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急性期病院、DPC病院の患者単価上昇続く、コロナ感染症の落ち着きとともに医療現場の診療行為も平時に近づく―2023年社会医療統計

2024.6.27.（木）

2023年6月審査分の医科レセプトを集計・分析すると、2020・21・22年に比べて「病院に患者が相当程度戻ってきている」「予定手術等も平時に戻りつつある」状況が伺える―。

またコロナ感染症による「病院の入院患者における重症患者の比率高まり」「診療報酬臨時特例」によって「患者単価が上昇している」ことも再確認できる―。

このような状況が、6月26日に厚生労働省が発表した2023年の「社会医療診療行為別統計」の結果から明らかになりました（厚労省のサイトはこちら（概況）とこちら（統計表、e－Statサイト））（前年（2022年）の状況はこちら、2021年の状況はこちら、2020年の状況はこちら、2019年の状況はこちら、2018年の状況はこちら）。

1 入院に占める麻酔・手術の増加が依然目立つ、急性期入院医療が徐々に回復しつつある
2 入院外、「注射」の増加が目立つ、「検査」はコロナ感染症の落ち着きにより減少
3 特定機能病院をはじめとする急性期病院で「患者単価増」が大きい
4 DPC病院、手術の割合が高く、急性期度が高いことを再確認
5 75歳以上後期高齢者では「1件当たりの日数」が長いことが、依然、医療費高騰の主因

入院に占める麻酔・手術の増加が依然目立つ、急性期入院医療が徐々に回復しつつある

社会医療診療行為別統計（社会医療統計）は、毎年6月審査分のレセプトから「医療行為」や「傷病」の状況を調べるものです。厚労省のナショナルデータベース（NDB）に蓄積されている全てのレセプトを集計対象にしています（2014年以前は抽出調査の「社会医療診療行為別調査」であった）。

まず、医科の入院について見てみると、2023年6月審査分（以下、単に「2023年」とする）における1件当たりの請求点数（1入院当たり単価）は6万230.4点で、前年に比べ926.0点、1.6％の増加となりました（増加率は2021年→22年に比べて0.2ポイント減）。

診療行為別に点数のシェア見ると、【入院料等】が最も多く35.5％を占めています（2万1396.9点、シェアは前年に比べて0.5ポイント減）。次いで、▼【DPC】：29.7％（1万7901.4点、同0.1ポイント減）▼【手術】：18.6％（1万1185.7点、同0.4ポイント増）▼【リハビリテーション】：5.6％（3395.3点、同増減なし）▼【麻酔】：2.3％（1365.4点、同0.1ポイント増）▼【注射】：1.9％（1169.8点、同0.3ポイント増）―などが大きなシェアを占めています。

2020年初頭から新型コロナウイルス感染症が蔓延し、「予定入院・予定手術の延期」（新型コロナウイルス感染症の重症患者に医療資源を重点化・集約化するために、「待てる手術は延期する」ことが行われた）などが生じました。この点、2021年・22年・23年と「手術・麻酔」の点数シェアが伸びてきており、多くの医療機関で予定手術などの状況が平時に戻りつつある状況を確認できます。なお、2023年度には診療報酬改定が行われていないため、「改定の影響」は生じていないと考えられます。

次に、入院の1日当たり請求点数（患者1日単価）を見ると、2023年は4027.5点で、前年に比べ175.9点・4.6％の増加となりました。2020年→21年にかけて増加率が落ち込み（3.8ポイント減）、翌2021年→22年にかけて、その反動で増加しました（3.8ポイント増）。2022年→23年は「コロナ禍で、軽症患者の入院を避け、重症患者のシェアが高まっている」ことや、診療報酬臨時特例等による影響で患者単価増が生じていると考えられます。

診療行為別に点数のシェアを見ると、▼【入院料等】：35.5％（1430.8点、シェアは前年に比べて0.5ポイント減）▼【DPC】：29.7％（1197.0点、同0.1ポイント減）▼【手術】：18.6％（748.0点、同0.4ポイント増）▼【リハビリテーション】：5.6％（227.0点、同増減なし）▼【麻酔】：2.3％（91.3点、同0.1ポイント増）▼【注射】：1.9％（78.2点、同0.4ポイント増）―などが大きなシェアを占めています。上述した「1件あたり医療費」と同様の傾向です。

1日当たり医療費に関して「前年からの増減」を診療行為別に見ると、増加が目立つのは、【注射】（前年から23.4％増）、【精神科専門療法】（同8.0％増）、【手術】（同6.9％増）、【麻酔】（同6.5％増）などです。一方、【検査】（同9.1％減）、【初再診】（同7.6％減）では前年からの減少が目立ちます。コロナ感染症が落ち着いたところなどが影響していそうです。

また1件当たりの入院日数は14.95日で、前年に比べて0.44日短縮しています。

入院1日当たり点数の構成（2023年社会医療統計1　240627）

入院の1件当たり・1日当たり点数と1件当たり日数（2023年社会医療統計2　240627）

入院日数が不適切に延伸する場合、▼「院内感染」や「ADL低下」などのリスクが高まってしまう▼患者のQOLが低下してしまう（例えば職場への早期復帰を果たし、生活の安定を取り戻す）―など「医療の質」を低下させます。この点（とりわけ長期入院による院内感染リスクの高まり）がコロナ感染症を契機に強く再認識されていることは述べるまでもありません。

また入院日数の長期化は、▼急性期一般病棟（旧7対1・10対1一般病棟）等における「重症患者割合」（重症度、医療・看護必要度の基準を満たす患者の割合）が低下してしまう▼DPC特定病院群（旧II群）要件の1つである「診療密度」が低下してしまう—といった「経営の質」も低下させてしまいます。

「在院日数短縮化」に向けてすべての医療機関が取り組む必要があります（関連記事はこちら）。

入院外、「注射」の増加が目立つ、「検査」はコロナ感染症の落ち着きにより減少

次に医科入院外を見てみましょう。2023年における1件当たり点数（一連の治療にかかる点数）は1480.9点点で、前年に比べて0.6点・0.0％の微減となりました。コロナ感染症の流行で外来患者が大幅に減少（2020年）しましたが、その後、コロナ感染症対策の充実などにより外来患者が回復（2020年→2021・22年）。その状況は続いているものと伺えます。

診療行為別に点数のシェアを見ると、【検査】：18.4％（273.1点、シェアは前年から0.9ポイント減）、【注射】：13.3％（196.9点、同0.9％増）、【初・再診】：13.0％（192.7点、同0.7ポイント減）、【投薬】：12.1％（179.9点、同0.2ポイント減）、【医学管理等】：9.7％（144.3点、同0.4ポイント増）などが大きくなっています。入院のような「圧倒的に大きなシェアを占める診療行為」がない点は、例年と同様です。

入院と同様に「注射」のシェアが大きくなっているほか、コロナ感染症の落ち着きと思われますが、検査・初再診のシェアが縮小している点などが目を引きます。

また入院外の1日当たり点数（1回当たり単価）を見ると、2023年は1007.1点で、前年に比べて3.4点・0.3％の減少となりました。

診療行為別に前年からの点数増減を見ると、【注射】7.0％増、【手術】5.9％増、【医学管理等】3.9％増などで増加する一方、【初再診】5.1％減、【検査】4.8％減などが減少しています。コロナ感染症が落ち着いてきていたことが再確認できます。

また1件当たり日数は1.47日で、前年から変わっていません。

入院外1日当たり点数の構成（2023年社会医療統計3　240627）

入院外の1件当たり・1日当たり点数と1件当たり日数（2023年社会医療統計4　240627）

特定機能病院をはじめとする急性期病院で「患者単価増」が大きい

次に病院の入院点数（医科）を見てみましょう。

2023年における病院全体の入院1件当たり点数は6万1934.4点（前年に比べ1.4％増）、入院1日当たり点数（患者単価）は4059.1点（同4.5％増）となりました。単価増の背景には「重症患者の比率増」「診療報酬臨時特例」によるところが大きいのは上述のとおりです。

病院の種類別に見てみると、やはり特定機能病院が最も高く、1件当たり8万3324.0点（前年に比べて2.1％増）・1日当たり8826.9点（同5.3％増）となっています。その他については、▼一般病院：1件当たり6万4073.2点（同1.2％増）・1日当たり5647.0点（同4.2％増）▼療養病床を有する病院：1件当たり5万7869.1点（同0.6％増）・1日当たり2731.8点（同2.5％増）▼精神科病院：1件当たり4万1894.7点（同2.6％増）・1日当たり1 78.5点（同3.2％増）—という状況です。重症患者対応を行う急性期病院で単価増が目立ちます。

またコロナ感染症の影響（予定手術の動向）を見るために、【手術】【麻酔】について点数の前年比（1件当たり）を見てみると、次のようになっています。

【手術】
▽特定機能病院：3.8％増（2021年→22年に比べて増加率は1.8ポイント減）
▽一般病院：1.9％増（同4.0ポイント減）
▽療養病床を有する病院：5.9％増（同0.2ポイント増）

【麻酔】
▽特定機能病院：2.0％増（同0.7ポイント減）
▽一般病院：1.9％増（同4.0ポイント減）
▽療養病床を有する病院：4.7％増（同0.6ポイント減）

手術・麻酔など点数増が鈍化しており、相当程度「病院での手術実施」が平時に戻ってきている状況が伺えます（急増フェイズが脱しつつある）。

病院・入院の1件当たり・1日当たり点数と1件当たり日数（2023年社会医療統計5　240627）

また、病院の入院外点数（医科）は、全体では、1件当たり2775.4点（前年に比べて4.1％増）、1日当たり1873.9点（同3.0％増）となりました。

病院種類別に見ると、次のような状況です。
▼特定機能病院：1件当たり5036.9点（前年比8.7％増）・1日当たり3724.9点（同7.7％増）▼一般病院：1件当たり2860.7点（同3.8％増）・1日当たり1977.8点（同2.8％増）▼療養病床を有する病院：1件当たり1896.2点（同0.4％増）・1日当たり1187.5点（同1.0％減）―などとなっています。

コロナ感染症支援策終了後に「外来患者の受診行動がどう変わり（あるいは変わらず）、外来点数（病院の外来収益）がどう変化するのか」注目していく必要があります。

病院・入院外の1件当たり・1日当たり点数と1件当たり日数（2023年社会医療統計6　240627）

DPC病院、手術の割合が高く、急性期度が高いことを再確認

さらに、DPC病院と非DPC病院とで比較を行ってみましょう（当然、医科入院が対象）。

1件当たり点数を見ると、DPC病院では6万9535.5点（前年に比べ0.4％増）、非DPC病院では5万1906.7点（同2.2％増）となりました。また、1日当たり点数は、DPCで7219.2点（同3.8％増）、非DPCでは2632.7点（同4.1％増）となりました。非DPC病院のほうが1件あたり点数・1日当たり点数ともに「伸び率」が大きくなっており、背景を探る必要があります。

診療行為の中でも【手術】（1件当たり）に注目すると、1件当たり点数は▼DPC：1万9480.1点（全体に占めるシェアは28.0％で、前年に比べて0.1ポイント増）▼非DPC：3766.1点（同7.3％で、同0.5ポイント増）—となりました。点数ベースで5.2倍の差（前年から0.4ポイント縮小）があり、DPC病院で急性期度が高いことを確認できます。

さらに、1件当たり日数は、DPCでは9.63日（前年から0.32日短縮）、非DPCでは19.72日（同0.35日短縮）となり、やはりDPC病院が「急性期医療を担っている」ことを確認できます。

DPCと非DPCとの比較（2023年社会医療統計7　240627）

75歳以上後期高齢者では「1件当たりの日数」が長いことが、依然、医療費高騰の主因

また0－74歳の一般医療と、75歳以上の後期高齢者医療を比較してみると、次のような違いが再確認されました。

【1件当たり点数】
▽入院：一般5万7857.2点（前年比1.3％増）、後期高齢者6万2336.9点（同1.8％増）
→後期高齢者が一般の1.08倍（前年より0.01ポイント拡大）
▽入院外：一般1350.1点（同1.1％減）、後期高齢者1812.6点（同2.2％増）
→後期高齢者が一般の1.34倍（前年から0.04ポイント拡大）

【1日当たり点数】
▽入院：一般4751.6点（同4.8％増）、後期高齢者3578.3点（同4.7％増）
→後期高齢者が一般の0.75倍（前年から変わらず）
▽入院外：一般966.5点（同1.5％減）、後期高齢者1094.1点（同1.9％増）
→後期高齢者が一般の1.13倍（前年から0.03ポイント拡大）

【1件当たり日数】
▽入院：一般12.18日（同0.42日短縮）、後期高齢者17.42日（同0.50日短縮）
→後期高齢者が一般の1.43倍（前年から0.01ポイント拡大）
▽入院外：一般1.40日（同0.01日延伸）、後期高齢者1.66日（同0.01日延伸）
→後期高齢者が一般の1.19倍（前年から増減なし）

高齢化の進展により、後期高齢者の医療費が増加。これに伴って医療保険財政（若人からの支援も含めて）が厳しくなっています。一般と後期高齢者を比較すると、単価の差は小さく（入院ではむしろ後期高齢者の方が小さい）、「1件当たり日数」が長いことが分かります。この点、コロナ禍でのために格差が広がっているのか、狭まっているのか」を厳密に評価することは依然として困難です。今後の動向を見ていくことが重要でしょう。

なお、入院について、診療行為別に一般と後期高齢者を比較すると、後期高齢者では一般に比べて▼【手術】【DPC】【麻酔】のシェアが小さい▼【リハビリ】【処置】【画像診断】のシェアが大きい―ことが再確認できます。改めて疾病構造や医療内容が一般と後期高齢者で相当異なっている状況が分かります。これを病院経営の視点で眺めると、高齢化が進行し、地域の患者構成が変化する中で、「注力すべき診療行為等」「整備すべき診療科や設備等」も変化していることを再認識する必要があります。