚労省は、要請を断ることができる「正当な理由」を次のように例示しています。

▽医療機関において医師・看護師や必要な設備・物資が不足し、かつ、都道府県側でも必要な人材派遣や迅速な施設整備・物資の供給を行うことができず、当該医療機関で患者を受け入れても必要な医療を提供することが困難な場合

▽当該医療機関において、協力要請に応じるためには「新型コロナウイルス感染症の回復患者やそれ以外の患者の転院」が必要となるが、転院先が確保できない場合

▽当該医療機関において、協力要請に応じると、地域における救命救急医療や他の一般診療の提供に支障が生じ得る場合

▽研究機関において、協力要請に応じることにより、緊急性を要する研究の実施等に支障が生じるおそれがある場合

▽新型コロナウイルス感染症に関する自費検査提供機関が、都道府県等が定める自費検査の適正実施のための措置を講ずるために一定の準備期間を要し、当該準備期間が合理的であると判断される場合

こうした「正当な理由」がなく、要請に応えない医療機関には「医療機関名の公表」などのペナルティが課されますが、機械的に適用されるものではなく、▼当該協力要請に応じないことによる患者の生命・健康等への影響▼当該協力要請に代えて実施し得る他の手段の有無―などを総合的に考慮して判断する必要があります。

例えば、要請を受けている一部の医療機関において、「新たな病床確保に係る医師等の医療従事者の確保や必要な設備等の整備が十分になされている」にも関わらず、当該要請に応じず、それがために地域全体として必要な病床を確保できないなど、患者の生命・健康等に影響が及ぶと考えられる場合には、「当該要請に応じるよう勧告」し、さらに「当該勧告に意図的に応じない場合には、その事実を公表する」ことなどが考えられと、厚労省は解説しています。